お風呂の話
第1話 いつだって一緒がいいです!
間宮さんとの夕食を終えて俺はゆったりした時間を過ごしていた。同棲している俺たちのルールは基本的に平等。俺が間宮さんを優遇しようとすると彼女は理由を聞いてくる。俺はその理由を説明できなくて大抵のことがじゃんけんで決まる。
「ユリカちゃん、お風呂湧いたっすよ。じゃんけんしましょ」
いつも通り、一番風呂はどちらが入るかというじゃんけんである。俺としては全然間宮さんのあとでいいし、間宮さんには綺麗な湯船にゆっくり浸かってほしいと思っている。
でも、間宮さんは平等がいいというのでこうしてじゃんけんで決めるのである。
「あ、あの」
「どうしました?」
そうか。女子の日でお風呂には入りたくないからどうぞとかそういうことですかね?
男兄弟で育ち、彼女なんていなかった俺にとってはほとんど無縁だった女子の日。同棲していると結構なイベントである。間宮さんの体は結構辛そうだし、話を聞けば正直聞くのだって辛いほどである。
「えっと……」
間宮さんは言い出しにくいようだった。
かといって俺が聞くのもなぁ……。
「お風呂入りたくないっす?」
「入りたいです」
あ、入りたいのね。とはいえ、間宮さんなんだか様子がおかしいような?
俺はじっと間宮さんを見つめる。間宮さんは真っ赤になってなんだか様子がおかしかった。なんだろう。
「一緒……とかダメですか?」
パーンと俺の中の何かが弾けたように頭が真っ白になる。そりゃ、なんども体は重ねてきたし、それなりの関係を間宮さんとは作ってきているが、明るい場所でお互いを見るというのは初めてだと思う。
「えっと……うちの風呂狭いですし」
とりあえず俺は拒否してみる。風呂が狭いのは事実だし。やっぱり恥ずかしいし。例えば、ラブホテルみたいなこう……そういう雰囲気の場所ならまだしもあの浴室の明るい明かりの下で見られるのはちょっと。
筋トレしときゃよかった。
「えっ……付き合ってるのにダメなんですか」
間宮さんは食い下がる。俺の服の裾を両手で掴んで駄々っ子スタイルだ。こうなってしまったら間宮さんの希望を聞くしかない。多分、断れば泣かれるしあとあと面倒なことになるし……。
とはいえ、はずかしすぎませんか?
「えっと、恥ずかしいっす」
「いいじゃないですか、恥ずかしいのは私だって同じだし……」
間宮さんはジト目で俺を見る。確かに、女子の方が体型とか気にするし恥ずかしいよな……? いや、どちらかといえば女子力高いのは俺の方なんですけどね。
「大好きな人の背中流したいのがそんなんいけないんですかぁ!」
「わ、わかりました!」
俺の返事を聞いて間宮さんはにっこりと微笑むとさっきの悲しそうな表情なんてなかったかのように俺を浴室へと引っ張った。
***
ちゃぽん、お互いに足をたたんで湯船に浸かっている。二人でシャワーを浴びるのは至難の技だったがなんとかこなして、間宮さんと一緒に温まっている。
間宮さんは俺の背中を流せて満足なのかほっこり顔でぼーっとしていた。
「この入浴剤いいっすね」
俺は恥ずかしさから話題を作る。
「学生の頃からお気に入りのお店で買っていて……シトラスの香りです」
間宮さんは湯を手で掬うと自分の方にそっとかける。湯船の中のお湯が波紋になってゆらゆらと揺れる。お湯はそこまで熱くないのに俺自身もうのぼせそうだったし、早くこの状況を脱したい。
「えっと、俺はそろそろ上がりますね」
「えっ、もうですか。ダメですよ。ちゃんとあったまらないと」
間宮さんが俺の腕をぐっと掴んだ。
逃げられない……。俺は「あ、ハイ」と無抵抗で彼女に従う。裸で争うのもあれだし、ここはしたがっておいた方が吉だ。
「そうだ。おやすみが取れたら今度温泉につれていってください」
「温泉っすか?」
「はいっ。お肌プニプニになる温泉」
間宮さんは自分のほっぺをプニプニしてみせる。最強に可愛い。そもそもすっぴんでこんなに可愛いのはチートだし、髪の毛だって濡れてぺったりして、前髪も全開なのに……。どんだけ美人なんだよ。
「いいっすねぇ」
と返事をしつつ自分の忙しさでは難しいなと思う。代理店で働いていると広告の公開日が土日祝日であることがかなり多いし、そういった日に急な対応が出ることもある。間宮さんは同じ会社に勤めているが広報なので土日の仕事はイベント以外ないが……。
木内さんがもう少し育つか俺の下にがっつり仕事を任せられる部下ができればもう少しプライベートな時間を楽しめるような……?
「悠介くんはミルクといちごならどっちがいいですか?」
「唐突っすね」
「アイス買っておいたんです。一緒にお風呂上がりに食べたくって」
あまりにも間宮さんが可愛すぎる!
俺は彼女がいきなり一緒に風呂に入りたがった理由をずっと考えていた。風呂に入っても営みを求めてくるでもなく、イチャイチャするでもなく(イチャイチャはしたかもしれないが)
不思議に思っていたがそういうことか。別々に入ったらどっちかは体が覚めた状態でアイス食べなきゃいけないもんな。
「もっとお風呂が広くて……二人で入れるようなお部屋がいいです」
間宮さんがぎゅっとの腕を掴む。
同棲用の物件……か。
「か、考えますか……」
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