第22話 美人×ショートムービーは最強説

 会社の外、ビルの外観からエレベーターに乗って会社のエントランスまでの映像。エントランスでは「ようこそ」と間宮さんがお辞儀をするカットにつながる。

 BGMは結構軽快な感じのやつにして……っと。


「こんにちは! 広報の間宮です!」


 間宮さんは元ミスコンだけあってかなり魅せ方がうまい。元がいいのはもちろんだが話し方や笑顔、顔の角度からポーズまでなんでも型にはまっているというかなんというか……普通緊張しません?


「こちらはオフィススペースです。こっちが共有スペースで〜」


 俺は間宮さんを映しながら共有スペースへ移動する。一応撮影をすることを全社に共有したので撮影されてもOKな子しかいない。というか、間宮さんがお願いして撮影OK顔出しOKの可愛い女の社員を何人か座らせたみたいだ。

 

「カット〜!」


 俺は映像を簡単に確認しながら次のカットの準備を間宮さんにしてもらう。次はカフェスペースでコーヒーを淹れている社員を撮影するんだったな。

 紙コップはうちの会社ロゴが印刷されていてオシャレだしマストだな。


「藤城さん、先に集中スペースのカット撮っちゃいませんか?」


「あっ、でも多分原川姉さんがいるんで許可取らないと」


 原川さんは集中スペースで仕事をしているが……こういう目立つのとか嫌いそうだよな。すごい綺麗なお姉様だけど、結構気難しいし。あと怒ると怖い。

 間宮さんとの相性はどうなんだろうか。やっぱり女の人ってのは可愛い後輩は嫌い……とか?


「すみません〜、原川さん撮影いいですか?」


 俺の心配をよそに間宮さんは原川姉さんのところに突撃して行った。原川さんはイヤホンを外し、振り返ると間宮さんとそれから俺に視線を向ける。

 やばい……怒られる……


「なんの撮影?」


 原川さんの第一声は優しく、まるで子供に話しかけるような感じだ。意外。


「えっと、会社紹介のムービーなんです。集中スペースで原川さんがお仕事をしている後ろ姿とりたいなぁって」


 原川さんは「そうなの?」と間宮さん越しに俺に質問する。俺は「はい。そうっす」と答えると、小さくため息をついてから


「ちょっと待ってね、オシャレな画面にしてあげる。あんまり顔は映さないでね」


 と眉を上げ、パソコンにオシャレなデザイン画を表示してくれた。それから間宮さんに小さく何かを呟くと間宮さんは「素敵です!」と嬉しそうな顔をする。何を言ったんだろう?

 ってかこの2人意外と相性いいのかも……?


「藤城、綺麗に撮ってよ。じゃないと怒るから」


 原川姉さんは髪を整え終わると俺に言った。俺は「うっす」と返事をして撮影に入った。「ここは集中スペース、社員の方が集中してお仕事ができるプライベートな空間です。現在は弊社のデザイナーさんがお仕事をしていますね」


 写り込んでいる原川姉さんのパソコンの画面がオシャレすぎる……。まぁ原川姉さんは個人でも依頼を受けることができるやり手のデザイナーだからな。多分、俺の3倍の年収を稼いでいるはずだ。センスがあるって本当にすごいことなんだなと思う。


「カット!」


「ありがとうございました。原川さん、お仕事中すみませんでした」


「いいよ。藤城、コーヒー淹れてきて」


 原川姉さんの頼みは断れない。ただでさえ協力してもらったのだ。俺はカメラを間宮さんに渡してカフェスペースへ向かう。間宮さんはひょこひょこと俺についてまわる。


「待っててください、コーヒー淹れちゃうんで」


「あの! 藤城さんっ」


 間宮さんはいつになく真剣な表情で俺に詰め寄ってくる。


「撮ってもいいですかっ?」


「えっと俺をですか?」


 間宮さんはどうかしている。

 俺みたいなキモ陰キャを撮影しても会社の印象を悪くするだけだろ? ただでさえ綺麗な社内とキラッキラな雰囲気、オシャレなデザイナーを撮ったのが台無しになる。


「はいっ、ダメですか?」


 可愛い顔して頼んでもダメだ。俺的にも顔出しはできないし、それに俺が出たところで動画のためにもならんし……。


「いや、俺が映るとキラキラ感が減りません? 動画の」


「そんなことないです! 私好きなんです」


 ——好き?!?!?!

 

 俺はびっくりしてコーヒーカップを落としそうになる。間宮さんの発言に共有スペースにいた女子たちがざわざわと噂をしだす。

 あー、まずいぞ。これはまずい。もうチャットで噂されて1週間は変な目で見られることになるぞ……。


「あの、すっ……すきというか……そのが」


 さすがの間宮さんも周りの空気に勘付いたのか恥ずかしそうに言い直した。


「藤城さんのカメグラ……お料理だけじゃなくて手が綺麗だってそういうコメントも見たんです。だから、そのコーヒーを作る手元の動画を撮らせてくださいっ」


 安心感やら残念さやらで感情がぐるぐるの俺は「了解っす」と短く返事をする。間宮さんも真っ赤になったままカメラを構えると録画ボタンを押す。

 会社のカフェスペースのコーヒーメーカーはわりと本格的だ。コーヒー作ってるだけでも様になる。

 原川姉さんはブラックコーヒーを薄めに淹れる。豆は……さっぱり系のだったか。案件が詰まって死にそうな時は甘めを頼まれたりもするけど。


「今、社員さんがコーヒーを淹れています。美味しそう〜」


***


「やっと終わりました!」


 残業1時間ほどで間宮さんは動画編集を終え、初めてのショートムービーを完成させた。もちろん、俺も残業する羽目になった。


「じゃあこれを明日のお昼頃投稿しましょう。帰りますか〜」


 最終チェックを終えて、俺は帰る準備を始める。繁忙期でもないのに残業したのは久々だな。間宮さんも残業は久々だと言っていたような?

 

「藤城さん帰っちゃうんですか」


「帰っちゃいます……けど、何かありますか?」


 間宮さんは何かまだ仕事を残していたか? 俺の知っている限りはなさそうだけど……。

 間宮さんはもじもじながら何かを言い出そうとしている。なんだ? 全く予想ができない。まさか……ディナーのお誘いとか?

 いや、でも明日は普通に平日だし、数日分の投稿写真は獲得できているはずだ。


「あの……えっと、そのよければなんですけど」


 間宮さんは背伸びをして俺の耳元まで口を寄せると超小声で言った。


「ラブホテルに行きませんか」



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