54.特級魔術師
特級魔術師。
エスターブ王国における魔術師等級の最上位。
優れた魔術師の中でも異質であり、規格外と称される者のみが選ばれる地位。
現在、学園長を含む五人が任命されている。
そして今、六人目が誕生した。
「特級は、他の魔術師と一線を介する実力を持つ者じゃ。賢者に近しい存在であるとも言われておる。故に絶大な敬意を払われ、時に王族と同等の権力を有する」
「王族と同等? そんなに凄いんだ特級って」
千年前から目覚めた師匠は、現代の等級制度については詳しくない。
僕から何度か説明はしたけど、あまり興味もなかった様子。
五級から一級までが一般的な等級で、特級だけが斜め上に位置している。
王国にとって……否、人類にとっての切り札と呼べる存在だ。
「それに僕を指名ですか……随分と思いきりましたね」
「いや、そうでもない。入学時点からワシは君を特級に推薦しておったし、陛下も前向きじゃった」
「そうだったんですか?」
そんな話は初耳だ。
学園長は頷き続きを話す。
「意を唱えたのは貴族たちじゃ。君の出生、ヘルメス家との関係もあってのことじゃろう」
「なるほど」
話しぶりからして、父上が手を回したのか。
いや、あの頃にはすでに行方不明になっていたし、単に他の貴族たちが面白くなかっただけか。
どっちにしろくだらない理由だ。
「しかしそれも今日までじゃ。特級となれば、君は誰からも縛られることなく自由に行動できる。ワシとしては聊か残念じゃが、学園での授業も一部は免除される」
「授業を受けなくて良いんですか? それは聞いたことありませんでしたね」
「当然じゃ。学園に在学中、特級に認定されたのは君が始めたじゃからのう」
学園長曰く、前例がないから新たに制度を作ったという。
その制度はほとんど僕のために作ったもので、王国内における自由行動の許可。
王国が管理する地域であれば独断で入ることができ、独自の立場からの介入も許される。
要するに、倫理に反しない限り何でもして良いということらしい。
「そこまで許して良いんですか?」
「許すも何も、特級を掟で縛った所で無意味じゃからのう。その気になれば他の魔術師を敵に回せるのじゃなから。とは言え、王国の属する以上、協力は要請される」
と、ここまでの話を聞いて理解した。
王国が僕を特級に認定して、自由行動を許可したのは……
「魔神とエクトスの行方を調べて解決してほしい、ってことですか」
「そういうことじゃな。現状、あれとまともに戦える術師は君しかおらん。ワシがもう少し若ければ良かったんじゃが、さすがにちと厳しい」
「だったら他の特級? っていう魔術師にも協力してもらえば?」
師匠が横から話に入り、学園長に尋ねた。
学園長は首を横に振る。
「そうしたいんじゃがのう。うち二人は話を聞かん奴で、協調性もない。残る二人も任務でしばらく離れられんらしいのじゃ」
「そうなんだ~ ちょっと会ってみたかったのに、残念」
「いずれ会えるじゃろう」
「そっか。じゃあその時を楽しみに待っていようかな」
僕も師匠と同じで、他の特級魔術師には興味がある。
名前くらいしか知らないから、一度はちゃんと会ってみたいものだ。
「そういうわけで、動けるのは君しかおらん。じゃから最大の権利、自由を与える代わりに」
「王国に協力してほしい、ですね?」
「うむ。もちろん特級なのじゃから、断ることも出来るが」
「しませんよ」
僕はハッキリと答えた。
魔神もエクトスも、頼まれなくたって関わりたい相手だ。
特級の認定がなくたって、勝手に調べてに行っていただろうし。
「調べる口実が出来るなら願ったり叶ったりですよ。ね、師匠」
「うん! 今度こそ掴まえて、終わらせるんだ」
僕と師匠は互いに意気込み、学園長はその様子を見て頷く。
「ならば問題ないのう。叙勲式がこの後に王城で行われるから、準備しておくようにのう」
「え?」
「叙勲式?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王城内にあるもっとも広く豪勢な飾り付けがされた部屋。
名を王座の間。
その名前の通り、国王が座る椅子があり、赤いカーペットが敷かれている。
左右には騎士と魔術師たちが参列し、中にはエヴァンや兄さんたちの姿もある。
師匠も学園長と一緒に見守っていて、僕はと言うと……
「フレイ・ヘルメス、前へ!」
「はい」
赤いカーペットを一人で歩き、国王の前まできて膝をつく。
座した陛下は僕に言う。
「顔をあげなさい」
言われた通りに顔をあげる。
ライオス・エスターブ。
この国の王にして、エヴァンの父親。
齢五十にして若々しさを保ち、風格の漂う姿に思わず息を飲む。
さすがの僕も、陛下の前では緊張するらしい。
「フレイ・ヘルメス、此度の貴殿の活躍、まことに見事であった。我が国を守ってくれたこと、深く感謝する」
「ありがとうございます」
「うむ。貴殿の実力、魔術師としての才覚は突出しておる。魔神と渡り合える者など、この国では貴殿一人やもしれん。故に私は、貴殿を特級魔術師に任命することを決めた。異論はないな?」
「はい。謹んでお受けいたします」
堅苦しい話が続き、緊張はなくならない。
ようやく終わりかと思った所で、陛下から思わぬ言葉が聞こえてくる。
「では、貴殿を特級魔術師として正式に任命する。並びに、わが国を救った英雄として、氷の賢者の称号を授与する」
「え、氷の……賢者?」
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