ジェネシスお見合い婚

あたまゆるふわ系オムライス脳漿

第1話


 「魔王!!俺はお前を討伐する!!!!!」


 俺はようやく辿り着いた魔王城の最奥で叫んだ。なんかよくわかんないけど引き抜いたら村の爺さん婆さんがビックリしていた剣の先を魔王の顔に向け、なんかよくわかんないけど厳めしい爺さんが作ってくれたメッチャ良いらしい盾を構えながら、だ。


 魔王は俺が現れたことにも、叫んだ言葉にも、まるで全く関心が無いかのように、微動だにせず静かに椅子に座っていた。


 「ッ!何とか言ったらどうなんだ、俺は今から、お前を殺す!!」


 ピク、と魔王の角が動いた。魔王はゆっくりと頭をもたげ、こちらにその眼差しを投げかける。



 「やれるものなら、やってみると良い」


 魔王がそう呟いたのと同時に、俺は剣を振りかぶって駆け出した。



〜〜〜〜〜 5時間後 〜〜〜〜〜



 「何のつもりだ魔王!!!一体なぜ俺を攻撃しない!?」


 何度も何度も斬りつけ続け、しつこく魔術攻撃を喰らわせた魔王は既に息も絶え絶えだった。もうすぐコイツは絶命するだろう。本来ならば勇者は喜ぶべき所だったが、全く素直に喜べない。何故なら、魔王は一度も勇者の攻撃を避けず、一度も勇者を攻撃しなかったからだ。


 前代未聞かつ意味不明過ぎる魔王の行動に、勇者の中でしだいに疑問と焦りが膨らんでいった。何か想像の及ばない、もっと良からぬことが起ころうとしているのではないか。今まで一度も、こんなことは……


 苦しそうに目を細めた魔王は、ついに勇者の大きな斬撃で床に倒れた。勇者は魔王を上から見下ろす格好で、トドメの一撃のための構えで近付いた。


 駆け寄った勇者があと一歩で攻撃を繰り出す間合いまで近付いたところで、魔王はポツリと勇者へ話しかけた。


 「勇者よ」


 呼吸すら必死な様子だが、絞り出すように魔王は言葉を発した。序盤から尋常でない魔王の言動に得体の知れない恐怖と警戒心を抱きながら、鼓舞するように勇者は魔王のもとへ到達し、剣の切っ先を魔王の首にあて、次の言葉を待った。


 魔王は、静かに告げた。


 「お前と会うのは、これが10000回目になる」



 は、と声が勇者から漏れる。10000回目??俺は今日やっとの思いでお前の所に辿り着いたのだ。もちろん初対面である。このラスボスは、いったい何を言い出すんだ?


 「理解できないのも無理はない。ただ少し、聞け…」


 これ以上は危険だと、勇者の本能が告げている。聞いてはいけない。何か、戯言か新手の魔術か何かでこちらを誑かそうとしているのに違いないのだ。さぁ早く、コイツを殺さなければ…


 しかし勇者の剣は動かなかった。どうしても、次の言葉を聞かずには切れない、そんな強い気持ちもまた勇者の中に起こっていたのである。


 「勇者、私は今まで、9999回、お前の死を見た…」


 何か、とんでもないことが始まっているのではないかと、勇者はそう感じた。罠や策略といった、そんな単純なものではない、もっと、気を失うほど途方もない話なのではないか?そんな空気を感じた。黙ったまま、また次の言葉を待った。


 「…初めは…何と、弱いものかと思った……こちらが攻撃すれば、すぐ、お前は死んでしまった……死んだらすぐ、次の「お前」が来た…」


 遠い目をした魔王が、肩で息をしながら続ける。


 「勇者…何回、死んでも……お前は私のもとへ来た。今のように、少年の…時もあった、子…を連れ、倒しに来…た…時もあった、女の時もあった…」


 魔王の目がこちらを真っ直ぐに見つめた。俺だけじゃない、もっと沢山の「俺」を俺の姿の中に見つけているような深い眼差しだった。


 「…嫌になるほど……繰り返しても、お前は全く……変わら、なかった……必ず…私…のもとへ来て、必ず…私の、そばで、…死んでいった………戦わ…なくとも、同じ………」


 「毎日…手合わせだけ…しながら、死んだお前もいた……ともに、より良い…世の中の、ため、国を治めた……お前もいた……、南の島で……巨乳のお前と…2人暮らした…時もあった……」


 「楽しそうだな!?!??!!」


 思わぬ角度から飛んできた魔王の口撃に、白目を剥きながら今生最大の叫びをあげてしまう勇者であった。そんな勇者の様子を見ながら、更に魔王は続ける。


 「し、かし……どのお前も……必ず、死んだ……お前の死は、どの死も、全て、見届けた………」


 勇者は気が付いた。苦しそうな表情は、何も自分の攻撃のせいだけではない。魔王の心の苦しみが、顔に表れているのだ。切なそうな愛おしそうな、絶望しきったような表情で、魔王は次の言葉をついだ。


 「私は…もう……お前を亡くす…こと…耐えられない……ど……だ…私を殺せ、勇者……」


 「!!」


 あまりの衝撃に、わなわなと勇者の手は震えた。魔王の眼には、目を見開いた自分の顔がゆらゆらとしながら映っていた。この魔王の告白に、事実に、驚きに、勇者は雷に打たれたような感覚だった。


 勇者が持ち上げると、カチャ、と剣が音を立てた。魔王は目を瞑り、その一瞬を待った。


 

 「バッッッッッカヤロオ!!!!!!!!!」



 ガシャーンと剣を投げ捨てる音が聞こえ、勇者の叫び声が響き渡った。魔王は驚きと騒々しさにハッと目を開け、伏したまま勇者を見上げた。


 「はいそうですかと俺がお前を殺すと思ったか!??!んじゃあテメェを殺した後のこの俺はどうすんだよ!!えぇ!?お前を殺したいほど憎んだ俺も、お前を愛した俺も、全部俺だろうが!!!お前がいなくなった世界で生きろってか!!大体お前は昔っからいつもそうだ!!自分のことばっか考えやがって俺の気持ちは無視かよオイ!!お前な、俺だってお前のことが!!」


 「ゆ、勇者、勇者、お前、記憶が…」


 「ハン?………んぁ???」


 勇者が一万回分のメモリーwith魔王を取り戻したと同時に、突如魔王城の天井がパカッと割れ、パンパカパンパンパッパパ-♡という軽快なラッパの音が鳴った。光さしこむ割れ目から、真っ白な衣に身を包んだ天使が降り立つ。


 「おめでとうございます!!あなたがたは因果を克服しました!」


 ポカンと呆けた俺たちの前で、そう天使は微笑んだのだった。チャンチャン。






 






 

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ジェネシスお見合い婚 あたまゆるふわ系オムライス脳漿 @ishkopp

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