忙しい休日
第1話 美人彼女はかまってほしい
最近の俺にプライベートな時間がほとんどない。というのも、「偽物さん」としてカメグラでインフルエンサーをする俺に「レシピ本」を出す話が来て、それを俺は承諾することにしたのだ。
社会人をしていることもあって料理のブツ撮りは専門家に任せて俺はチェックするだけ。レシピの文章や作り方は俺と間宮さんで作成していた。
スタイルブックという形でもあるため普通のレシピ本よりも色々考えることが多い。
だから、こうして休日もパソコンに向かって作業をしている。
ラグの上に座ってソファーを背もたれにして集中する。すでにカメグラに乗せているレシピだけじゃなく、新しいアレンジレシピやらも追加しないといけない。
正直、この仕事が舞い込んで来たのは俺の人生で一度あるかないかの大チャンスだ。将来は社畜じゃなくフリーに働いてみるのもいいと思ってるし。今はそんな余裕も度胸もないけれど……。
「悠介くーん、まだですかぁ」
ソファーに寝転がって俺の背中をツンツンする間宮さんは不満げだ。せっかくの休日なのに俺はずっとパソコンをカタカタしているし、耳にはイヤホンをつけている。
間宮さんは耳元で大きな声を出してみたり、こうして俺の背中に「すき」と書いてくすぐってみたり、とにかく餌が欲しい猫みたいな行動を繰り返していた。
「もうちょっと……月曜になる前に送っちゃいたくて」
「むぅ……」
駄々っ子間宮さんは俺の背中をぽこぽこと叩いた。痛くないけど、心は痛む。俺も正直一緒に料理したりデートしたりしたいけれど、ちょっとこっちも頑張りたいんだ。
間宮さんは俺の肩越しにパソコンの画面を眺める。
「あっ、新しいレシピですか?」
「はい、疲れた時の簡単ズボラに作れるけどちょっぴりオシャレな男飯です」
やっぱり男だってオシャレな飯にはテンションが上がる。カップ麺だって器を変えればいいもん食べてる気分になるし、筋肉のためにタンパク質が多くカロリーが低いささみをオシャレに調理すれば腹だけじゃなく気持ちも満たされる。
「ツナ缶ですかぁ」
「そう、ツナ缶は最強ですからね、ユリカちゃんは食べます?」
「うーん、ツナマヨおにぎりくらいかなぁ」
「ツナマヨおにぎりは電子レンジであっためて、玄米茶をぶっかけて食べるのがオススメです」
「へ?」
間宮さんはぽかんとした表情で俺をみる。可愛い。
俺はスマホを取り出して、ツナマヨおにぎりで作ったお茶漬けの写真を見せる。三角のコンビニおにぎりがほっかほかでお酒の締めにもぴったりなお茶漬けに早変わりだ。ツナマヨから出た油をさっぱり香ばしい玄米茶と醤油が中和してさらっと食べられる。
「今度やってみましょう!」
「ぜひ」
「ところで悠介くん、悠介くん」
間宮さんは俺にソファーの上に座るようポンポンと自分の隣を叩いた。俺はなんだろうと思いながらも彼女のいう通りソファーに座る。
すると間宮さんはソファーの上に正座して、少し恥ずかしそうな顔で俺を見つめる。
「提案があります」
なんだろう?
一緒にコンビニにツナマヨを買いに行くとか? いや、もはやツナマヨおにぎりから作りたいとか?
「は、はい。なんすかね?」
「私、このままだとずーっとこうやって悠介君のお仕事の邪魔しちゃいます」
可愛いけどそれはちょっと困る。間宮さんって趣味とかあんまりないみたいだし、俺といるときは大体俺にベッタリだからなぁ……うーん。
「は、はぁ……」
「だから、ご提案なんですよ」
「なんすかね?」
「イチャイチャ……しませんか? あっちで」
間宮さんは真っ赤になって顔をふせながら指差した。その先にはベッドがある。
——?!?!?!
「ま、まだ昼間っすよ???」
困惑する俺に間宮さんは畳み掛ける。ぐいっと前のめりになって唇がくっつくんじゃないかってくらい近づいて、もうどうにでもなれとやけっぱちみたいに、
「きっと、悠介くんが私を疲れさせてくれたらぐっすりお昼寝……しちゃう……から。そしたら……お仕事の邪魔できない……でしょ?」
恥じらいながら、間宮さんはなんども瞬きをする。俺は嬉しいやら興奮やら、理性やらでパニックになる。
何も言えないでいる俺に間宮さんは
「——ダメ……かな?」
***
すぅすぅと静かな寝息をBGMに俺はレシピ本の原稿を作る。ベッドを背もたれにして床に座り、パソコンは膝の上。間宮さんが眠る前に
「仕事してもいいけど側にいて欲しい」
と駄々をこねたのだ。そんな風に可愛くおねだりされたらそうしない男はいないだろう。むしろ、一緒に眠らずにここで仕事してる俺、偉いぞ。
昼寝……か。
「あんまり昼寝すると寝られなくなるよなぁ……ってこれ」
俺は今夜、全然眠くならない間宮さんと、眠くて仕方がない俺を想像する。うとうとしたらいたずらされてを繰り返し、睡眠のリズムが合わないと結構大変なんじゃないか?
俺はもう一度パソコンを眺める。
結構きりがいいところまでできた。あとは写真のチェックをするだけ、明日の朝一でも可能だ。
「俺も昼寝しとくか……」
俺はそっと間宮さんを起こさないように隣に入る。暖かくてすぐに眠りに落ちてしまいそうだった。
「悠介……くん。おかえ……り」
眠そうに目を閉じたまま俺の腕の中に間宮さんがすっぽりとおさまって、すぐにまた寝息をたて始める。
俺は眠りに落ちる前に「アラームかけとくんだった」と後悔したがもう遅かった。
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