2 モチベーションの保ち方を覚えるべし!

第12話 美人広報と朝活!

 

「そうだ、プライベートのなんですけど連絡先交換しましょう!」


 間宮さんは駅の改札前でスマホを取り出すと半強制的に俺のアプリIDを奪った。美女のIDがもらえるのが嬉しくて震えたと同時に俺のプライベートが彼女のSNS運用のために奪われそうな予感がした。


「あとで連絡しますね!」


「あ、お気をつけて。お疲れ様です」


 間宮さんは可愛く「お疲れ様です」とお辞儀をすると改札の方へと歩き出して行った。俺は地下鉄だから折り返すように歩いて家路についた。

 

 一人暮らしのワンルーム。エンジニアとしてそこそこ給料はもらっているのでいい感じのマンションである。今日は外食したんで料理はできないが、一応賞味期限のチェックと……あ、風呂も沸かさないと。

 はぁ……今日は散々だったな。やっぱ、俺みたいなのが美人とディナーってのは死ぬほど緊張するし、兄貴にはからかわれるし……早速母親から彼女紹介しろの最速メッセージが来ているし。


 ——ぴろん


「間宮さん……だな」


【今日はありがとうございました! 突然なんですが、明日の7時にこちらのお店い行きませんか? 私の行きつけのカフェなんですけどコーヒーが美味しいんです】  


 おぉ……。

 俺は一旦間宮さんのメッセージに反応せずにお店を調べてみる。会社の最寄駅よりから一駅で歩ける範囲。HPは簡素だが口コミはとても良いし、コーヒー豆にこだわっているいい感じのカフェだ。

 おしゃれというよりは清潔感のある感じ……だな。テイクアウトの朝食メニューもある。


【お疲れ様です。承知しました。明日の7時に伺います。おやすみなさい】


 俺は返信をさせないような返事を書くと間宮さんに送った。すぐに既読マークがついておやすみなさいという犬のスタンプが送られて来た。

 さて、風呂に入りながらSNSチェックと投稿しないと。


***


 うちの会社はフレックス制だ。フルフレックスなので1日24時間のうち8時間出勤して働ければいい。つまりは出社時間は好きな時間にしていいっていう最高の制度である。

 今日はとりあえずちゃんとした格好をして間宮さんに指定された駅に向かった。朝早いからかあまり人がいない。いつもは時間を遅くして満員電車を避けているが、早く来ても意外と満員じゃないんだな。


【着きました! 南口の改札の前にいますね! 緑のスカートです!】

 

 電車の中で間宮さんからのメッセージが届いた。


【もう着きます。すみません】


 改札を出るとぱっと明るい緑のスカートが目に入る。こんな朝だというのに全く眠そうじゃない間宮さんは俺に大きく手を振っている。

 今日も華やかっすね。やっぱり隣で歩くのはちょっと恥ずかしい。


「おはようございますっ。やっぱりキラキラ広報さんと言えば朝活! と思ったんです。いきましょう」


 朝活ねぇ……。確かに、意識高い人の間ではよく見かける。俺は朝は自分で作って食べる派だけど、まぁ彼女がSNSを立派に運用できるまでは仕方ないだろう。というか、美人と一緒にいるのは楽しいし、間宮さんだと安心できる。


 俺たちは駅に向かうサラリーマンたちの波に逆らうように歩く。まだ早朝だからか夜職の人たちやお年寄りが歩いていた。間宮さんは昨日とは違って低いヒールだからかずいずいと進んでいく。


「コーヒーお好きなら絶対に気に入りますよ」


「期待大っすね」


 店の外観はこじんまりとしたコンクリート打ちっ放し。中にはカウンター、バリスタは若い女性だった。

 木とガラスの扉を開けると古いベルの音がなって若い女性のバリスタが「いらっしゃいませ」と言った。


「あ、間宮さん。そちらは……」


 俺はバリスタに軽く頭を下げる。


「こちらは会社の後輩です。一緒に広報の仕事を手伝ってもらっていて」


「藤城と言います」


「来てくれてありがとうございます。カウンターにどうぞ。メニューは……間宮さんお願いできます?」


 間宮さんが俺の隣に座るとメニューを俺に見せてくれた。何十種類もあるコーヒー豆をオーダーできるし、セットメニューはどれも美味しそうだ。


「私は……いつものホットコーヒーと、アボカドサラダで」


 間宮さんはいつも頼んでいるセットみたいだ。俺はどうしようか。


「俺は、ホットコーヒー、豆はおすすめので大丈夫です。えっと、モッツァレラチーズのオープンサンドでお願いします」


 バリスタの女性は「かしこまりました」と微笑むとカウンターの奥へと消えていった。


「黒澤さんはコーヒーも料理も美味しいんですよ」


 間宮さんは会社とは少しだけ違う雰囲気で、マジでデートしてるんじゃないかって錯覚してしまいそうだ。


「期待大っすね」


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