4 インフルエンサーを学ぶべし!

第25話 厳しい意見こそ……

 間宮さんの家から結局タクシーで帰り、俺は仮眠を取った後昼前には出社した。間宮さんはすでに社長とのPRミーティングに入っていた。

 三島部長に挨拶をして俺は依頼が来ていないかを確かめる。バグ修正と先輩方からお願いされたプログラミングの仕上げか。


「ちょっと、藤城」


 疲れを取るためにエナジードリンクを飲んでいた俺を無理やり引っ張り出したのは原川姉さんだった。

 会社内にいた奴ら全員が「あぁ、藤城締められてる」と哀れみの視線を向けてくる。俺なんかしました?!

 昨日、飲み会終わりにちょっとデレた原川姉さんを思い出したが現実は厳しいのだ。仕事でミスしたか……?


「ど、どうしたんすか」


「で? 間宮ちゃんとはの?」


 この人……確信犯で俺を間宮さん家に向かわせたのか! 


「いや、送っただけっす」


 原川姉さんにキスのことを話しても仕方ないし、男をホイホイ泊めたり陰キャでも見境なく男を食うなんて思われたら大変だし。黙っとこ。


「ばかなの?!」


 原川姉さんは俺の後頭部をぺしっと叩くと小さな声だけ「信じられない」とリアクションを取った。原川姉さんってクールなイメージだったが、こんな人だったんだ……痛っ?!


「えっ? なんすか」


「あんた彼女いないよね? 間宮ちゃんは彼氏いないの。わかる? なんでいかないのよ」


「原川さん、パワハラセクハラっす」


「うう〜!」


 原川姉さんはポカポカと俺の肩を殴る。痛くない、なんか……。クラスの真ん中で恋愛あーだこーだを楽しむ一軍男子ってこんな気分だったんだな、なんて思って少しだけ気分がいい。と同時に原川姉さんって意外ととっつきやすい人なんだなとも思った。

 

ちゃんとしなさいよ。男の子なんだから」


「それもセクハラっす」


 原川姉さんは海外的なリアクションで白目を剥くと「信じられないわ」と首を振った。まぁ、彼女の言わんとしていることもわかる。


 ——いや、俺の思い上がりだ。きっと。


「間宮さんって……何考えてんだろ」


 原川姉さんの背中を見ながら俺はため息をついた。俺が間宮さんの行動に勘違いして追いかけたところで「恋人としては無理」「やっぱりイケメンがいい」なんて言われるのがオチだろうし最悪の場合セクハラとかストーカーとか言われる可能性だってある。


***


「藤城さん? こう言うDMってどう思いますか?」


 俺の心配をよそに間宮さんはいつも通りだった、ニコニコ、キラキラの間宮さんは少しだけ不安そうにスマホを俺に見せてきた。DMの画面。長ったらしい文章。ぱっと見ただけでわかる。半分アンチ的な指摘文だ。


「こっちで見ましょうか」


「はい」


 そう、間宮さんが使っているカメグラDMと紐づけた社内チャットのページだ。朝チェックするの忘れてた。確かに、勧誘メールやファンからのメールに埋もれていたそれは結構厳しめだ。


「誹謗中傷って感じじゃないっすね」


「はい、でも調子に乗ってるとか会社の信用がとか書いてありますよ」


 間宮さんが傷ついていないか心配だが、多分……大丈夫っぽい? 聞いてみるか。


「大丈夫ですか?」


「あっ、私は大丈夫ですよ! ミスコンの時の方がやばかったですし……」


 えへへ。と間宮さんは照れたように笑った。確かに、ミスコンなんてのは女の色々があるから大変なことになるんだろう。間宮さんみたいな純粋な子は特に攻撃に標的にされるだろうし……。


「このDMはアンチって言うよりも意見っすね。俺もかなり参考になります」


 読み解いてみると言い方がきついものの意外としっかりした意見だ。「社員のインタビューが台本くさい」「メイクが派手」「掃除が行き届いてない」なんかは確かに動画を見返すとそうかもしれない。

 

「どこら辺がですか?! 私のメイクですかね?!」


 ショック! と言わんばかりの顔で俺に詰め寄ってくる。


「メイクは詳しくないんでアレですけど、掃除のとことか。撮影前にしなかったなって思い出して……。確かにガラスが汚れてるのが目立ちますし、カフェスペースのゴミ箱が汚いのもよくないっすね」


 動画を見返すと色々アラが出てくる。

 確かに、インタビューに関しても台本ありきでインタビューされる社員の個性を活かせなかった部分が露呈したし……。


「藤城さんもこういうDM来ますか?」


「結構来ますよ。肉料理ばっかりだから魚も作れとか野菜を食えとか俺のフォロワーは主婦さんが多いみたいで母ちゃんみたいなDMばっかっすね」


 間宮さんに俺のスマホを見せるとしばらくして「ほんとですねぇ」とスクロールする。

 悲しいかな、俺のカメグラには女の子からのDMは来ない。顔出してないし、性的なアピールしてないからな……。単純に料理好きと食いしん坊、レシピ見にくるママさんくらいか。


「そういう意見って一番参考になるんすよ。ファンになってくれるかはわからないですけど客観的な意見を取り入れて行くとより良いもんができるんで」


「じゃあ、次の動画の構成と台本を今日中に考えましょうか。こんな感じの指摘意見とコメントをまとめてからっすね」


 いつも通り俺たちは仕事に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る