間宮さん視点 鉄壁の牙城を崩せ!
第43話 外堀は深く掘ってから埋めるべし!
藤城さんは女の子にモテる。最近、マーケティング課の木内さんと仲がいいみたいだ。木内さんは藤城さんの同期でおとなしい感じの子。いかにも男の子が好きそうな黒髪ロングだし……藤城さんが好きそうなゲームとかそういうのが好きって感じだ。
木内さんも藤城さんにアタックしてるのかな……。
あんなに楽しそうに笑ってる藤城さん。私の前ではしてくれないのに……。
「どうしたんすか?」
私がじっと見つめてみれば藤城さんは私の仕事の心配をしてくれる。
「あはは〜、また間宮さんったら」
私がアピールして見ても藤城さんは苦笑いと照れ笑いで、すんっとかわしてしまう。やっぱり、藤城さんって私のこと「俺には似合わない陽キャのビッチ!」って思ってるのかもしれない。
そりゃ? ミスコンに出る様な女の子ってあんまりいい印象がないのは事実だろうし、自称「陰キャ」の藤城さんは私みたいな女の子に嫌な思い出があるのかもしれない。
——どうしたら、振り向いてもらえるんだろう?
私は会社の中で一人部署だから仲の良い女の子なんていないし、それに恋愛なんて本当に……こんなに人を好きになったのは初めてだから怖くてどうして良いかわからない。
私はそんな思いを抱えながら仕事と向き合うことにした。会社広報、1人のインフルエンサーとして広報活動をする私は常に「伝えたい事ではなく伝えたい相手のことを考える」ことをモットーにしている。
というか、そういう風に藤城さんからアドバイスしてもらった。
「そっか!」
私はスマホでスイスイとお店の予約ページを見る。おひとり様ならいけそうじゃん!
***
「あら? 今日はお一人?」
マリコさんは藤城さんのお兄さんの奥さんだ。とっても綺麗な人で……なんというか大人の色気と余裕が漂っている。
「はいっ、少しお聞きしたいことがありまして……」
「ふふふ、そうだなぁ……今日、この後は予約が少ないからいいわよ」
マリコさんは艶やかに微笑むと私のオーダーをメモする。オマールエビのドリアとオニオングラタンスープ。チーズぎっしりのメニューは疲れた体を癒してくれるはず。
サービスのサラダは藤城さんのお兄さん特製のフレンチドレッシング。甘くて酸っぱくて懐かしい味がした。
「で、何を聞きたいの?」
「私……藤城……えっとみんな藤城さんですね。えっと悠介さんの好みが知りたくてっ」
マリコさんは「まぁ」と驚いた様子で目をパチクリさせ、私の声を聞いて厨房からお兄さんがすっ飛んできた。
そして「赤飯たかねぇと!」と全く洋食店とは思えない言葉を口にしてお兄さんはマリコさんに小突かれる。
「へぇ、弁当をねぇ」
お客さんも私しかいなくなり、お兄さんとマリコさんは私と並んでカウンター席に座ると2人して顎に手を当てる。似た者夫婦というかとってもお似合いの夫婦で私は羨ましいなと思う。
「手作りならなんでも喜びそうよねぇ? ゆうちゃんって単純だし」
マリコさんは藤城兄弟の幼馴染だそうだ。確か、元大手商社のキャリアウーマン。今は旦那さんのために仕事をやめてソムリエとしてこのお店を経営している。私なんかよりもずっとずっと素敵な女性だ。
「でも、私料理苦手で……」
マリコさんは少し眉を下げるとお兄さんの方を見た。お兄さんは「うーん」と目を閉じながら何やら思い出したい! でも思い出せない! ともがいている。お兄さんは藤城さんには似ていない。なんていうかクラスで言えば1軍タイプの明るい男の子風。
藤城さんとは真逆の明るい雰囲気を持っている人だ。
「やっぱり、お料理勉強してからの方がいいですかねぇ」
「あっ!!」
あまりにもお兄さんが大きな声を出すのでマリコさんが「きゃっ」と椅子から転げ落ちそうになり、私もお尻が浮くほど飛び上がった。
「もぉ、うるさいなぁ」
ぽかっと叩かれるお兄さん。
「間宮さん、お料理下手ならいい案があるぞ!」
「失礼ね!」
ばしっ! マリコさんがお兄さんの肩をパンチして私に「ごめんねぇ、この人すぐ口から気持ちが出ちゃうおばかなのよ」と言った。お兄さんはそんなのお構いなしで店のメモ帳に何やら絵を描き出した。
私とマリコさんはそれを眺める。四角い枠の中に丸や四角が書き込まれて……これは!
「じゃじゃーん! うちのお袋特製失敗弁当!」
——失敗弁当?
マリコさんも「それがあったわねぇ」と苦笑いした。
「俺と悠介はさ、元料理人の親父のうまい飯で育ったんだ。お袋はキャリアウーマンでそもそも料理なんか苦手で作れなかったんだけどさ。遠足とか、運動会とか俺らの特別な日はお袋がこーんな感じの弁当を作ってくれたんだ。俺たちはお袋が早起きして一生懸命作ってくれるのが嬉しくて、まずくてもぜってぇ残さず食って帰ってさ。しかもメニューは絶対これだったんだ」
からあげ、卵焼き、タコさんウインナー。
「世界一簡単な混ぜご飯……?」
マリコさんが「懐かしい〜」と手を叩いた。
「かつおぶしと粉々にした海苔をご飯に混ぜるだけのやつだよ。海苔を握力で粉々にするのがコツさ」
そっか。料理が下手な私でも……藤城さんの思い出の味を頑張って作れば喜んでもらえるかもしれない!
料理上手な藤城さんの背中を追うよりも近道だし……。
「そうそう、お味噌汁はわかめが好きって言ってたわよね?」
マリコさんの質問にお兄さんは「そうそう、あいつシンプルイズベストとかカッコつけるからなぁ」と笑った。
「ありがとうございます!」
私が立ち上がってお礼を言うと2人は優しい笑顔になり
「あいつが女の子連れてきたの初めてでさ、俺らがお節介かもしんないけど……応援させてな。悠介が俺たちに会わせるなんてよっぽどアンタのこと信頼してるんだなぁ」
「ゆうちゃんったら隅に置けないわねぇ。こんな頑張り屋さんな子に好きになってもらえるなんてねぇ」
と口々に言った。
私はそれが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。やっぱり藤城さんのご家族だ。私、この人たちにも好きになってもらいたい。
——よしっ……この前見つけた「ランチスペース」に藤城さんを誘い込んでお弁当作戦だっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます