第6話 美人広報さんはオシャレになりたい


「じゃあ、大きな目標を決めちゃいましょう。間宮さんはどういうSNSを作りたいって思ってますか? さっき作ってくれてた表見ながらでもいいんで〜」


 間宮さんはパソコンとにらめっこしながら


「フォロワーで言えば10万人以上がいいです」


 まずそう言った。俺は即座にそれを箇条書きするようにメモして行く。


「プライベートというよりはご飯や仕事関係、会社のPRがメインで」


「できれば顔出しOKな社員さんのインタビューとかを会社HPのブログでやりたいので紐付けしてSNSから誘導できるようにしたいです」


 となると、ランチと飲み会メインの食べ物の写真をあげるのがいいか。あとは社内の映えスポット紹介、オフィスメイク紹介くらいか。


「一番は……SNS運用と楽しくしたいんです!」


 間宮さんは机に身を乗り出して言った。まぁ、一応SNS運営も仕事だし、広報だって仕事だ。でも、間宮さんを見るにいつも楽しそうだが……


「今の仕事って楽しくないんすか?」


 間宮さんは「まずい」と言わんばかりの顔で俺を見る。


「えっと……私はその今は何もできてなくて。社長や経営陣が出した発表をそのままライターさんにお渡しして、最終チェックだけして入稿する。イベントの司会の台本だって……全部。他社の広報の人に比べると私は顔だけのお飾りなんです」


 間宮さんはもってきていたペットボトルの蓋を開けた。いつもの明るくて可愛い彼女の表情は少しだけ悲しげで、諦めたような笑みはこっちが切なくなるくらいだ。


【間宮さんが楽しみながら成長できるSNS運営】


 俺がメモの一番上、タイトルを書き換えた。間宮さんの顔が少しずつ笑顔になって行く。


「まぁ、俺はただのエンジニアなんすけどね」


「ご飯関係の写真の撮り方教えて欲しいですっ、ししょーっ!」


 間宮さんはアジェンダを組むのが苦手だ。

 それでも、仕事に真摯に向き合っていて多分誰よりも一生懸命だと俺は思った。彼女がどんな気持ちで俺をランチに誘って来たのか……。相手の立場に立って見れば俺みたいなキモい陰キャに話しかけるのは怖かったろう。それでも勇気を出してくれたのだ。

 俺もその勇気に男なら答えなきゃならないだろう!


「ご飯のことはいいとしてってもうミーティングの時間終わりっすね。じゃあ、必要なものは後でチャットするんで」


 俺はパソコンを閉じてMTG室を後にする。


(あー!! 死ぬほど緊張した!!)


 だってあんな1軍女子と話すのなんて初めてに近いし! 2人っきりの密室で1時間なんてほとんど拷問……ご褒美です、はい。

 あータバコタバコ。


 俺はポケットの中の箱を確認してパソコンをデスクに置くとスマホを手にとって喫煙室へと向かった。

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