第18話 可愛いは正義! 最強の美人広報


「おぉ?! すげぇ」


 思わず声が出るほどテンションが上がる。いいねもコメントも爆速で増えている。やっぱり、可愛いは正義……とはよく言ったものでこんなに一気にバズるとは。


「これ……すごい成果っすよ! 間宮さん」


「はいっ! 藤城さんのおかげです」


 俺の両手を持ってぐるぐる回る間宮さん。


「おーい、オフィスだぞぉ」


 三島部長の声に引き戻されて俺たちは席についた。あんまり人がいない時間帯でよかった。


「では、毎日投稿を目指して頑張りましょう。しばらくは俺が一緒に写真の加工と精査します」


「お店めぐりもよろしくです」


 間宮さんは初めて自分で広報らしいことをできたのが嬉しいのかいつになくご機嫌で、俺もなんだが嬉しかった。

 やっぱり、SNSのモチベーションはSNSのいいね数によって決まるのだ。


「で、変なこと言ってくるやつは片っ端からブロックっすね」


 間宮さんのDM欄が変な男たちからのいかがわしいDMで爆発しそうなので俺が代わりに削除とブロック作業をする。

 一応、間宮さんの社内スマホでパスワードは共有しているので彼女が私生活で変なDMを見ることはないようにしているが……。

 やっぱ可愛いとアンチ的なDMもくるんだな。削除、ブロックだな。


「ん、顔を出している以上DMに関しては俺がしばらく見ますね。変なのも多いですし」


「ありがとうございます。そうだ、営業さんへ問い合わせとかはそっちに回すようにグループチャットにお願いしようと思っていて……」


「あっ、じゃあDMがきたらチャットに通知がくるように俺が紐づけて見ますよ。多分、簡単にできるんで」


 と自分でかなりの仕事を増やしたことに気がついたが仕方がない。その方が多分今後、間宮さんの負担が減るし……つまり俺の負担も減るわけで。

 あぁ、そうだ。そんなことよりも……って


 ——このアカウント


 新しくフォローしてきた人を通知する画面に映ったアカウント見覚えのあるものだった。そう、ついさっき俺が三島部長から共有された例のカメグラアカウントだった。

 木内さんがいじめられていることを告発しているアカウント。俺はフォローを返してみる。すぐにフォローが承認される。


「どうしたんですか?」


「いや、こっちの話なんですけど……」


【マーケ課でのいじめを告発します。公開のSNSアカウントで晒します】


 そう書かれた1日投稿は30分前。アカウントはオンライン。俺はマーケ課の方へ視線をやるがスマホをいじっている社員は1人としていない。パソコンで見ているのか?

 

 俺はすぐにスクリーンショットを撮って人事と法務へ共有する。間宮さんはぽかんとしたまま席に戻るとレモネードを飲んだ。


【(人事)藤城くん、そのアカウントの主はわかりますか?】

【(俺) いや、特定は難しいです。DMで聞くとかなら……でも教えてくれるかどうか】

【(法務)とりあえず、この文章コピペでDMしてください】


 法務から送られてきた文章を俺はその匿名アカウントにDMした。「藤城です。お互いの為にも法務と人事に相談するところからはじませんか。もちろん怖いのであれば俺でも話を聞きます。そんな感じだ。

 そしてすぐに既読がつく。

 でも、返事が返ってくることはなかった。ブロックもされず、ただ見守れっていうのか……?


【(俺)返事こないけど既読はつきました。様子見っすかね】

【(人事)引き続き監視を頼むよ。もし可能ならDMで連絡を取ってくれ】


 俺は承知ですと返信をしてスマホを間宮さんに返した。


「どうかしたんですか?」


「いや、こっちの話なんで」


 間宮さんはふーんと鼻を鳴らすと首をかしげる。可愛い。

 こんなこと間宮さんに相談しても仕方がないし、秘密保持的にもよろしくないから内緒にしておこう。


「DMは一旦こっちで預かりますね。ってなわけで間宮さんは明日明後日どんな投稿をするかと、広報界隈でのトレンドの調査をお願いしますね」


 間宮さんはさらっと俺の話をメモると「はいっ」と元気よく答えた。


***


 今日は金曜日だ。オフィスワーカーの社会人にとっては「華の金曜日」なんて呼ぶ奴も多い。まぁリア充に限ってはもっと楽しいんだろう。

 俺はもちろん予定なんかない。家にあるワインを飲んじゃいたいのと、冷蔵庫の中のやばそうな食材を使って簡単に食事を作ろうか。ゲーム仲間に連絡をしようかなんてことを考えながら定時が来るのを待っていた。


「藤城さんっ、今日って予定あるんですか?」


 ——まじかよ?! 間宮さん?!


「えっと……なんでっすかね?」


 これは……金曜日の夜にディナーのお誘いがもらえるんじゃないか? もちろん恋愛対象としてみてもらえてないだろうけど、美人とご飯を食べられるのは嬉しい。


「明日の朝、何時にお伺いすればよいですかね?」


「はいっ?!」


 今日の夜じゃなくて明日の朝ですか? ん?

 俺は困惑のあまりコーヒーを吹き出しそうになった。


「あ、えっと……土曜日にお料理を教わりに行く約束していたじゃないですか。でも、今日の夜……藤城さんが飲み会とかなら朝早くに伺うのはよくないかなって」


 あ……、休日にうちに来るのってまじだったのかよ。ってかこの人本当に俺の家にくるって本気で言ってるのか??


「えっと、今日の夜の予定はないっす」


「なら、朝の10時に最寄りの駅まで伺います!」


「あ、はい」


「それから、映えそうな手料理を作るためにお買いものと〜」


 間宮さんは土曜日の予定は聞かずに色々と計画を話し出した。この人は本当に自分勝手で、そんでもって可愛い。

 目の前の間宮さんに見とれているが……俺の部屋、女の子を呼べるような部屋じゃねぇ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る