第40話 デート計画!

 なんだか間宮さんに攻略されている予感がしていた俺だが、俺の方が彼女について調べなきゃなんない。

 先ほど間宮さんに耳元で囁かれてからというもの、落ち着かなくて超ブーストで仕事をこなしていた。


「藤城くん、そろそろ帰ったらどうだい?」


 三島部長はヘロヘロの死にそうな顔で言った。俺が差し上げたチョコレートを全部食い散らかしてももう三島部長の疲れは取れそうになかった。

 残業に次ぐ残業。開発部なんてのはそんなもんだが三島部長はまぁ……中間管理職だから板挟みになっているのだ。


「これ終わったら帰ります」


「それは、間宮さんのかい?」


「あ、はい。会社HPのアナリティクスが見辛かったんでわかりやすいようにしてます。詳細もできるだけ追えるようにして……」


 三島部長はうんうんと大きく頷くと


「藤城くんは優秀だねえ」


 と褒めてくれた。

 いや、違うんです。間宮さんに踊らされて仕事頑張っているなんて言えない……。男なら誰だってあんなんされたら頑張るしかないだろう。

 

「違いますよ。広報の仕事に触れて思ったんです。相手の求めるものを調査して磨いて提供するってことはなかなか難しいんだなって。先回りして考えて、それでも外れてやり直し。それの繰り返しですから」


***


「とはいったものの、間宮さんSNSやってねぇから調査のしようがねぇ」


 俺は家でチューハイをすすりながらため息をついた。俺から勢いで誘ったデート。全く計画を立てていなかった。忙しさのせいにするのは簡単だが、俺の悪い部分である。


 ——追い込まれないと何もしない


 間宮さんは本人の言う通り全くSNSをやっていない。俺らの世代ではかなり珍しい。小学生時代からネットが普及していて、子供でもブログやらプロフィールやらページを作っていた記憶がある。

 彼女はあんな綺麗な顔面をしておいて結構闇の深い人生を送っているのかな? とは薄々感じている。間宮さんがたまに見せる暗い表情の中にはどんな理由があるんだろうか?


「一緒にいい感じのインテリア選ぶってだけでいいかなぁ?」


 俺がよく言っている雑貨屋で間宮さんの殺風景な部屋にインテリアを買ってプレゼントしようかと思っていた。

 まぁ、ありきたりだが意外と機能的なものであれば嬉しいだろうしアクセサリーよりは重くないだろうし。

 何より間宮さんの部屋は殺風景すぎる。


「いや、ミニマリストって可能性もなきにしもあらずだぞ、俺」


 ミニマリストってのはものを極力部屋に置かないとかまぁそういう人たちのことだ。SNSでも結構流行っていて「丁寧な暮らし」とか「環境に優しいくらし」とかまぁその辺だ。

 俺はものが多い方が好きだから合わないがオシャレだとは思う。間宮さんはどうだろうか?


「正直に聞くべきか」


 俺はデート計画と打ったメモの一番最初に「ヒアリング」と文字を打ち込んだ。調べてダメなら直接聞いてみようか。

 俺のダメなところは間宮さんが日常でこぼした希望や本音を全く覚えていないところだ。漫画やドラマじゃあ、男の子ってはそういう女の子は何気なく言った一言を覚えていて、それをさりげなく実行する。

 そうやって恋愛して、女の子に好きになっててもらう。


 ——無理ゲーすぎません?


 失敗と成功を積み重ねて人は成長するものだが恋愛経験ほぼゼロの俺が、芸能人レベル……女子アナになってたらスポーツ選手が落としにかかるレベルの女性を喜ばせるなんてきつ過ぎません?


「辛いものが好きってのはわかってるんだよなぁ」


 ランチはどうしようか。辛いものを一緒に食べに行くか? いや、色気がなさすぎるよなぁ。辛いものって大体にんにく入ってるし。

 そもそも俺は辛いものあんまり食べないからいい店も知らないし。


【藤城さーん、明日何時にしますか〜?】


 痺れを切らした間宮さんからMINEが入った。

 あー、もうダメだ!


 俺はスマホを取るとMINE画面を開いて通話ボタンを押した。

 もう当たって砕けろ! 俺みたいな陰キャにかっこいいデートなんて不可能! 計画したところでうまく行くはずない。

 なら間宮さんの希望を聞いちゃった方が早いだろ!


「もしもし、お疲れ様です」


 間宮さんの声が少しだけ大きい。あれ? と思った時、ぽちゃんとした水音に俺は体を硬くした。

 ——お風呂入ってらっしゃいますか……?


「あ、お疲れ様です」


「どうしたんですか?」


 ちゃぽん。間宮さんが腕を動かしたのか足を動かしたのか水音が響く。その度に俺の頭がイケナイ妄想をして、何を聞きたかったのか忘れそうになる。

 教育に悪い!


「あぁ、明日なんですけど何か食べたいものとかあるかなぁって。聞いちゃった方が早いと思ったんですけど……お忙しかったら切ります!」


「あっ! 待ってください。今半身浴してるんですけどちょっと付き合ってください」


 間宮さんはからかうように笑うと


「雑貨屋さんでお弁当箱買ったら……そうだな。藤城さんのお家で一緒にお料理をして、帰りにお散歩したいです。そうしたら誰にも邪魔されずにお話できますし……あっそうだ。最近ゲーム始めたんです。オススメ教えて欲しいです」


 ちゃぽん。

 聞いて正解だった。間宮さんはその後も色々とアレをしたいだのこれをしたいだの話してくれた。


「えっと、じゃあそろそろ……」


「藤城さん、おやすみなさい」


 俺は通話を切った。デート計画表見直そう。

 

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