第2話 アイスは何派?


 風呂上がり、流行りのふわふわパジャマをきた間宮さんの可愛さは破壊力抜群である。ふわふわなのに短パンなの理解不能すぎて可愛い。

 危うく俺も同じブランドのもこもこにしようと言われたが一応阻止した。やっぱりスウェットの着心地は譲れない。


「悠介くんはシャーベットですよぉ」


「あざす」


 間宮さんはクリーム系の甘いアイス。俺はいつもシャーベットフルーツ系のさっぱりアイス。アイスの好みはあまり合わない俺たちだった。


「どうして悠介くんは甘いもの好きなのにアイスはシャーベットなんですか?」


 俺もなんでだかはわからない。


「多分、こっちの方が好きだからっすね」


 今俺が食べているのはオレンジシャーベッドだ。近くのコンビニで売っているお気に入りのやつ。オレンジのつぶつぶ果肉が入っていて氷が大きめなので歯ごたえもある。オレンジシロップは甘すぎずフルーティーでうまい。


 間宮さんが食べているのはクッキーアンドクリームだ。バニラアイスに砕いたオレオクッキーが混ざっていてクリーム系の中では少しビターなやつ。

 味が濃いめのポテチと一緒に食べると悪魔的に食べ続けられるやつだな。


「一口ください」


 俺は口角を上げて微笑んだ後に間宮さんにアイスを差し出す。間宮さんは「いただきます」と小さく言ったあと、俺のオレンジシャーベットをサクりとスプーンですくい、食べた。

 クリーム系を食べた口でシャーベットを食べたからか「すっぱいですね」と口をすぼめる。かわいい。


 こんな風に二人で並んでソファーに座りながらアイス食べているとか幸せだなと感じながら俺はシャーベットを食べる。

 

「んー」


 間宮さんはシャーベットを口の中で溶かしながら俺に自分のアイスを差し出す。俺は「遠慮しときます」と言って押し返す。

 

「らめです」


 口の中にまだシャーベットあるんですか?!

 と言いたくなるくらい可愛い噛み方をした間宮さんは自分のスプーンでアイスをすくうと俺の口に押し込んだ。

 ビターなクッキーと甘いバニラの味がじんわりと俺の口の中に広がる。びっくりして間宮さんの方を見てみると口の端っこに白く溶けたアイスがついていた。

 なんというか、子供っぽくもありながら大人っぽくもあるような? イケない妄想をかき消した俺は「美味しいっす」と間宮さんにお礼をいう。


「あ、俺なんでシャーベット派か思い出したっすね」


 間宮さんに無理やりアイスを食わされて俺は小さな頃の記憶が蘇った。小さい時、親にアイスをよく買ってもらっていたが欲張りな俺と兄貴はシャーベットもクリーム系も食べたかった。

 俺たちは知恵を出し合って考えた結果、別々のアイスを買って家に帰って半分こするというものだった。俺はシャーベット系を、兄貴はクリーム系を買ってもらい。食べる瞬間になって半分ずつ皿に出して食べていたのだ。

 今考えると味は混ざるし溶けるしで多分絶対やらないほうがよかったが、子供の頃は楽しかった。


「へぇ、昔から仲良しなんですねぇ」


「悪知恵が働いてただけっす」


 間宮さんはそんな俺の顔を見て首をかしげる。なんだろう? 確かに兄貴は陽キャで俺は陰キャ。他人であれば関わり合わないであろう人種だが兄弟であれば違う。間宮さんは一人っ子だったよな?


「悠介くん」


 真剣な顔で近づいてくる間宮さん。俺はすぐにソファーの端っこに追い詰められた。間宮さんはアイスを置いて四つん這いになるようにして俺に近づき、グイグイと顔の距離を詰める。

 すっぴんなのにこんなに明るい場所で近距離になってくる女子すげぇ……ってか肌綺麗だな……。


 ——ん?


 気がつけば間宮さんは俺の唇に唇を重ねてぺろりと舌で俺の口元についていてクッキーアンドクリームを舐めた。


「わぁ?!」


 間宮さんはびっくりする俺を面白がって笑いながら離れた。


「アイスついてましたよ〜」


 なんておどけてみせたが、とんでもない魔性の女である。イタズラっぽい笑顔を崩さずに間宮さんは次のアイスを口に入れる。

 俺もシャーベットが溶けないように負けじと口に入れる。さっきの甘さをかき消すように急ぎすぎて頭が痛くなる。


「——っ〜」


 声にならない声を上げる俺を見て間宮さんはお腹を抱えて笑う。あなたのせいですよと言いたい俺は我慢しながら歯を食いしばった。


***


 アイスお後片付けじゃんけんを見事に負けた俺はスプーンやらカップやらを洗っている。間宮さんはそんな俺にくっついたまま洗い物を眺めている。彼女の細い腕が俺のエプロンのポケットに入れられていてくすぐったい。


「次は〜、私がシャーベットで悠介くんが甘いのにしません?」


「えっ、まじっすか?」


「でも、嫌いじゃないでしょ?」


「いや、まぁ嫌いではないっすけど……慣れないなぁって」


 間宮さんは少しだけ悔しそうに


「私、お兄さんとの思い出にもヤキモチ妬いてます」


 と言った。可愛すぎる発言だが、子供の時みたいに皿にアイスを開けて食べるおはちょっとなぁ。いくら間宮さんでも。


「今日みたいに食べさせあいっこして……悠介くんがアイスをクリームとシャーベット交互に買う癖がついちゃうまでやります」


 俺はちょっとヤンデレみが湧いたなと思いながら「はい」と答えた。

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