53.良い話がある

 僕が目覚めた日の翌日。

 アレイスター学園長に呼び出された僕と師匠は、朝早くから学園に足を運んだ。

 元々僕が目覚めたら一緒に来るように言われていたらしい。

 そうして二人で学園の門をくぐったのだが……

 普段から生徒が行き交い賑わう学園内も、今日は一段と静かだ。


「あんなことがあったからね。しばらくお休みなんだって」

「なるほど。道理で生徒がいないなと」


 僕が眠っている間に魔神襲来は王都中で話題になっていた。

 当然と言えば当然だ。

 魔神は過去最大の脅威にして、現代にまで語りづがれる最悪の象徴。

 それが復活して、しかも人為的なものだとわかれば不安は大きくなるだろう。


「もう王都の外にも噂が行ってるみたいだよ」

「フローラも言っていましたね。お客さんが怖がって、王都から引っ越す話をしていたって」


 今朝、出発前にフローラとも話した。

 僕が目覚めたことを師匠と同じくらい喜んでくれて、素直に嬉しかった。

 それから街の人たちの様子も少しだけ聞いた。

 案の定、不安の声が増えているらしい。

 王国に説明を求める声もあって、お偉い人たちはその対応に追われているようだ。


「ジータも駆け回っているんでしたっけ?」

「らしいよ。今はみんなが不安な時期だから、自分たちが支えるんだって張り切ってた」

「無理しなきゃいいですけどね」

「フレイに言われたくはないと思うなー」


 僕はそれに、師匠も同じでしょうと返す。

 他愛ない会話をしながら建物の中に入ると、大人たちが忙しそうに走り回っていた。

 普段は見かけない顔も多い。

 おそらく学園に属する魔術師で、任務か何かで出ていた人たちが戻ってきたのだろう。

 正確には招集されたというべきか。


「何と言うか、やるせないですね。昨日の夜は平和だって感じたのに」

「そうだね。仕方がないとは思うけどさ」


 そのまま僕たちはまっすぐ学園長室へ足を運ぶ。

 扉の前に到着して、トントントンと三回ノックをすると。


「入りなさい」


 中から学園長の声が聞こえた。

 僕らは扉を開ける。


「失礼します」

「よく来てくれたね。フレイ君、それにアルセリア殿も」


 椅子に座っている学園長が優しく声をかけてくる。

 彼の前の机には山のように書類が積まれていて、その処理に追われている様子。

 その手を止め、学園長は僕らを応接室に案内してくれた。

 向かい合ってソファーに座り、改めて僕に話しかけてくる。


「身体の調子はどうかな? もう万全かな?」

「ええ、何とか」

「それは良かった。アルセリア殿も変わらずか?」

「見ての通りだよ」


 僕と師匠の体調を聞いた学園長は、安心したように微笑みを見せる。

 小さな声でそうかと呟き、真剣なまなざしを僕に向ける。


「改めて感謝を。君たちの活躍によって王都は守られた。学園の代表として、王国の魔術師として深く感謝する」


 そう言って深々と頭を下げる。

 態度や声から、心からの感謝だと伝わってくる。

 僕と師匠は顔を見合わせ、頭を下げている学園長に言う。


「僕らは当たり前のことをしただけですよ」

「そう! ここはフレイにとっても大事な場所だからね」

「……感謝する」


 学園長はゆっくりと頭を挙げる。

 再び目が合ってから、僕は彼に問う。


「それで、今日はどういう用件で呼んだんですか? まさかお礼を言うためだけってわけでもないでしょう?」

「もちろんじゃ。君にとって、いや君たちにとって良い話がある」

「良い話ですか?」

「うむ。話は大きく二つじゃが、どちらも魔神撃退の貢献が関係しておる」


 そう言って学園長は数枚の紙を机の上に出した。

 書かれている内容は魔神との戦いの記録で、僕の名前が大きく記されている。


「これは先の事件に関する報告書の一部じゃ。多くの者が、君と魔神が戦う姿を目撃しておってな? その証言をまとめたものになる」

「へぇ、結構細かく書かれてますね」


 何だか見たことがある言い回しもチラホラあるな。

 さすがは我が親友!ってコメント……これ絶対にエヴァンだろ。


「ここまで明確に活躍が記されておれば、誰も君の実力を疑う者はおらん。世間が君という魔術師を知ったことで、上層部もようやく君への疑念をなくしたようじゃ」

「それってつまり、僕の監視が」

「うむ。君は晴れて自由の身じゃ。これからは監視も必要なくなる」


 僕は思わず師匠の方を見る。

 すると師匠はニコリと優しく微笑んでくれた。


「よかったね! フレイ」

「はい!」


 これでやっと長く続いた監視生活から解放される。

 最近はジータと一緒も慣れて来たけど、やはり監視されているというのは気分の良い物じゃなかったからな。

 喜ぶ僕に学園長は続ける。


「今のが一つ目じゃ。話はもう一つある」

「そうでしたね。お願いします」

「うむ。君への疑いが晴れたことで、保留になっていた事項も審議された」


 保留になっていた事項?

 そんなのあったかと思い、キョトンとした表情になったのだろう。

 ピンと来ていない僕に学園長が答えを言う。


「等級じゃよ」

「ああ、そういえば保留でしたね」

「それも決まった。審議は一瞬じゃったよ。満場一致、誰からも反対意見はでなんだ」


 そう言いながら学園長は改まり、一呼吸おいてから宣言する。


「フレイ・ヘルメス! 君は【特級魔術師】に任命されたのじゃ!」

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