45.相手は選んだ方が良い

 兄さんたちは変わらず、僕のことを大切な弟だと思ってくれていた。

 そのことが嬉しくて、胸の奥が熱くなる。

 師匠に好きだと伝えた時と、よく似た感覚だ。

 家族という言葉も、何だか久しぶりに聞いた気がする。


「良かったね、フレイ」

「はい」


 ニコッと微笑む師匠。

 あの日から、変わってしまったことのほうが多い。

 それでも変わらず続いている関係もあるのだと、今になって実感した。

 と同時に、父上のことも思い出す。


「なぁフレイ、今更な質問なんだが……」


 そう言って、シルバ兄さんの視線は師匠へ向く。

 同じくグレー兄さんも師匠を見る。


「このちっこい女は誰だ?」

「んなっ!」

「一応知り合いみたいだし、迷子の子供じゃないよな? 部外者連れてきたら罰せられるぞ」

「だーれが子供だって! 私はもう大人だよ!」

「大人は自分のこと大人って言い張らないと思うけど?」

「うっ……確かに」


 師匠がシルバ兄さんに言葉で押されている。

 正論すぎて言い返せない様子。


「大体どう見ても、入学適性年齢以下だろ」

「うぅ~ フレイぃ……」


 師匠は涙目になって僕を頼ってきた。

 わかってますと言いながら、僕は頷いて兄さんたちに説明する。


「この人は僕の師匠だよ」

「は?」

「師匠だと?」

「そうだよ! 私はアルセリア! よろしくね! フレイのお兄さんたち」


 えっへんと口で言いそうな勢いで、師匠はドヤ顔を見せる。

 自分は偉いんだぞ、大人だぞと言いたげだが……そういう所が子供っぽく見えるんだよな。

 でも可愛いから、師匠にはそのままでいてもらおう。


「師匠って言うは、ちなみに何の師匠なんだ?」

「魔術だよ」

「……そうか。まぁ人は見かけによらないって言うしな。でも学園の生徒じゃないだろ?」

「うん。だから使い魔として付いてきて来てもらってる」

「使い魔?」

「……首輪……」


 グレー兄さんが首輪に気付いて、ぼそりと口に漏らした。

 それが聞こえたシルバ兄さんも、師匠がつけている首輪に気付く。


「お、おい……師匠で使い魔ってどういうことだ? お前らどういう関係なんだよ」

「今言った通りだけど?」

「すまんが全然わかなかった。もう一度教えてくれるか?」

「師匠は僕に魔術を教えてくれた師匠で、僕の一番大切な人だ。将来は結婚したいと思ってる」

「けっ」

「……こん?」


 あれ?

 二人とも固まってしまったな。

 いやなぜか師匠も固まっている気がする。


「おい、それは初めて聞いた情報だぞ」

「そうだっけ?」

「つ、つまりあれか? お前らはそう言う関係だと?」

「うん」

「……フレイ。お前の趣味についてとやかく言うつもりはないんだが……本当に子供じゃないよな?」

「なっ! まだ言うの! 言っておくけどね! 私は君たちよりもずーっと長く生きてるんだかね!」


 師匠がぷんぷん怒っている。

 そして良くないことを言ってしまいそうな雰囲気を醸し出す。


「だって私は氷の賢者だから! だから君たちに子ども扱いされる筋合いはないんだよ!」

「師匠……」

「フレイからもちゃんと言ってよ!」

「いや……それ秘密にするって話しましたよね?」

「え? あ……」


 言った後から気付いて、アワアワと慌てだす。

 何か言い訳をしようと考えても出ないから、身振り手振りで違うんだと表現し始める。

 端から見ると、バタバタ手を動かしているようにしか見えない。


 すると、グレー兄さんが……


「フレイ」

「グレー兄さん?」

「……相手は選んだ方が良い」


 すごくまじめな顔で言われた。

 言われても仕方がないと、僕は小さくため息をこぼす。


「えっと……信じられないかもしれないけど、師匠の言ってることは本当なんだよ」


 最初は伝えるつもりはなかったけど、二人は僕の兄さんだし、秘密は守ってくれる人たちだ。

 どっちみち、この状況を変えるには説明するしかない。

 隣で涙目になっている師匠の名誉のためにも。

 それから僕は、二人に今日までの経緯をざっくり話した。

 廊下の真ん中で話す内容じゃないから、人が少ない方へ移動しながら。

 人気のない建物裏にたどり着く頃には話し終わって。


「なるほどな。賢者の聖地にまで行ってたのか。探しても見つからないわけだ」

「ごめん。あの頃は夢中で、他のことを考える余裕もなかったんだ」

「わかってるわかってる。しかし賢者本人に指導してもらえるとは。お前が羨ましいよ」

「うん。師匠は僕の自慢だから」

「ちょっと待って。え? そんな簡単に信じてくれるの?」

「ん? 信じるさ。フレイは俺たちに嘘をつかない。だからフレイの言うことなら信じる」

「そ、そっか……」


 嬉しいけど釈然としない。

 師匠はそんな顔をしていた。


「賢者殿」

「え、はい?」

「先ほどまでの無礼をお許しください」

「あ、うん。別に怒ってないから」


 グレー兄さんが師匠に頭を下げた。

 突然の謝罪に困惑する師匠に、グレー兄さんは一言付け加える。


「そして、私たちの弟を助けてくれたこと、心から感謝します」

「俺からもお礼を言わせてほしい。本当にありがとう」

「グレー兄さん、シルバ兄さんも……」


 二人は師匠に頭を下げている。

 僕の無事を心から喜び、感謝を込めて。


「ふふっ、どういたしまして」

「……ただ」

「ん?」

「フレイの相手として相応しいかは、まだ認めていないので」

「んな、何でよ!」


 それから師匠とグレー兄さんが言い合いを始めた。

 僕のことを巡ってというか、少し恥ずかしい話をしているから、間に入りずらい。


「はっははは、兄上は相変わらず頑固だからな」

「そうみたいだね」

「あーそうだフレイ。実はな? 今日はお前に聞きたいことがあって探してたんだよ」

「僕に?」

「ああ。お前、父上がどこにいるか知らないか?」

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