第58話 初めての……OTOMARI!(甘々注意!)
「はい?!」
「だから、同棲は今日からです」
間宮さんがおかしなことを言うので俺はむせる。大根おろしと薬味が鼻の方に通ってしまい、辛いやら苦しいやらで顔面が爆発しそうだった。
付き合うからの同棲からの初お泊まりですか? 成人男性にはちょっと刺激が強すぎませんか???
「だって、悠介さん。のらりくらりってかわすかもだし。今日からここに住みます」
いーや、怖っ!
間宮さんはびた一文も譲らないと顎をあげる。待って、待って、付き合うって決まってから強引すぎませんか?
「ゆ、ユリカさん? ちょっと、あの……」
「悠介さんは私がお泊まりするの嫌だっていうんですか?」
はい、きました殺人ワード。これを「嫌だ」なんて答えられるわけないじゃないっすか。つい2分前に「あなたが好きです」と告白したんだぞ? 俺は。
「いや、嫌なわけないじゃないっすか」
「じゃあ、決定ですよ」
勝ち誇ったように笑うと間宮さんは「お肉煮えすぎちゃいますよ」と言った。そういう問題じゃねぇ……。
俺は肉を食べながらよからぬ妄想をする。だって、カップルがお泊まりと言ったらそういうことですよね???
俺も一応男なんで……そのはい。
「そうだ、悠介さん。結婚したら子供はいつ頃にしたいとかありますか?」
——ぶごっ!
俺はまたむせる。今回の肉は溶き卵につけて食ってよかった!! 間宮さん絶対俺の反応見て楽しんでるでしょ。
そう思って俺は彼女の顔を見てみる。
「——っ」
思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。俺の視界に入った間宮さんは真っ赤になって恥ずかしそうに目線をそらしていた。
いや、そりゃ……そうか。
「えっと、結婚はそんなすぐにするんじゃなくて、やっぱり準備とか……その」
さっきまで恥じらっていた間宮さんはみるみるうちにふくれっ面になる。情緒不安定か!
いやいや、そんなことよりも俺……女性とそういうことになる準備全くできてませんけど?
モテない男子である俺はそもそも恋人なんてできたことないわけだし、大学生の頃、友人とそういうお店に行ったので経験自体はあるものの……。
一生彼女なんてできないと思ってたしなぁ。
「悠介さん、なにぼやっとしてるんですかあ?」
それは煽りですかぁ?
と言い返したくなるのを抑えながら「すんません」と俺は苦笑いする。よく考えろ、藤城悠介。今夜は一世一代の大チャンスだろう。ひるむんじゃねぇ!
間宮さんと俺は食事を終えた後に「洗い物ジャンケン」を決行した。負けは間宮さん。正直、俺は絶対に勝たねばならなかった。彼女が洗い物している間に必要物資を買いに行かねばならなかったのだ。
と言うわけでコンビニ帰りの俺は、マンションの外で一服。心を落ち着けていた。必要物資の他にも、間宮さんが好きなお菓子と明日の朝ごはんにする納豆。それから歯ブラシにメイク落とし。
——本当に彼女できたんだなぁ。
というか同棲だし。管理会社に連絡しないとな。あと、鍵か。
間宮さんがいないと冷静になれる俺は今のうちに必要になりそうな物事をスマホでメモする。
さて……藤城悠介、出陣。
間宮さんに洗顔だのメイク落としだのを渡す。間宮さんはぺこりと可愛らしく頭を下げると「お先にいただきます!」とバスルームに入って行った。
俺は必要物資をベッドのそばに置いて、それからソワソワを隠すためにテレビをつけた。期待したいけどやっぱり怖い気もする。
結局俺は何本かタバコを吸った。風呂で歯磨きすればいいや。
間宮さんがドライヤーを使う音がする。俺は間宮さんの家にあるやつか、女の子の髪にいいイオンのでるやつにしなきゃな、なんてナチュラルに考える。
夢にも見たことがなかった同棲なんていう状況と、多分日本でもトップの男たちが欲しがるような高スペックな女子。
彼女が選んだのは、陰キャで冴えない俺。
「悠介さんーどーぞ!」
俺に声をかけてきた間宮さんを見て、俺は声を出すことができなかった。
風呂上がりの間宮さんは俺の一番綺麗なスウェットを着ていて、ブカブカの状態が最高に可愛い。
それに、すっぴんのはずなのにまるですっぴんじゃないみたいに綺麗だ。ちょっと幼くなってる……?
というか、間宮さんって猫目の印象だったがすっぴんだとタレ目のタヌキ顔なんだな……。
「あっ、すっぴん可愛くなかったですかっ」
間宮さんはぱっと顔を隠すように手で覆うとキャピキャピと騒いだ。
「いや、その綺麗っす」
「はやく悠介さんもすっぴんになってきてください(?)」
間宮さんは照れているのかわけのわからないことを口走ると俺の背中をかなり強めに押した。
***
間宮さんと少しテレビを見た後、俺は彼女の言いつけで「寝る前は歯ブラシですよ!」と歯磨きをさせられ、ベッドに連行された。
タイミング……タイミング。
「ゆ、ユリカさん」
「私、悠介さんの彼女です」
「わかってます」
「ところで、悠介さんは初めてですよね?」
いや!?
なんすかそのムードもクソもない質問は。しかもジト目でこっちを見つめている間宮さん。これはどっちが正解なんだ……?
「えっと、彼女とするのはその……初めてです」
「じゃあ、その他はあるんですか。どんな女ですか」
こわっ……。
釈明しないと!
「えっと、プロの方です」
「悠介さん最低っ!」
いや、ご機嫌損ねるんかいっ! なら聞かないでおくれ……。
今日は諦めるか……同棲するんだし今度ムード作ってからでも……いいよな? もしかしてこんなことでフラれたりする?
「今日でその女性は忘れてください……」
迫ってくる間宮さんを俺はなんとか受けとめて、初めての同棲カップルに訪れた夜は更けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます