第4話 美人の隣は辛い

 俺はビルの地下にある喫煙室で2本タバコを吸ってからオフィスへと戻った。その間も間宮さんとのランチはどうだった? と開発部の奴らからチャットの通知が止まらない。

 内容を話すのは約束に反するので俺は「普通に仕事の話」と嘘をつく。知ってか知らずか三島部長は可愛いスタンプで俺に反応してくれていた。


「戻りまし……た? あ?」


 変な声が俺の喉の奥から漏れた。

 なぜなら6席あるうちの開発部のデスクの島、しかも俺の隣の席に間宮さんがノートパソコンを構えて座っていたのだ。しかもたいそうリラックスした様子で食後のコーヒーまで飲んでいる。

 ニコニコの三島部長。

 営業部やコーポレートの男子たちの痛い視線。

 俺に気がついた間宮さんは満面の笑顔で俺に手を振った。


「間宮さん、なんでそこに」


「えっ、お隣の方が仕事しやすいじゃないですかあ」


「仕事は自分のデスクでお願いします」


「えっ……ひどい」


 うるうるとわざとらしい上目遣い。三島部長が「そこの席の人はリモートだから使ってくれて構わないよ」と間宮さんのフォローをする。このじじい!

 俺は仕方なく自分のデスクに戻るとパソコンを開いて依頼が来ていないかどうか確認する。社内チャットのバグと案件で使ったHPを閉じるだけか。1時間もあれば終わるな。

 うん、定時まであと5時間。となりには社内イチ美人の間宮さん。気が気じゃない!!


***


【(間宮) MTGルームとりました! 先ほどのアジェンダの説明をお願いします!】


 間宮さんはわけのわからないチャットを送ってくると俺の方を見てウインクをする。かわいければなんでも許されると思ってやがるな! こいつ……可愛いけども。

 俺はそれに小声で対応する。


「チャットじゃダメっすか、会議室とる意味ないっすよね」


「えっ……でも、れっきとした戦略ですから……うちの上長もOKしてますし」


 貴女の上長って社長ですよね?!

 広報部は今の所間宮さんの1人部署。彼女は俺よりも1つ上の先輩だから、まだまだ若手ってことで彼女の上司は社長。まぁ、社長直轄の部署って感じだな。

 多分、SNSをやれってのは社長の指示なんだろう。広報として彼女をどうやって伸ばして行くか……ぶっちゃけかなり大事だろうし。


「そりゃ、俺には俺の仕事があるんですが……」


「こらこら、藤城くん。社内エンジニアは社員の困ったを助けるお仕事だよ。行っておいで」


 このじじい……。


「うっす……了解しました」


「よしっ、じゃああと10分後にミーティングね! 見て見て、早速開設したんですよぉ。えへへ〜、フォローしてくださいね」


 さっきから真剣にパソコンに向き合っているなと思ったらSNS作ってたのか……。

 

「ってか、MTG室とるなら隣にいる必要ないっすよね?」


「私、SNSだけじゃなくて会社のHPのブログとかもやってみようと思ってて……社内のHPのことは藤城さんに聞けって言われたのでしばらくはここでお仕事をします!」


 まじか……。

 俺はいかに目の保養は「関わらないこと」が大事だったんだと悟った。静かで平穏で陰キャの俺でもゆったりできるこのスペースが……。

 キラキラのしかも社内で一番目立っている女子に侵食されたのだった。



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