第16話 美人広報はパフェが食べたい!
間宮さんは料理が到着するまで俺の隣に陣取ってカメグラの投稿をしていた。ハッシュタグのシャープは半角で。そして空白を開けずに文字を入力するとハッシュタグが完成する。
これはメンションでも同じ原理なので間宮さんにちゃんと説明した。SNS時代に生まれて来たキラキラ女子だとは思えない間宮さんの音痴っぷりに笑いながらも彼女の真剣な姿勢に俺はかなりの好感を持てた。
「よし、これで多分他社の広報さんとかもみてくれるはずっすよ。手が空いてる時に気になる広報さんの投稿にいいねしたりコメントしたりしてSNSで交流してみるといいかもっすね」
ライバル企業でもない限り、広報界隈というのは交流が多かったりする。俺も間宮さんと絡むようになってからちょっと家で調査をしてみたんだが……キラキラ広報女子の間では定期的に開かれる勉強会や食事会などがあって。お互いに良いPR方法やビジネスマインドなどを発表したりしているらしい。
間宮さんはミスコン出身の有名人だけあっていいアイコンになると思う。今度進めてみよう。
「お待たせしました」
マスターが銀のトレーに乗せて持って来てくれた最高のランチを俺たちは何枚か写真にとって「いただきます」と手を合わせた。
間宮さんは女の子なのによく食べる子だ。チーズサンドにミニカレー。結構がっつりっすね。
「スパイシーなキーマカレーとチーズたっぷりのチーズサンドがよく合いますね。あっ、藤城さんっ、チーズ伸ばしているところ写真にとってください」
「っす」
俺は間宮さんのスマホ、カメラアプリを起動して彼女を撮影する。
あぁ〜〜、被写体がいいと写真撮るのが楽しすぎる。
「あとはいい感じに加工すれば完璧っす」
店に迷惑にならない程度に何枚か撮影して俺は間宮さんにスマホを返した。間宮さんは確認することなく食事に集中する。
少食な女子よりもこうやってがっつり食べてくれる子の方がやっぱ可愛いよなぁ。アニメの大食い系ヒロインみたいだ。
——じーっ
間宮さんは俺の胸あたり……じゃなくて俺のナポリタンをじっと見つめている。彼女の口元にはカレーがついてるし、なんならカレーはほとんど食べ終えてるし。
なんだろう?
「えっと、どうかしたっすか?」
「あの!!」
予想以上に大きな声。間宮さんは真っ赤な顔で一度クリームソーダを飲んだ。この人また突飛押しもないこといいそうだ。
でも安心しろ、俺。
この人は俺を男だと思っちゃいない。えっちなお願いとか、ドキドキするようなことは一切ないぞ。
「あの! 一口ください!」
「はいっ?!」
「ナポリタン、一口くれませんか?」
おぉ?!
キモい男の食いかけのパスタが食いたいんすか? やっぱこの人ちょっとどうかしてる……と思う。
間宮さんはまるで初めて女子に告白した男子中学生くらい真っ赤になっていた。ぎゅっと目をつぶって新しいフォークを握っている。可愛い。
「えっと、食いかけですけど大丈夫です……?」
「いいんですかっ!」
「あ、はい」
間宮さんは「ではっ」と嬉しそうに頷くと俺のナポリタンの皿をぐっと自分の方に引き寄せて、結構……いやかなり大きめの一口をすすった。気を使って取った分のパスタを噛み切らずに口に全部詰め込んだ。
ハムスターみたいに膨らんだ頰をもきゅもきゅ動かしながらにっこり。
「おいひぃです」
「よかったっす」
俺もナポリタンを頬張る。確かにここのナポリタンは美味しいんだよな。マスターいわく隠し味なしのケチャップ味。なんでこんなにコクが出るんだろう?
「ナポリタン好きなんですか?」
「はい、ナポリタン大好きです」
***
俺たちが食べ終えた頃、マスターがめちゃくちゃいいタイミングで食後のコーヒーとパフェを運んで来てくれた。
俺はアメリカンコーヒーをブラックで。間宮さんはパフェ。昔ながらの純喫茶らしくパフェもレトロな見た目だ。
だがそれがいい。
「チョコバナナ! 好物です」
「間宮さん、写真忘れないで」
間宮さんは興奮のあまりすぐに食べようとするので俺が注意する。俺たちは楽しむためにランチに来たんじゃない。SNSのネタ写真を作りにくるのと、間宮さんのモチベを上げるために来たのだ。
「んぅ〜! おいしい」
間宮さんはチョコソースのかかったバナナと生クリームを一緒に頬張ると今日イチの笑顔を見せる。
男に全く媚びてない状態でこんなに可愛いのはチートだろ。割とマジで。
「俺もあんまり甘いもの好きじゃないんすけど、ここのパフェは好きっすね」
アメリカンコーヒーはすっきりさっぱりでマスターがブレンドしたコーヒー豆だからか食後に最高だ。正直、喫煙席でタバコ吸いながら飲めたら最高なんだけどなぁ。
「藤城さんっ、一口どうぞ!」
俺は口元にせまったバナナが乗ったスプーンとニッコニコの間宮さんがスローモーションに見えた。
皿からナポリタンを食うよりも、パフェのスプーンなんて面積が小さいに全部口に入れるしレベル高いし……いやっ、待てよ拒否るのは違うよな?
「はい、あーんですよ〜」
自分の頰が熱くなっていくのがわかる。申し訳程度に空いた俺の口の中に間宮さんがスプーンを突っ込んで、バナナとチョコの甘みが広がる。
そんなことはどうでもよくて……間宮さんはあたかも当然であるように俺の口に入ったスプーンで続きを食べ始めている。
緊張なんてしてませんよと言わんばかりのニッコニコフェイスで。
「午後も頑張りましょう!」
間宮さんのモチベーションは戻ったようだ。えっと、俺は午後ちゃんと仕事ができるだろうか。死ぬほど不安だ。
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