8 結論は最初に!釣りはほとほどにせよ!

第50話 突然のモテ期と間宮さんの調子が悪い件


「藤城さん、最終チェックお願いします」


「いいっすね。インターンの子たちもシフト管理はお願いします。えっと、専門学校の方には連絡つきました?」


 木内さんの資料は死ぬほど見やすい。インターンの子たちはカメグラサークルに所属する女子大生やキラキラ系大学のサークルを束ねているサークル長。

 即戦力になりそうなのはその辺だ。


「はい、えっと学校の方に対象者の募集を貼ってくれているみたいです」


「じゃあ後は待ちっすね」


「はい、そうだ。藤城さん、サテライトオフィスの席順もお送りしたのでご確認を、私はこのあとインターンの子たちのスケジュール調整して……えっとアレだ。営業さんからの引き継ぎのリスト出すのと、デザイナーさんと軽くコミュニケーション取っておきたい案件があって」


 集中スペースに向かうようだ。まぁ木内さんならうまくやるだろう。それに、俺の方もやることが多過ぎる。営業め……カメグラの案件をブンブンこっちに振ってきやがって。

 こっちは新設で社員2人、インターンばっかで回すんだぞ。しかも、カメグラの案件はCMや動画広告なんかに比べたら少額だし、CMキャラクター契約のおまけみたいなところがあるから数字もでないし……。

 

【(間宮)悠介さーん、ヘルプですぅ】

 

 間宮さんからのチャットの通知が鳴る。ちょっと待ってくれ、手が空いてない。俺は電話で取引先と電話をしながら間宮さんに返事を返す。

 

【(俺)ちょっと待ってくださいね! すぐ戻ります】


 というのも俺は木内さんの隣の席に勝手に座って最近は仕事をしている。この席はもともと青木凛の席だったが、彼女はあのいじめ事件で退社していた。そのおかげで空席になっており、木内さんとお仕事を進めることになった俺はここでよく仕事をしている。

 なので、まぁ間宮さんの話を聞くためにはもともとの自分の席に戻らないと。


「はい、かしこまりました。来週、弊社のサテライトオフィスがオープンいたしますのでよろしければお話お伺いしてもよろしいでしょうか? はい、アシスタントの木内よりご連絡いたしますね」


 敬語は大丈夫だろうか。社内エンジニアとしてとしか働いたことがないから、全く自信がない。新卒研修で一通りやっていたが……うーん。

 でも、間宮さんと関わるようになって、陽キャな人とも抵抗なく話せるようになってきていた。

 あぁ、メールかえさないと……。


「すんません、お待たせしました!」


 間宮さんの隣に戻ると俺は勢いよく謝った。電話の後メールに少し時間をかけすぎてしまった。先にチャットで要件を聞いておくべきだった。


「藤城……さん、私、やっちゃいました」


 顔を上げた間宮さんの頰には涙が流れた後があり、彼女の目はほんのりと充血し、いつもつけているカラーコンタクトも取れてしまったのか裸眼だ。

 

「えっと……どうしたんすか?」


 職場で相談してくるってことは仕事の話だろう。泣いてるってことは多分ミスしたとか……?

 間宮さんはパソコンをぐるりと俺の方に向けて見せてくれた。メールの文面のようだ。メールの分に目を通す。


【弊社にてこのような案件はございませんが、お間違えではないでしょうか】


 あぁー、これはまずいぞ。

 間宮さん「ヘルプです!」とか言ってる場合じゃない。これは重大なインシデントである。いわば、情報漏洩だ。

 俺は間宮さんを落ち着かせた後、状況を説明して激務で死にかけの三島部長に相談することとなった。


***


 間宮さんは会社から世間に公表する情報(主に新規部署に関してだが)を会社情報を主に取り扱っているHPを運営する制作会社にメールする予定だった。

 しかし、何を間違えたのか間宮さんはそのメールを別の取引企業に送ってしまったそうだ。


 こってりと絞られたあと、間宮さんは反省文を書くことになった。俺は彼女が心配でデスクに張り付いていたかったが、新規部署でやり取りをするカメグラ専門のモデル事務所に挨拶まわりがあったため外出。

 はじめて、この昇進を受けたことを後悔した。


「そういえば、藤城さんって間宮さんとお付き合いされてるんですか?」


 木内さんはたくさんの手土産を抱えながら「よいしょ」とタクシーに乗り込んだ。モデルさんを抱えている事務所だし、映えそうな手土産をと提案したのは木内さんだがとてもセンスがいい。

 流行りのヴィーガンスイーツ。低カロリーでおしゃれで環境を意識している人たちへの好感度も高い。


「えっと、まぁ、まだ恋人ではないですけど……どうしてですか?」


 木内さんは「そっかぁ」と肩を下げる。


「じゃあ、恋人になる前提ってことですよね?」


 木内さん?!

 それ今関係ありますか?

 ドギマギする俺に木内さんは言った。


「私、藤城さんのこと入社当時から好きだなって思ってたんです。気が合いそうだなって思ってたし。でも、私も藤城さんも内気でしょ? だから、全然接点なくて」


 俺はなんと言っていいかわからないし、そもそもタクシーの運転手さんに

ガチガチに聞かれてるしで言葉が見つからない。

 木内さんって大人しい感じの子だと思っているが結構大胆だったりするようだ。


「私の方が早く好きになったのになぁ……。あ、でも仕事はちゃんとするし、色仕掛けとかそういうんじゃないから安心してくださいね」


 木内さんは冗談っぽく笑った。

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