第21話 美人×ショートムービーは最強説


「藤城さんみてくださいっ」


 月曜日、社会人にとっては一番憂鬱な曜日である。土曜日の手作りランチの投稿を先ほど終えて満足げな間宮さんは俺にスマホを見せて来る。

 間宮さんは編み込みのハーフアップで、どっかの映画に出て来るエルフ族みたいな神々しさがあった。きゅっとしまったウエストとぴったりしたブラウスのせいでスタイルの良さがよくわかるオフィスカジュアルな服装もやっぱり可愛いな、なんてキモいことを考えてしまった。


「これは……カメグラの1日投稿っすね」


「はいっ、最近気になっている広報さんが会社紹介の動画をあげてるんです」


 カメグラのアイコンをタップして動画を再生すると、綺麗系の女性広報が会社のエントランスと共有スペースとみられる場所で簡単な会社紹介をしている。会社の中にカフェスペースがあって、可愛い女性社員に簡単なインタビューもしていて会社の雰囲気がよくわかる。

 確かに、これは広報としてはかなりいい案かもしれないな。


「ただでさえ、今間宮さんはバズってますしいいっすね」


「そ! こ! で! 藤城さんにお願いがあるんですよ!」


 間宮さんはぐいっと椅子を動かしてまで俺の方に詰め寄って来る。間宮さんの髪の香りがふわっと香って俺は思わず体を引いた。

 ちょっと距離感が近すぎますって間宮さん!


「カメラマンっすかね?」


「おぉ! さすが藤城さんですね」


 ジト目で俺を見つめる間宮さんは「カメラマンをやってほしいって言おうとしてたんですよ」と言い直した。確かに、間宮さんが被写体になる場合はカメラマンがいた方が多分楽だろうし、さっきの動画みたいなのの場合は特に。


「あー、そしたらまずは……」


 俺がいう前に間宮さんがドヤ顔で


「どんな動画を作るかのアジェンダ! ですよね」


 えへん! と吹き出しがでるような腕組みポーズで間宮さんは「褒めてくださいオーラ」を出している。可愛いけど褒めるようなことなのか……? あと間宮さんは俺より先輩ですよね??


「あ、はい。さすがっす」


「藤城さん、今日はスケジュールいっぱいですもんね。今日中に動画作成に関してのタスクを全部洗い出すのでチェックしてもらえますか?」


 間宮さんの成長速度がえぐい。俺が言いたいことを全部言うと小さい財布だけ持ってオフィスを飛び出して行ってしまった。

 まじで嵐みたいな人だな……。


「よし、原川姉さんの案件は完了っと……。あとは、いじめMINEの件だな」


 あれから、マーケ課のいじめMINEを告発しているアカウントからの連絡はなかった。だが、毎日そのアカウントでは1日投稿に様々ないじめMINEのスクショが晒されている。

 それをファイル保存して……正直、ハッキングはできないしコンタクトを待つしかないのか……?


【マーケ科、飲み会でハブとかありえない。インシツだし仕事もしてない】

 

 そんなコメントが添えられた写真には木内さんを飲み会に誘わないようにしようというメッセージが書かれたMINEのスクショが晒されていた。

 女子って大変だな……と思いながらマーケ課の社員の表側のSNSを眺める。


「表ではキラキラ仲良しなのに、裏ではいじめ……しかもいじめメンバーの中に裏切りものがいるとかほんとやべぇな。ってか誤字」


 俺の独り言を聞いた三島部長が「シーッ」と人差し指を立てた。俺は「すいません」と会釈するとパソコンに視線を戻す。

 

【マーケで飲み会っ! 女子会シャンパン】


 俺がボスだと睨んでいる女子のカメグラ、たくさんのコメントがついている。ほとんどがこのボス女の友達とマーケ課の人間だ。


【マーケ最高! 次は営業全体でいこ】

【最高だね!】

【マーケ科まじいい人ばっか】

【誤字w】

【また行こうね】


「あ……この誤字……」


 俺は告発者を見つけてしまったかもしれない。いや、誤字だけで決めつけじゃダメだ。名前、IDの癖。あとは位置情報も出てるな。

 それに……この子は俺と木内さんと同期入社か。結構確率高くなって来たんじゃないか?

 一応、報告しておくか。


***


「おぉ、気合い入ってるっすね」


「もちろんです! えへへ〜、一応、紹介5分、インタビュー5分くらいで編集カット入れて全部で3分とかにまとめたいなって」


 その編集は誰がするんですか?

 と質問をしようと思ったが、間宮さんはどうやら自分で編集をしたいらしい。先に総務に行って編集ソフトをインストールしてきたようだった。もちろん、やり方は俺に聞くつもりらしい。


「承知っす」


「台本なんですが、これです。結構フランクな感じの動画にしたいなって思ったので元気系にしてみました!」


 おぉ、確かにお堅いと言うよりは大学生にも親しみやすいような話し口調の台本だ。間宮さんは綺麗系だけどおとなしい感じじゃないからマッチしていると思う。


「あのー間宮さん?」


「えっ、ダメですか?!」


 うるうる上目遣いの間宮さん。まるで俺が今から怒るみたいじゃないっすか! 俺は一旦目を背けてそれから


「最初は自己紹介にしてみたらどうでしょう?」


「自己紹介ですか?」


 間宮さんは本当に怒られると思っていたらしい。今はきょとんとした顔で首を傾げている。というか、今日の服は胸元が強調されすぎじゃありませんかっ……? ありがとうございます。


「はい、一応動画では初めての出演になると思いますし。写真と動画ではまた見え方も違ってくると思うのでどうかなって」


 間宮さんは少し考えて「確かにそうかもですねっ」と真剣な表情になると台本を修正するためパソコンに向き合った。

 俺はその間に動画の導線をチェックする。まずはビルの外からビル全体を撮影するカットか。


【視聴者がまるで会社を訪れたみたいに見える動画にしたい!】


 間宮さんのパッションがこもっているな。俺も頑張らないと……。その前に一服だな。


「俺、喫煙室行きますけど帰りに飲み物買ってきましょうか?」


「甘めのココアをお願いします!」


 間宮さんはさも当然かのように俺の手を握ると「頑張ったんで奢ってくださいな」と言った。あったかいのに細くて白い指。


「あっ、えっとはい」


「やった! えへへ〜、よろしくです」


 ぱっと俺の手を離すと間宮さんはパソコンと向き合って台本の修正を始めた。俺は鼓動が早くなったのをタバコで抑えるため足早に喫煙室へと向かった。

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