第3話 美人とのランチは辛い
「えっと……俺何すればいいんすかね?」
俺は沈黙を埋めるように肉を焼きながら彼女に聞いてみる。高級店だけあって煙がすぐに吸い込まれる。今だけは煙が俺と彼女の間に漂っていて欲しい。そう思った。
うまそうな香り、いつもならがっつくが正直、美人を前にすると食欲が湧かなかった。
「私を人気カメグラマーにして欲しいんです」
「それって、社内のディレクション部の奴とかの方が詳しいんじゃ?」
ディレクション部と言うのは営業部の中でも制作会社とやりとりをして広告制作のつなぎをするような奴らだ。営業が企画提案をしてクライアントを捕まえ、ディレクション部のディレクターがその案件を制作会社と連携して形にする……。つまり、売れる広告を作るプロだ。
俺の仕事はそこで発生するHPの作成だったり、アンケートを作ったりまぁ色々だ。
「でも、藤城さん以外にお願いできる人がいなくて……」
いやだからいるだろ。
とは思っていても言えない。
「女性同士の方がいいんじゃ?」
「本当のこと教えてくれると思います??」
おぉ、なんで煽り口調なんだよ。間宮さんは口を尖らせるとタン塩を網の上に乗せた。まぁ、女性同士は色々あるんだろうなぁ……。
「えぇ……お仕事の一環って言うのであればやりますけど……ホントに俺であってるんすよね?」
「はいっ! では契約成立ですね! じゃあ食べましょ!」
間宮さんは満面の笑みになるとテーブルの端っこにあったタッチパネルを鷲掴みにすると色々と注文する。「ご飯はやっぱり大盛りじゃないと!」なんて言いながらタッチパネルをタップした。
***
「いや、確かにセンスないっすねぇ」
大量の肉を食べて食休み中の間宮さんのスマホを見ながら俺は思わず口から本音が溢れてしまった。
彼女の写真はあまりにもひどい。そもそも何かの依存症かな? と疑いたくなるくらい写真はブレブレだし、画角や光の角度のセンスもない。
加工アプリで加工しているようだが全くフィルターがマッチしていないので逆効果だ。
特に自撮りの方は顔の良さでなんとかなっているものの普通の女子だったらありえない角度で撮られたものばかりだ。
「うう〜」
可愛い。
おもちゃを取られた子犬のように唸った間宮さんは俺を可愛く睨む。
「写真はまぁいいとして、広報部ならライティングとかあるっすよね? どうしてるんすか?」
広報部では会社のPRをするのが仕事なのだから様々なメディア媒体に文章を送ることがある。会社で新しいサービスを発表することになればそれを報道機関やネット記事サイトなどに依頼して記事を作ってもらうのだ。
それだけじゃなく広報は会社主催の様々なイベントの司会進行を任されたりスピーチをしたり、新卒の会社説明会なんかの原稿を作ったりするんじゃないか?
「外部委託です」
となると、文章を考えるのも苦手……か。
「どーせ、私は顔採用ですよ〜だ」
勝手に妄想してふてくされた間宮さんはまるでビールを飲むようにウーロン茶を飲み干した。やることなすこと全部可愛い……。
「そろそろ、昼も終わりなんであとは社内のチャットでやりとりしましょう。まずはそうっすね。間宮さんがどんなカメグラにしたいのか、あー俺から質問事項作って送るんで返してください。チャットで」
間宮さんはじろっと俺の方を見ると
「なんでチャットなんですか、話した方が早くないですか」
と言った。
まぁ正直、そう言われればそうなんだが社内でずっと間宮さんと話すってのは心臓にもメンタルにも悪い。嬉しいけど。
「まぁ、文章を人に伝える練習ってことで」
「えぇ〜」
「えぇ〜じゃないっす」
「むぅ……。このことは内緒ですよ! 私と藤城さんしか知らないんですから」
「それはわかってます」
経費で出るってことで会社のクレジットカードで支払いを終えると、俺はタバコを買いに行くと言って彼女を先に会社へ返した。
とりあえず、タバコを買って会社の喫煙室で一服だ。大変なことになったかも。
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