第35話 初めての共同制作? 


「やっとですね!」


「やっとですよ」


 俺と間宮さんはガッツポーズをする。やっとの事で社長ら経営陣から許可がおりたのだ。


「社内ブログ!」


 間宮さんが一番やりたいと言っていたコンテンツ。うちの会社のHPと求人媒体で連載するブログでSNSとは違って結構がっつり文章も書くし、写真もこだわって作る。

 なお、ブログのデザインは原川姉さんが作ってくれるようだ。頼もしい。俺は間宮さんが投稿しやすいように投稿フォームの作成とページのコーディング、それから記事ページのSEOなんかを担当することになった。


「テンションあがります!」


 間宮さんは嬉しそうにいくつかの企画書を俺のチャットに投げてきた。まぁブログでどんな連載をやるかとか、どんなインタビュー企画をやるかとかそういった内容のものだが……すげー気合い。

 原川姉さんによくしてもらっているようで企画書のデザインがオシャレだ。間宮さんってなんというかなんでもそつなくこなす器用なところがある。


「そうだ、間宮さん。そろそろ投稿もコンスタントにできるようになってきましたし、質問も少なくなってるんで自分のデスクに戻ってはいかがですか?」


 それとなく促してみる。


「いやです」


「あ、はい。すんません」


 間宮さん、圧倒的、即答の拒否で俺の隣の席を確保した。

 なんでこんなことを彼女に聞くかといえば、もうすぐ「席替え」があると総務のお姉さま方から話を聞いていたのだ。

 うちの会社は定期的に席替えがある。営業の方なんかは交流を深めるために結構行うらしいんだが、開発部では珍しい。

 なんでも、俺と三島部長以外は完全リモートになるようでこの島自体がなくなるのだ。

 俺と三島部長は経営陣の方の島の端っこを使うことになるらしく……間宮さんが座っている席はなくなってしまう。

 間宮さんの隣に座れなくなるのは悲しいが仕方ない。社畜の運命である。


「そういえば、間宮さんって辛いの好きなんすね」


「はいっ、お外では我慢しているんですけど……おうちで食べるときは結構かけちゃいます。一味」


 あぁ……この人ガチ勢じゃん。

 

「俺はそうっすねぇ、普通に食べれるくらいなんで負けちゃいますね」


 あはは〜と苦笑いをして今にも「激辛食べたい!」という顔の間宮さんを牽制する。流石にカッコ悪いところは見せたくない。ただでさえ俺カッコ悪いのに。


「あの、私……フォロワー10万人いったんですよ」


「知ってます。おめでとっす」


「だから、お願い聞いてくれませんか?」


 ものによるぞ……!

 といいたいが一旦は間宮さんの話を聞いてみよう。もしかしたら、ほんの数パーセントの可能性だが間宮さんは俺に気があるかも知れない。こんなリア充美人が俺みたいな奴を好きになるわけはないけど、最近、間宮さんにアプローチされている気がしてならないのだ。


「えっと……なんスか?」


 間宮さんは俺の様子を伺いながらスマホをタップする。ネイル替えたのか、キラッキラで似合ってるな。キモがられたら嫌だから口には出さないけど。


「これ! 食べさせてください!」


***


 ——テレビを買っとくんだった


 誰かが家に来た時にテレビってのは役に立つんだ。雑音にもなるし話題作りにもなるし……それに困ったちゃんをあやす道具にもなる。

 キッチンで俺を付け回す間宮さんはまるで小動物のようにキョロキョロと目を動かしている。

 挙動不審すぎませんか……?


「これ! 食べさせてくださいっ」


 間宮さんはオフィスで俺に写真を見せてきた。嫌な予感がしていたが、その写真は「偽物さん」の投稿写真。つまりは俺が作った料理だった。


「気になってたんです。【低カロリー手作りピリ辛サラダチキン】と【豆腐としらすの玄米混ぜご飯】作ってくださいっ!」


 間宮さんは豆腐の水切りをする俺の隣に立って熱心にメモを取る。


「私、最近太っちゃって……。ダイエットレシピ気になってたんですよ〜。あっ、藤城さんお湯沸いてますよ!」


「間宮さん、お豆腐をボウルにうつして潰してくれますか」


「はいっ!」


 間宮さんは可愛いエプロンのポッケにメモをしまい込むと腕まくりをして俺の言う通りに動く。

 俺はしらすを湯がいたり、サラダチキンの様子をみたり……。


「なんだか、私たち夫婦みたいですね」


 間宮さんは真っ赤な顔でそんなことを言うとキュッと口角をあげる。


「あはは〜、光栄っす」


 やっとの事で返事をすると俺は胸の高鳴りを抑えるように咳払いをする。サラダチキンと一緒に盛り付ける大根を千切りにして水にさらし……


「やっぱり、お料理は女の子に作って欲しい……ですか?」


 間宮さんは急に俺の視界に現れるとうるうるした瞳を向ける。可愛いし男の部屋でする顔じゃない。煽っているにもほどがあるっす……。

 社内で気まずくなりたくないからなんもしないけど!! しないけど!!


「あ、なんでしたっけ?」


 間宮さんの顔を見て変なこと考えていたら質問をすっかり忘れてしまっていた。なんだっけ?


「あっ! ひどい! 料理できる女の子は好きですか? って聞いたんです!」


「あ、あぁ……どうっすかね? も、もちろん作ってくれたら嬉しいのは変わりないですけど……うちは兄も親父も料理してたんで俺が作ったのを美味しく食べてくれる子でも全然いいっす」


 間宮さんは今日イチ真剣な顔で頷いた。


「よし、間宮さん。しらすと鰹節をさっきボウルに入れた豆腐とまぜてもらえますか? 調味料は……」


「お醤油とみりん! ですね。あっ、藤城さん、しらすがこんなところに」


 間宮さんは背伸びして手を伸ばし胸元あたりについていたしらすをとって食った。

 

「間宮さん……まじで奥さんみたいっす」


 思わず似合わない言葉が口から飛び出した。エプロンをつけて真っ赤になった間宮さんは「はい」と小さく呟いた。

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