7 不得意を武器にせよ!

第45話 同僚以上恋人未満


「ままま……間宮さん?」


 ぎゅっと締められる俺の体。間宮さんは俺の背中に顔を押し当てて何も言わなくなってしまった。一体俺のどんな言葉が間宮さんを動かしたのかはわからない。けど……


「えっと……嬉しいです(?)」


 俺の返答に間宮さんはパッと腕を離してしまう。やっぱキモかったよな?


「こっち向いてください」


 俺はホラー映画ばりにゆっくり振り返る。こういう時どんな顔をすればいい? 普通の男子はどうする? 

 ——俺はどうする?


「藤城さん、わかってます。私みたいな女の子はきっと苦手だって……でも私、藤城さんに救われて、いっぱいいっぱい笑わせてもらって……だからそのもっとそばに居たいんです」


 やばいぞ……、そのままだと


「間宮さん」


 俺は告白しそうな彼女の言葉を遮って勇気をだして間宮さんの目を見つめた。間宮さんは涙目になっていて、触れてしまったら今にも壊れてしまいそうだった。止めては見たもののなんと言えばいいだろうか。

 自分の気持ちを


「俺は、嬉しいです。好きだなんて女の人に言われたのは……多分始めてでしかもそれが間宮さんみたいな素敵な人で嬉しいです」


 間宮さんは文脈をつかんだのかきゅっと口をつぐんだ。


「でも、俺自身が間宮さんの全部を好きになっているかどうかがわかんないっす。間宮さんがどんな子で、どんな考えの人なのか……どういう暮らしを送ってきたのか。このままじゃ俺、間宮さんの顔がいいから付き合うっていう男と一緒になってしまう気がして……」


 思っていることをそのまんま伝えるのは本当に難しい。

 大切にしたいのに傷つけてしまう気がして、でも、大切だからこそ嘘をつきたくないと思った。

 間宮さんは俺の話を聞いてゆっくりと瞬きをする。


「やっぱり……藤城さんは藤城さんだ……」


 あぁ〜泣くよなぁ……って、ええ?!

 間宮さんは花の咲く様な笑顔になると再度俺に抱きついてくる。もう抱きつくのは慣れてしまったらしい。くすぐったい。


「ままま、間宮さん?」


「藤城さん、私と結婚を前提でお友達になってくださいませんか?」


 ——???


 困惑している俺をみて間宮さんは抱きついたまま話を続けた。


「私、この顔のせいで人を信用できなくて……みんな私の顔がいいから付き合いたいってそういう人ばっかりだったんです。でも藤城さんは違った。ちゃんと私の中身を見たいって向き合ってくれた」


 お、おぉ……なんとなく全貌は見えてきたけど


「えっと、交際を前提に友達になるんじゃなくてですか?」


 俺の質問に間宮さんは抱きついた状態のままで俺を見上げるとぷくっと頬を膨らませた。殺人的に可愛い。


「ダメです! お友達から交際したら結婚するんです!」


「ア、ハイ」


「わかったならよし!」


 間宮さんは背伸びして触れるだけのキスをするとパッと離れていたずらに微笑んだ。


「カルボナーラ、楽しみにしてます」


 こうして俺と間宮さんは「交際前提」でお友達になった。多分、他の女の子ならぶっ飛ばされてたんだろうけど、俺の回答はなぜか間宮さんにぶっ刺さった。よかったのか悪かったのか……。


 ——よかったな


 友達から恋人になるときは俺が告白するんだ。多分、男の子だし……ほとんど100%の勝負にいけないなんて流石に情けないし。

 これからは「かわいい間宮さん」じゃなくて「間宮さん」がどんな子なのかしっかりと向き合っていくべきだろう。

 せっかくもらった猶予を絶対に無駄にしてはならない。


「あっ、藤城さん」


「どうしました?」


「マリコさんのお誕生日がもうすぐなんですけど……何がお好きかとかって知ってます? アドバイスほしいです!」


 どうやら俺はとんでもなく外堀を埋められてもう身動きが取れない状態なのかもしれない。間宮さんは俺を首まで埋めた上で猶予を与えているのかも……?


***


 がらり、と今までの生活が変わった。間宮さんと職場で話すときもランチを食べるときもなんというか世界が明るくなったみたいに楽しかった。

 間宮さんはいろんなことを話してくれたし、彼女はなんというか……すごく接しやすい人だ。


「藤城さん、この後ミーティングになってますけど何かあるんですか?」


 間宮さんは俺のスケジュール管理を勝手にしている。なんでも「好きな人の日程は把握したい!」とかいうポジティブストーカー的なあれだ。


「いや、内容はまだっすね。でも三島部長と社長なんでまぁ新しいプロジェクトとかそんなんじゃないっすか?」


「じゃあ、ランチは私1人で行くので藤城さんもちゃんと食べてくださいよ」


 間宮さんは財布を持ってオフィスを出て行った。友達から〜なんて言っていたがもうほとんど俺たちは恋人だった。

 まぁ、別に社内恋愛がダメなわけじゃないしなんというか社内でももう間宮さんが俺にアピールしてるってのは公然の事実になりつつあったし。


「藤城くん、今日はちょっと今後のことで相談があってさ」


 三島部長は社長の前で緊張しているのか小さめの声だった。


「はい、なんでしょう?」


「まず、間宮の教育の件本当に助かった。ありがとう」


 社長はわかりやすく「偉い人」な拍手をする。俺は軽く会釈と笑顔で対応した。


「でだ、今回、藤城には昇進してもらおうと思うんだ」


 と社長が言った途端、三島部長が浮かれない顔をする。いやー、なんか嫌な予感。


「藤城には今度、新設されるカメグラマーケ部の部長となってもらおうと思ってる。開発部門は今いるメンバーと派遣さんに頼んで、藤城にはそっちに行ってもらいたいんだ」


 社長は一枚の紙を俺の前に置く。雇用契約書だがまぁ金額をみてびっくりたまげた。


「藤城はまだ25だろ? プログラマーとしてもいいがこっちのキャリアでマネージメント経験も積んで見ないか。それに、新しい部署は今度新しくできる複合施設付きビルのオフィスフロアだ。ほら、サテライトオフィスってやつ」


 サテライトオフィス?!

 よく見りゃ都心のおしゃれ企業が集まる超有名なビルじゃん。駅から雨に濡れないで行けるし……今は改装中だっけ?


「ってわけだ。とりあえず、3期からになるから他言無用で。よろしくな」


 社長は言いたいことを言うとMTG室を後にした。三島部長と目があって「うちの部署、藤城くんがいないとまわんないよぉ」と言われる。

 すごく魅力的なポジションだ。でも、俺に務まるんだろうか……?


「最近、席替えの話がなくなったと思ったらサテライトオフィスだってさぁ。景気がいいねぇ」


「一本行きますか」


「そうしよ、そうしよ」


 三島部長を連れて俺は喫煙室へ向かった。

 でも……じゃあ来月から俺は間宮さんと仕事ができなくなるのか……。

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