第2話 間宮さんとキャンプ!!
「悠介はてっきり孤独死するもんだと思ってたのよ」
とクッソ失礼な物言いをする俺の母親は間宮さんの手をぎゅっと握ると「ありがとうね」と半泣きだった。まぁ、ただ同棲してますって報告なんですが……えっと、はい。
親父の方はただニコニコとしているだけだった。
「ユリカさん……全く頼りにならない息子だけどよろしくね」
「は、はいっ!」
緊張している間宮さんはお袋に勧められて寿司を食った。こんな山の中に寿司……? あぁ、俺が「彼女を連れていく」とか連絡したから朝っぱらから買いに行かされたな。
「職場の関係だっけ?」
親父がやっと喋った。
「そう、ユリカさんが広報で俺がまぁほらやってんだろ。カメグラ、あれの関係で一緒に仕事してて……」
「ほぉん」
間宮さんはニコニコしながら話を聞いている。一応、間宮さんのご両親については共有してあって、結構グイグイのお袋が変なこと言わないか気にしたが大丈夫っぽい。
世間では嫁姑なんてトラブルがありがちだが、うちのお袋の場合あんまり家庭に入っていた人間じゃないからそういういざこざには興味がないらしい。
マリコさんの時もそうだったが「家を継ぐとか無理に考えないでほしい。マリコさんは本当に仕事を辞めて兄貴の店を手伝って後悔しないか?」と聞いていたのをよく覚えている。
「悠介が変なこと言いだしたらすぐに母さんに相談しなさいね」
「うぅ……ありがとうございます」
「悠介、今日泊まってくのか? バンガローは空いてねぇぞ」
「いや、今日はテント借りてく。あと、食堂から食材もらってくわ」
間宮さんは何やらお袋と話している。なんだろう、俺は親父と一緒に1階の食堂厨房へと向かう。綺麗な厨房だ。元料理人だからかやっぱり調理道具が綺麗に手入れされている。
「いい子だな。ユリカさん」
「まぁね」
親父は今日の営業に支障がない野菜をいくつかビニール袋に入れていく。ジャガイモ、栗、りんごにパンか。
「血は争えないなぁ……。若い時の母さんにそっくりだぞ。可愛い顔して多分結婚したら尻に敷かれるな。にいちゃんも同じだろうが」
まぁ、マリコさんは小さい頃から強い女バリバリだったけどな。俺は学年が違えどマリコさんとは幼馴染で何度か怒られたことがある。
「親父、カレーもらってっていい?」
親父は大きな寸胴鍋の蓋を開ける。量を見ながら「いいぞ」とタッパーを俺に投げてよこした。
***
「やあっと! 終わりました!」
間宮さんとキャンプ場に出た俺は、ちょっと山を登ってひらけたところにテントを張ることにした。多分、ここら辺だったはず。
というか、森ガール風の間宮さんがとんでもなくかわいい。今日バンガローにファミリーが何組かきていたくらいで客自体は少ない。これなら水場もあんまり混まないだろう。
「素敵なご両親ですね」
焚き火で沸かしたお湯をつかったコーヒーをお揃いのアウトドアマグカップで飲む。俺たちはほとんどペアルックだし、なんかカップルって感じだなぁ。
「すいません、結構年なんで……失礼なこと言ったかもですが気にしないでください」
間宮さんはずずっとコーヒーをすすって、熱かったのかぎゅっと目を閉じた。そして可愛らしくふーふーする。
「嬉しかったです。えっと……私たちのことお母さんとお父さんだと思っていいって。言ってくれたんです」
間宮さんは真っ赤になると誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。お袋も意外といいこと言うじゃんか。
「あと……お婿さんについても了承していただきました!」
え? 俺も親父もいないところで????
まじでお袋はやっぱりイかれてやがる。まぁうちは基本親父の意見は封殺だからしゃーないけども、俺は? 俺は??
なんだか満足げな間宮さんを見てると、さっき親父が言っていたことがわからなくもないと思った。もしかしたらお袋もこんな感じだったのかもなぁ……。まぁ美人さでいえば間宮さんの方が上だし、間宮さんの方がかわいいけど!
「え、あ……はい」
「いいですねぇ、緑が豊かで〜。都会に住んでると感じられない香りです」
間宮さんはお婿さんについて喋り終わると満足したのかコーヒーを片手に歩き回った。静かな山の中で見渡す限り緑。ちょっと涼しくて空気が澄んでる。確かに、東京にずっと澄んでいた両親がここを選ぶのは納得がいく。心が落ち着く。
「そろそろ夕飯の準備しますか」
親父が分けてくれたじゃがいもは皮まで食える新じゃが。しかも洗ってあるのをいいことに俺はもうメニューを決めていた。
小さなテーブルを広げて、その上にちょっとおしゃれなクロスをかける。間宮さんはウキウキしながら俺の料理を見守っていた。
小さめのダッチオーブンの中にバターを塗り、皮ごとスライスしたジャガイモをしく。その上に親父特製のカレー、モッツァレラチーズ。
繰り返すようにジャガイモスライス、アクセントにナススライス。カレー、チーズ。一番上はチーズたっぷりで。火にかける。
本当はバーナーがあればいいんだけどまぁ、それはいいだろう。
「カレーのいい香りですねぇ」
「はい、親父の幻のカレーを使った焼きカレーです。えっと、パンは網で軽く炙って食べましょうか。スティック状の方が食べやすいんで切れます?」
間宮さんは「はいっ!」と返事をする。
俺は刻んだりんごと刻んだ栗にシナモンと黒砂糖をまぶしてよく和える。それをホイルに包んでスキレットに乗せると弱火に調整した焚き火の上に乗せる。その上からスキレットカバーを被せる。10分たったら水を少し入れて蒸すか。
「それはなんですか?」
「これはデザートっす。りんごと栗のホイル焼きっすね。シナモンシュガーなんで甘すぎなくて美味しいはずです」
「楽しみですっ!」
と、いいながら間宮さんはパンをつまみ食いして子供みたいな表情で笑った。
クツクツと焼きカレーとチーズの香りが漂う。親父のカレー久々に食うけどめっちゃうまそう。絶対に俺には出せない味だし、絶対に教えてくれないから腹は立つがしかたないか。
「間宮さん、パン。ありがとうございます」
間宮さんがテーブルにパンを置いてくれる、俺は鍋敷きをテーブルの真ん中に置いて、ミトンを手に取りダッチオーブンの蓋を開ける。とろとろのチーズとカレーが今にも溢れ出しそうだ。とんでもなく美味そう。
「わぁぁ!」
間宮さんは目を輝かせると大きなスプーンで焼きカレーを取り分ける。ミルフィーユにしたジャガイモやモッツァレラチーズがいい感じに柔らかくなっていて食べ応えも抜群。
「あっ、まってください。悠介さん」
間宮さんは焼きカレーを食べようとした俺を止めると、間宮さん自身が手にしていたスプーンに焼きカレーを掬って可愛らしくふーふーする。
——これはまさか
「はい、あーん」
誰もいない山の中だから俺は抵抗せず口を開けた。かなり熱い焼きカレーが口内に突っ込まれる。懐かしい親父のカレーの味。熱いからか恥ずかしいからか顔面がポカポカしてくる。
「んっ、おいひいです」
間宮さんは照れている俺をよそに、一口だけ俺にあーんした後、焼きカレーを食べだした。
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