第14話 初投稿! バズれ!

 俺は喫煙室へと直行することで「間宮さんと同伴出勤」という状態を多くの会社の人間に悟られないようにすることに成功した。

 朝から美人は心臓に悪い。それに……


 ——藤城さんのおうちに行きたいです!


 なんていうとんでも発言をしやがったのだ。1人暮らしの彼女なし男の家に行くってのがどういうことなのかあの人はわかっているんだろうか?

 まぁ、来たところで俺は彼女を押し倒すことはない。まず、社内恋愛なんてのは気まずくなるのはわかっているし、そもそも間宮さんに嫌がられるに決まっている。


 深く肺までタバコの煙を吸い込んで、吐く。

 とはいえ、俺は最近会社に出勤するのが楽しい。前までは早く後輩が入って俺もリモートにならねぇかなと思ってたが。正直間宮さんに関わるのは楽しいし目の保養にもなるし。なにより間宮さんは俺が嫌いなタイプの陽キャではないし。


「はよっす」


 三島部長に挨拶をして席に着く。

 もちろん、隣には朝ごはんをたっぷり食べてホクホク顔の間宮さん。俺はポーカーフェイスでパソコンを開いて仕事に取り掛かった。


「あぁ、安菱の案件のページバグと、アンケートデータ抽出完了しました」


 三島部長にダブルチェックをしてもらって俺の仕事はひと段落。もう昼過ぎだ。コンビニでも行って……って


「間宮さん? どうかしました? 腹でもいたいっす?」


 間宮さんはデスクに突っ伏して腹を曲げたような状態で小さな唸り声を上げている。手にはスマホ。


「ぜんっぜん、いいねが来ないんです」


 間宮さんはまるで死にかけのゾンビみたいなスピードで俺にスマホをよこしてきた。スマホの画面をのぞいてみると、俺が作った画像と間宮さんが考えた文章で投稿したカメグラ。

 いいねは30。多分全部社員だ。


「まぁ、最初はこんなもんっすよ」


「そうなんですかぁ」


「SNSってのは蓄積です。そもそも1つの投稿じゃ人の目に触れる確率が少ないんで……。もちろん、1つ目の動画や投稿がバズる人もいますがそれってかなり過激なものだったり、そもそも企業が入り込んでいいねを買ってたりするんで」


 間宮さんはしゅんとしょぼくれるとスマホを何度かタップする。そして安定の俺のページ。一番最初の投稿は3年前。多分恐ろしく下手な写真とハッシュタグもほとんどない投稿だったはずだ。

 俺なんて友達にも言わなかったから最初のいいねがついたのは投稿から3時間後、しかも外国の宣伝アカウントみたいな謎のアカウントだったな。


「なんか、頑張って考えたのにこんなに反響がないとやる気がなくなりますぅ」


 おい、仕事だぞ。と後輩なら怒っているところだが、俺は


「SNS投稿はモチベが大事っす。うまくいかない時はもっとおしゃれなもん食いに行ったり、おしゃれな場所行ったりしていい写真を取るといいっすよ」


 間宮さんは急に起き上がると「ぐるるるる」と鳴るお腹を抑えて俺の方をじとっと見つめてくる。これは……ランチに誘えっていうことなのか? そうなのか?


「ランチ、行きますか」


「いいんですかっ?! ぜひ!」


 待ってました! と言わんばかりの表情をした間宮さんは小さなバッグを抱きしめてそわそわとする。

 今日もコンビニ飯はお預け、あぁ……間宮さんのモチベーションが上がるおしゃれっぽい飯かぁ。

 俺は頭をフル回転させながらランチの準備を始めた。

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