第28話 美人広報、壁にぶつかる
「かんぱーい!」
間宮さんと俺はおめでとう飲み会もとい、おいしい肉を食べる会を開催した。場所はそこそこ高級な焼肉店。社長のおごりで1人2万円まで会社からお金が出るらしい。
かなり贅沢な額だが社長がOK出したんだ。最高。
「2万円のコースってすごいですねぇ」
パシャパシャと写真を撮りながら間宮さんはオレンジジュースにストローを刺した。俺が「お酒はやめときましょう」と釘を刺したのだ。
間宮さん自身も反省しているらしく承諾。俺も今日はウーロン茶だ。
「シャトーブリアン!」
いいですね〜。と間宮さんが蕩けたような顔で言った。俺は焼く係に徹底して間宮さんはパクパクと食べる。今日の主役は彼女だし、間宮さんの食べてる顔がとにかく可愛いので俺もお腹いっぱいだ。
「そうだ、仕事の話で申し訳ないんすけど提案っす」
間宮さんは口元についたソースをぬぐいながら不思議そうに俺をみていた。うん、可愛い。
「ハッシュタグを作りませんか??」
有名なインフルエンサーは自分独自のハッシュタグを使用することが多い。理由はいろいろだがハッシュタグを検索するだけで投稿を絞って検索できるとか、ファンが同じハッシュタグをつけて投稿することでさらなる自身のコンテンツを拡散するだとかまぁいろいろだ。
間宮さんもフォロワーが3万を超えてきたし、昼間の「きのこ鍋」の投稿がバズったこともあるしそろそろ考えてみてもいい頃だと思った・
「ちなみに俺のカメグラだと「#偽物さんの男飯」っすね」
偽物ってのは俺のアカウント名。まぁありきたりだが自分が載せている食べ物系の写真にはつけるようにしている。
たまーに、俺のレシピを再現してくれる主婦さんがハッシュタグをつけてくれたりするので通知を見るとテンションが上がる。
「確かにそうですねぇ。他社の広報さんもつけてますね。ランチ系、ヴィーガン系、私なら何がいいですかね?」
「そうだなぁ」
間宮さんはとにかく要素が多すぎる。美人、元ミスコン、新人広報……。何が彼女のキャラクターに合うんだろうか?
そもそも、間宮さん自身はどうなっていくことを望んでいるんだろうか。いや、カメグラでハッシュタグを作るんならキラキラした感じやセレブな感じを推していくべきなのか?
「間宮さんが作ってくコンテンツなんでどういうものを目指してるかによりますよね」
俺は焼けたハラミを食べる。うまい。
「そうですねぇ……。うーん」
間宮さんは白いご飯を食べて飲み込んでから悩み出した。飲み会で話す話題にしてはがっつり仕事によりすぎたか。
「まぁ、明日考えましょ」
「はい、明日までの宿題にします……あっ」
スマホを見ていた間宮さんが「あっ」とかいうので俺は塩タンをこぼしそうになる。あぶねぇ……。ジュウジュウと音を立てる肉をすぐに網からあげて間宮さんの取り皿に乗せた。
塩タンはレモンだよな。レモン汁を間宮さんに渡す。
「ありがとうございます。見てください、先輩からお礼のメールがっ」
間宮さんはレモン汁と引き換えにスマホを渡してくる。そこにはMINEの画面が写っていて、今日昼に行ったきのこ鍋の店の店主の奥さんからのメッセージだ。
【あれから予約と取材の依頼が多く入ったの! 本当にありがとう! 忙しくなりそう! #裏通りのキノコ鍋 で調べてみて】
おぉ……文字面だけで見るとトンデモないいかがわしい店みたいだ。間宮さんにスマホを返して、俺は自分のスマホで#裏通りのキノコ鍋で検索してみる。確か、間宮さんが考えたハッシュタグだよな。
カメグラに上がっている写真は一気に増えていて、若い世代の子達が写真や1日投稿に動画を載せているようだ。
バズるってのは本当にすごい力だと思った。俺たちが昼飯食ってる時は投稿が一個もなかったとは思えない。
「おぉ……間宮さんハッシュタグ考える才能アリアリじゃないですか」
「会社ともなると緊張しますよぉ」
もぐもぐと塩タンを食べながら間宮さんは照れる。可愛い。
「そうそう、取材の依頼ってありますけどうちの会社にも来てて……コラボしたい企業さんやキノコ農家さんから案件の依頼が来てるって。えへへ〜」
間宮さんは自分で言って自分で照れて、それでもモグモグと焼肉を食べ続ける。俺は可愛い彼女を堪能しながら肉を焼き続けた。
***
間宮さんがハッシュタグを考えている間、俺はデスクで割と真剣に仕事に向き合っていた。というのもキノコ鍋の案件がまるまる俺に来ていたからだ。
企業とのコラボページを作るのに俺と原川姉さんが召集され営業の皆さんとスピード感のある制作を頼まれていたのだ。
「よし、これでテストはOKかな。三島部長、最終チェックお願いします」
「ん、送っといて。ありがとさん」
三島部長も連日の案件続きで疲労困憊だ。月末月初はシステムの障害が起きてしまうと大変なことになるから緊張するのだ。経理のお姉さま方はピリピリしているし、営業事務の子達も忙しさで気が立っている。
「ちょっと、いいかな?」
聞きなれぬ声に俺が振り向くとそこには木内さんがいた。木内さんといえば例のマーケ課いじめ事件の被害者で俺と同期入社。おとなしい感じだが美人な子でほとんど接点はないが……。
それに、いじめ事件のSNS告発事件はいじめグループの中にいた青木凛の自作自演で人事と法務が動いてるはずで、俺の仕事は終わったはずじゃ?
「いいけど……どうしたんすか?」
「いいから、こっち」
木内さんは俺の手をぎゅっと握るとMTG室の方へと引っ張っていく。間宮さんが驚いた顔で俺に声をかけようとしたのが見えたがあまりのことに俺は抵抗することができなかった。
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