第17話 可愛いは正義! 最強の美人広報
ランチから戻ったあと、俺は案件を進めるために営業とデザイナーとのチームにアサインされてミーティングに出ていた。俺の仕事としてはアンケートページを作って迅速に集計するっていういつもの仕事だ。
デザイナーの
「藤城さぁ、コーディング頼んでもいい?」
コーディングは正直デザイナー側の仕事だ。うちには専属のコーダーもいるが今は手一杯で原川さんに仕事が戻って来てしまっているらしい。
茶色ロングのストーレートヘアーをなびかせて、原川さんはぎろりとピューマのように俺を睨んだ。
この人は怒っている訳ではない。多分、超口下手なのだ。
「えっと、ちょいちょい質問するかもですが、やります」
「オーケー。じゃあ、デザインできたら渡すからよろしく」
「承知です」
原川さんは社内の奥にある集中スペースへ向かう。あの集中スペースはいつも原川さんが占領していてほとんどの人が使えない。まぁ、彼女は会社でも古参だし、しゃーない。
「ミーティングお疲れ様です」
デスクへ戻るといつもどおり? 間宮さんが隣の席から俺に微笑みかけた。なんだか専用の秘書ができたみたいでえらい気分になる。えらくないけど。
「藤城さんがミーティングの間に近くにできたレモネード屋さんに行って来たんです! 流行りのレモネード、カメグラ用に2種類買って来たのでどうぞ」
と俺の目の前に差し出されたのは最近テレビでも紹介されたレモネード店。中にはタピオカが入っている。カロリーが低いのに腹にたまるとかで女子大生の中で流行っているとかなんとか。
俺のカメグラには合わないから載せないけど……うん。意外と美味い。
「藤城さん」
「はい?」
間宮さんは可愛らしく両手を俺の方に差し出して「何かちょうだい」のポーズをしている。なんだろう?
もしかして、手を繋ぎたい……とか? 違うかっ。
「450円です」
あっ、ですよね——。
俺は過度な期待をした自分をぶん殴りたい気持ちになりながら財布から500円取り出して間宮さんの小さくて細い手のひらに乗せた。間宮さんは「お釣りはいただきますよ〜」とはにかみながらデスクへ向き直るとレモネードをすすった。
タピオカを噛みながら俺はパソコンに向き合う。経理部のシステムのバグ修正に営業の子のパソコンの修正か。営業の子の方は総務に直接持ってってもらおう。多分、更新が遅れていてバグってるだけだし。
「藤城くん、タスクは埋まってるかな?」
三島部長がこうやって直接声をかけてくる時は仕事を俺に振りたい時だ。正直、タスクは結構溜まっているが……聞くしかない。
「大丈夫ですけど、何かありましたか?」
「ちょっと、MTG室を取ってくれないか」
いつになく真剣な表情。俺は黙ってMTG室を予約した。
「あと10分後っすね、お願いします」
MTG室に入ると三島部長はリラックスした様子でパソコンを開くと俺に「いやー、ごめんごめん」と話し出した。よかった、俺の評価がどうとか、タバコが多すぎやしないかとかそういうことじゃないみたいだ。
「いや、人事部の方から連絡があってね。最近、営業部のマーケ課の女の子たちがねぇ。SNSでのバトルがひどいって話になっていてね。こっそりでいいからリストアップといつも通りスクショをまとめて欲しいってさ」
あー、そっち系か。だから音漏れのしないMTG室で話したかったのね。
「承知です。でも、バトルっていうと?」
「あぁ、これを見てくれるかな?」
それは鍵のかかったカメグラの1日投稿のスクリーンショットだった。そこにはメッセージアプリMINEの画像が貼られている。どうやら複数人で1人の社員の悪口を言っている……? 複雑だな。
「すんません、どういうことっすか?」
「わかりにくいよね。ようやくすると、マーケ課の木内という子がイジメに遭っている。彼女の悪口が書かれている……グループMINEの写真が謎のアカウントによって流出されているんだ。その名前を見るに悪口を書いている複数人ってのがうちのマーケ課の社員みたいなんだ」
そういうことね。
となると、木内さんに対するいじめをマーケ課の誰か……そのいじめグループMINEに入っている誰かしらが告発しようとしてSNSに上げているってことか。
「俺の仕事はその告発者を見つけるってことっすね?」
三島部長が頷いた。マーケ課か……。営業部署の中でもまぁ女ばっかの部署だったよなぁ。木内さんは確か俺の同期。ごくごく普通のおとなしい女の子だ。
***
三島部長、もとい人事部の依頼を簡単にまとめて俺はデスクに戻る。結構重い案件が続くな……。社内いじめか……。群れていていじめに発展するくらいなら原川姉さんみたいにハナっから一匹オオカミで仕事だけバッチリこなしていくスタイルの方が賢いな。
「藤城さん!」
おぉ……、一匹オオカミがここにも。間宮さんはいつも通りニッコニコで俺に駆け寄ってくると、俺の背後に回って背中を押し、早く席についてくれと急かした。可愛い。
「みてください!」
「うえっ?!」
俺の目の前にずん! と差し出されたスマホ。カメグラの画面。「かわいいです!」 というコメントの横には【その他コメント507件】
——507件?!
「さっきやり直した投稿のいいねは5000! コメントもたくさんでフォロワーは1万人に増えました!」
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