第10話 美人広報とディナー!


「そうそう、暖色系のフィルターの方が美味しそうに見えるっすね?」


「はいっ」


「長押しして連写して……」


 アプリを通しているので音は出ない。もちろん、店主である兄貴に撮影していいか許可は取ってある。

 SNSで外食の写真を載せる場合、特に個人の店は許可が必須だ。場合によってはテーブルでスマホを構えることも嫌がるお店もあるし。常識として。


「さ、食いますか」


 間宮さんはスマホを持ったままキョトンとする。可愛い。

 少しメイクが落ちているのか、朝見たときよりも化粧が薄くなっていてなんだかこう……ドキドキする。肌が綺麗だなぁとか。唇が意外と分厚いんだなぁとかよくない感情が俺の脳をよぎった。


「でもまだ上手に撮れているかどうか……」


「料理が冷めたら店に失礼っすよ。美味しく食べて話はそれからです」


 俺はカトラリーボックスからナイフとフォークを取り出してミックスフライ定食を食べ始める。サクサクのエビフライはびっくりするほど立派なエビを使用していて、しっぽまでうまい。白身魚のフライにかかったタルタルソースは兄貴特製のピクルスとヨーグルトを使っている。うまい。

 そんなグルメ話はどうでもよくて、間宮さんだ。

 間宮さんが頼んだのは一番人気のとろっとろのオムライス。間宮さんは特製トマトケチャップソースを選択。うん、なかなかセンスがいい。


「わぁぁぁぁ……美味しいぃぃ」


 間宮さんは漫画みたいな表情でオムライスを頬張っている。俺はこんなに可愛い女子を生きていて見たことがない。

 ちらっと厨房の方を見るとマリコさんと兄貴がニヤニヤ顔で覗いていた。やめろ恥ずかしい!


「フライドチキン一ついいですか?」


「どうぞっす」


 間宮さんはフライドチキンにフォークをぶっさすとパクリ。熱さを我慢しながらはふはふと頬張る。

 兄貴特製のフライドチキンはサックサクなのにスパイスが衣にも肉にも染みていて死ぬほどうまい。毎日弁当に入れたいくらいうまい。


「おいひぃ」


 ですよね〜。俺も大好きです。

 間宮さんの表情も言葉も男に媚びる女のそれではなく本当に料理を楽しんでいて俺はとても好感が持てた。もしかしたら俺を恋愛対象として見ていないだけかもしれないけど、それは考えないようにしよう。悲しいから。


「これ、毎日通っちゃいますね」


「この店ができてから俺、3キロ太りました。今は予約必須ですけどまぁよく食わせてもらうんで……色々オススメあるんでまた来てやってください」


 間宮さんは「うんうん」とうなずくとアボカドたっぷりのコブサラダを食べる。マリコさんが選んでくれたロゼワインを飲みながら最高の洋食を俺たちは楽む。


 でもなんだろう、すごい可愛い女の子とご飯に、しかもディナーに来てるのにこんなにも色気ってないもんなんだな? 俺が全く男として見られていないから……なのか?


 俺はちらりと間宮さんを見る。

 間宮さんはニッコニコでオムライスとフライドチキン、サービスのオニオンスープを交互に食べている。


「どうかしましたか?」


 間宮さんに見てるのを気がつかれてしまう。


「いや、いい食いっぷりだなって思って……」


「だって美味しいんですもんっ。えへへ〜、明日のお昼はサラダにします」


 問題は、この後起こるどっちが払うか戦争をどう落ち着けるかだ。

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