104.魔神大戦④
「ほうほう、あの人間は中々やるようじゃなぁ。プロメテアが執着するわけじゃ。して――」
荒々しく燃え上がる一方の魔神とは対照的に、もう一方の魔神は静かに構える。その視線はゆっくり、対峙する四人に向けられる。
「ワシの相手は主らか?」
「そうだよ。大地の魔神ドーム」
「ほう、これは久しいのう、氷の小娘がまだ生きておったか。エクトスの小僧に聞いた時は驚いたが、こうしてみると呆れるのう。あの時のまま小娘とはな」
「小娘小娘って失礼だなーもう! これでも私は成人してるんだから!」
子馬鹿にする魔神に対して軽口で反応するアルセリア。賢者らしく余裕を見せているが、内心は特に警戒していた。
大地の魔神ドーム。姿はプロメテアと変わらないが、圧倒的に大きさが異なる。プロメテアより手足が太く、見た目だけでわかる重厚感がある。
その巨大すぎる存在感はまるで、目の前にもう一つの大きな大陸が浮かんでいるような。厚すぎで先が見えない壁と話している感覚に陥る。
「こいつが……大地の魔神か。炎の奴とは全然違う威圧感があるな」
「気を引き締めるんだ。シルバ」
「わかってるぜ兄上」
「そう警戒せんでもよいぞ? ワシも目覚めたばかりでちと魔力がなまっておる。まずは小手調べじゃ」
ドームがニヤリと笑い、背後に無数の岩石を生成させる。生成速度は瞬きの刹那、四人とも気付いた時にはすでに生成は終わっていた。
背後の岩石が一斉に四人に向けて放たれる。
「速っ――」
「これは間に合わ――」
「千刃氷柱!」
出遅れた三人を庇うように、アルセリアが術式を発動して相殺した。彼女は千年前にドームと対峙している。故に知っている。攻撃パターンや速度、その強さを。
「反射で反応したわけではなさそうじゃな。備えておったか。小癪な小娘じゃ」
「小さい小さいって言いすぎだよ! ちょっと大きいからって調子に乗らないでほしいな!」
「そうかそうか。まだ大きさが足らんか? じゃったらこういうのもあるぞ?」
ドームは再び岩石を生成する。初手と同様に複数の岩石が浮かぶ。しかし今度は放たない。
生成した岩石の一つがドームの頭上斜め後ろにある。その一つに向けて、残った岩石が突進を開始する。
岩石通しのぶつかり合いで音が響く。重く豪快な音は空気をも揺らし、四人に緊張が走る。
「大きいほうがいいのじゃろう? なればもっと大きくしてやろう」
「こ、これって……」
ぶつかり合った岩石同士が融合し、形を変化させていく。物の数秒で見上げる大きさにまで膨れ上がり、最終的にでき上がったのは、超巨大な岩石の像だった。
「巨大ゴーレム!? しかもこの密度は」
「ああ。かつてない……魔神の力か」
完成した巨人を見上げながら、シルバとグレーが難しい顔をする。大地属性の魔術には、ゴーレムを生成する術式が存在する。特殊というわけではなく、大地属性ならば多くの者たちが好んで使う術式の一つだった。
ただ、魔神がやるとスケールが違う。大きさも、生成された岩石の硬度も、内に宿る魔力の総量も……。
仮に、この王都にいる大地属性の魔術を全員集めても、同じ巨人は作れない。それほど圧倒的なゴーレムを、当たり前のように作り上げた。
「どうじゃ? 大きさに震えるじゃろう?」
「な、なんだよさっきから! 私に対する当てつけなの! そんなに私のことが嫌いなのか!」
「当然じゃ。お主らに阻まれたせいで、ワシら魔神は千年も眠りにつくはめになったのじゃ。恨んでおるぞ。腹の底からのう」
「くっ……千年眠っていたのは私も同じなんだよ」
アルセリアがゴーレムに対抗するため術式を発動しようとする。その彼女を、優しい声が引き留める。
「待つのじゃ。ここはワシに任せなさい」
「え? 学園長さん?」
「あの大きなゴーレムの相手はワシがする。代わりに主らには魔神の相手を任せよう。ワシはもう年じゃからな。派手には動けん。その代わり――」
アレイスターの右手に水が集まり、凝縮して一本の杖へと変化する。彼は杖でトンと地面を叩いた。その直後、彼の身体を洪水のごとく水流が包み込む。
魔術学園のトップにして、特級魔術師の一人。若かりし頃の彼は数々の伝説を残し、もっとも賢者に近い魔術師と評されていた。
年老いて前線を退いた彼だが、その実力は衰えておらず、かつての偉業を再現することは難しくない。雨を降らし、海を裂き、全ての水を支配下に置く。
水魔術の到達点の一つであり、彼だけが持つ使役術式。超高密度の水によって作り出された巨人は、岩石の巨人と向かい合う。
「――【
「ほう」
「人形遊びはワシも得意じゃよ。いい年してやることではないがのう!」
ポセイドンが先に動き出す。拳を握りしめ、岩石の巨人の顔面を殴りつける。衝撃で巨人は揺らぎ倒れそうになるが、一歩後退することで踏みとどまった。
たかが一発、一歩の攻防で大地が揺れる。その衝撃は全て偽りの王都に及んでいる。アレイスターは巨人と戦いながら結界の制御も並行してしなければならない。もし彼が倒されれば、結界は破壊され本来の王都が顔を出す。
故に彼は倒れれるわけにはいかない。必然的に最前線で戦うことは避けるべきだった。それを理解している三人がドームの眼前に向かう。
「学園長さんに大きいほうは任せよう! 私たちはこっちの小さいほうを倒すよ!」
「小さいって……あんたよりは大きいだろ」
「態度は同じだな」
「う、うるさいな! 君たちはどっちの味方なのさ!」
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