第11話 美人広報とディナー!
「洋梨のコンポートと洋梨のパウンドケーキ……可愛い」
食後のデザートを楽しみながら間宮さんと俺はたわいもない話をしていた。間宮さんは見た目の通り明るくておしゃべりだ。
俺は大学在学中もほとんど女子と話したことはなかったし、今の会社に入ってからもエンジニア連中はほぼ男子、絡んでくれるのは総務のお姉さまたちくらいだ。
総務部のお姉さんたちはほとんどが主婦の人たちだ。多分、俺の母親との方が年齢が近いだろう。
総務とはパソコンの設定関係やアプリダウンロード関係で関わることが多いので比較的可愛がってもらえている。
「そういえば、藤城さんってコーヒー好きですか?」
「まぁ、はい。仕事が詰まってる時はよく会社の近くの喫茶店に行くんすよ」
間宮さんはパウンドケーキを飲み込んでから「もしかして……」と呟きながらスマホをいじると
「ここですか?」
と写真を見せて来た。
「そう、知ってたんだ。結構見つかりにくいと思ったんだけどなぁ」
「私コーヒー大好きなんですよぉ」
少し酔っているのか? 間宮さんの頰が少し赤くなっていた。あぁ、帰りどうするか。間宮さんってどこに住んでるんだろう。
***
ついにやって来たお会計の時間。俺が店決めたんで払いますよ。とかっこつけて言ってみたものの、間宮さんはすごい形相で俺を睨んでいる。なんというか、敵に見つかった時の猫みたいだ。
今にも引っ掻かれそう。
「私の方が1年も先輩なんですよ!」
「いや、でも間宮さん女性じゃないですか」
「女性でも私が先輩ですし! デザートも食べてますし!」
おぉ……なんと言い返すべきか。と俺がまごまごしているとマリコさんが俺の財布をひょいと奪う。
あっ、と声を出すと間宮さんがマリコさんに小さな声で言った。
「割り勘で……」
「割り勘ね、じゃあ、間宮さんは4000円よ」
間宮さんはブランド物の財布からお札を出すとカウンターに置いた。男として自分の情けなさに俺は襲われる。
「ごちそうさまでした。また来てもいいですか」
「もちろん、次は予約して来てね」
マリコさんと兄貴に礼を言った後、俺と間宮さんは最寄りの駅まで一緒に帰ることになった。方向で言えば路線が別なので駅解散。
もちろん、仕事上の関係なので俺たちはお互いを誘うようなことはない。間宮さんは少し酔っているようで心配だけど……。
「あのっ。藤城さんを男性として立てようとしなかったわけじゃないんです」
間宮さんは住宅街から大通りに出る手前の静かな道で立ち止まると俺のほうに振り返って言った。
「もしも、今日……藤城さんに奢ってもらったら重荷になっちゃうかと思って……それに」
「重荷って……そんなことないっすけどね?」
「違くて……、これからももっと藤城さんとご飯に行きたいんです。だから、それ全部出してもらうって、出してもらうのが当たり前になったら私とご飯行ってくれなくなっちゃうかなって」
——天使か!
余分に多くお金払ってでも間宮さんとご飯に行きたい男がゴロゴロいる中で間宮さんはなんて謙虚なんだ。
いや、これは恋人を前提とした関係じゃないから当たり前か。
「じゃあ、これからも一緒にご飯……行ってくれますか?」
「も、もちろんっ」
よくわからんけど否定するわけには行かず、俺は頷いた。間宮さんはにっこりすると俺の隣まで小走りになる。
「明日のランチはどこへ行きましょう?! 今週の藤城さんのランチって全部空いてますよね? あっ、でも1日くらいはお弁当の写真の方が好感度高いですよね? あっ、そうだ。デパ地下とかもいいですよねっ」
間宮さんがマシンガンみたいに話だした。
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