1 アジェンダはしっかり組むべし!

第5話 美人広報とMTG!

 MTGルームに入ると間宮さんはパソコンとモニターを繋いで、可愛らしい水玉デザインの資料を映し出した。

 

「私が目指す会社広報のSNS!」


 ほぉ……。エンジニアの俺はほとんど社内資料なんてものは作った経験がない。たまーに、営業の資料をデザイナーが直しているのは見るが……資料作りは俺の分野じゃないし。

 

「見てくださいとりあえず、私がいいなと思った人あげてみました!」


 可愛い表紙だと思いきや次のページは表計算ソフトの画面。そこに並べられたのはライバル企業や大手企業の広報の人たちのSNSだ。

 ほとんどが俺たちと同じくらいの女性で、カメグラだけじゃなくつぶやき系SNSチュイッターや、本名での登録が必須となるスマイルブックス、ショートムービーを投稿するSNS等複数のアカウントを持っているみたいだ。

 わかりやすい表になっているが……うーん。


「そうか、で、間宮さんはどうしたいんすか」


 と俺の質問に話の腰を折られた間宮さんは困った顔をする。正直、ミーティング意味を感じなくなって来たぞ。


「いい人を見つけたんですけど……」


「それはわかった。知ってる」


「じゃあ、次は私がいいなと思ったインフルエンサーです!」


 おぉ!? 強引に次行くんかいっ!

 とやかく言っても仕方がないから最後まで聞こう。そうしよう。

 次のページには俺たちと同じくらいの歳で事務所に所属していないであろうインフルエンサーが羅列されていた。女の子で綺麗系の子たちだ。ほとんどが料理か旅行か自撮りだ。

 夜の雰囲気が漂っていない子が多いのは間宮さんが清楚系だからだろう。ちゃっかり俺のグルメアカウントも入ってるじゃねぇか。


「次は〜、今年、バズったハッシュタグです」


 そのページには今年始まってから流行ったハッシュタグや物、ダンス、曲などがまとめられている。

 あぁ、懐かしい。猫の形のパンケーキめっちゃ流行ったよな。俺は独りもんだし行けなかったけど……。甘党としてはぜひ食べてみたい商品だったなぁ。


「……」


 間宮さんは口を閉じると座って「以上です」と言った。

 

 俺はエンジニアとして、営業が受注した案件によってはチームに入れられることがある。そんときに、営業さんやらディレクターやらがこうやってミーティングを組んで説明してくれることもある。

 それを見ているからわかるが……


 ——間宮さんの資料は目次アジェンダがない!


 まぁ、目次っていうか会議の内容が全くない! これじゃあ、ただのお気持ち表明で彼女が何をしたいのか、何を会議したかったのか、俺が何を話せばいいのかわからないじゃないか。


「えっと、ちょっとキツイ言い方になっちゃうかもなんすけど……」


 間宮さんは「大丈夫です!」と自分の胸を叩いた。


「今の資料を見て、間宮さんがどういう広報になりたいのか、どういうSNSをやっていきたいのか目標が見えなくて俺、なんとも言えないっすね」


「へ? いま見せたじゃないですか」


「いや、有名な他社の広報さんとか、インフルエンサーさんとかは見ました。でも、その人に間宮さんがなれるわけじゃないっす。それに、うちの会社の特色やルールだってある。分析はちゃんとしましたか?」


 間宮さんはぐっと黙り込んで、少しの間沈黙が流れる。


「分析は……できてないです」


「そうっすか……じゃあまずはそれを決めないといけないっすね」


 間宮さんが首をひねるので俺は自分のパソコンにモニターをつなげると白紙のメモページを映し出した。


「わかりやすく、アジェンダにしちゃいましょう」


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