第8話 美人からのお誘いは断れない?!

「よし、これでOKっと。って……何してんすか」


 俺が共有スペースで仕事をしている間、俺の目の前に座ってふくれっ面をしている超美人の間宮さんはずっとこうして俺を睨んでいる。

 俺は間宮さんが隣にいると気が散るから共有スペースに移ったのにものの数分で彼女が俺の目の前に座り、無言の圧力をかけていたのだ。

 幸い、イヤホンをしているからなんとかなったが……


 ——この人は仕事する気がないのか


「あのー、投稿する文は終わったんすか」


「終わってないです」


「じゃあなにしてんすか」


「藤城さんが隣にいてくれないと質問できないじゃないですかっ」


 可愛く怒ったってダメだ。

 俺もなんだか間宮さんが見慣れてきたのかこのくらいじゃ動揺しない。そもそも社会人としてこの人はマズすぎる。


「チャットで送ってくださいよ、ってか質問する前に自分で調べるとかしてくださいって……俺はただのエンジニアなんすから」


「チャットおくりました」


「へ?」


 俺は頰を膨らませる間宮さんから目を離してパソコンのチャットを開く。本当だ、間宮さんからチャットが来て……


「あーメンションついてないっすね。メンションつけてくれないと通知こないんですよ。でも気が付かなくてすみません」


 間宮さんは「むー」と可愛い唸りを上げたあと少し悪い笑顔になって俺ににじり寄った。


「お詫びに今日、ご飯をご馳走してくださいね」


「はいっ?」


「言葉の通りです! SNSのこともまだたくさん話したいですし! お写真撮る練習にもなりますし! 三島部長が『多分、藤城くんは暇だよ〜、彼女もいないし』っておっしゃってましたし!」


 あぁぁぁぁぁ!

 大声でそんな恥ずかしいこと言わないで! 共有スペースにいた他の社員の注目を集めているせいで俺はどんどん顔面に血がのぼっていく。やばいやばい、これだから、陽キャの女は……。


「わっ、わかりました! とりあえず予定があるかどうか確認してからで!」


「えっ、予定があるんですか……。隠し彼女さんがいるんですかぁ」


 隠し彼女ってなんだよ。いたとしたら隠さないだろ、こんな年齢で。学生でもあるまいし。うちの会社は社内恋愛自由なんだからそもそも隠す必要もないし。そもそも俺彼女いないし!

 この人は俺のどこをみて彼女がいると思ってんだろう……。どういう思考回路してんだろ、間宮さんは。


「じゃあ、約束ですよ。さっ、デスクに戻って私の質問に答えてくださいよ〜」


 約束……。

 俺、今、会社一番の美女にサシ飲みに誘われたんだよな——?

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