39.師匠vsエレナ
細かい説明は省く。
というか、どうしてこんなことになったのか、僕にもわからない。
「準備はよろしいですか?」
「うん! いつでもいいよ~」
「……」
「フレイ」
「何? ジータ」
「……どうしてこんなことになったのでしょう」
しばらく無言のまま時間が過ぎて……
「僕が聞きたいよ」
「そうですよね」
場所はエヴァンと僕が戦った訓練場。
僕の隣にはジータがいて、僕たちの前で師匠とエレナさんというさっき知り合った同級生が向かい合っている。
見ての通り、これから戦うらしい。
「師匠!」
「ん? 何?」
「本当にやるんですか?」
「うん。ちょうど良い機会だし、私も自分の力がどれくらい戻ってるか確かめたいからね!」
パタパタと手を振り、準備運動をしている。
師匠はやる気十分の様子。
「それなら僕が相手しますよ」
「私とフレイじゃ属性どころか術式も一緒でしょ? 違う相手じゃないと確認にならないって」
「それはまぁ……そうですけど」
氷麗術式は相手の術式を封じ込める。
お互いに同じ術式を発動した場合、単に魔力吸収速度が高いほうが勝つ。
師匠はまだ封印から目覚めたばかりで、本来の力が戻っていない。
今の状態で僕と戦っても、勝敗は見えている。
もちろん、術式の調整とか応用は、師匠のほうが上だけど。
「やり過ぎないでくださいよ」
「大丈夫大丈夫! やりすぎないように注意するから」
「わかりました。じゃあ、楽しんでください」
「うん!」
すでに楽しそうに笑う師匠を見ていると、心配している自分が馬鹿らしくなる。
師匠は戦いそのものは好きじゃない。
だけど、魔術に関しては誰よりも熱心で興味がある。
本当なら今だって、学園中の生徒の魔術を見て周りたいと思っているはずなんだ。
「良いんですか?」
「まぁ良いでしょ。師匠も戦いたがってる。それに――」
ニッコリと微笑むエレナさん。
何だかメラメラと燃えているように見える。
「あちらもやる気十分みたいですし」
なぜかは知らないけど。
「もう、よろしいですか?」
「うん。待たせてごめんね?」
「いいえ、では改めてよろしくお願いいたします」
「うん! 君の魔術を見せてもらうよ」
エレナさんが大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
「水よ――舞え」
詠唱により術式が展開され、足元に水源が広がる。
水は荒々しくも一定に流れを作り、変幻自在に形を変える。
彼女の属性は水か。
しかもあの術式は……
「
「へぇ、中々面白い術式を使うんだね」
師匠が嬉しそうにニコッと笑う。
確かに珍しい術式だ。
一人だけわからないジータが、僕に尋ねる。
「あの、流々舞踏とは何ですか?」
「彼女が使っている術式の名前だよ。魔力から生成した水を、自らの手足の動きと連動させて自在に操る。彼女が舞えば、水も舞う。流れにのって形を変える」
故に【流々舞踏】。
常時展開型と呼ばれる術式の一つ。
効果そのものは単純に見えるけど、常に術式を制御し続けなければいけない。
微細なコントロールが可能な者だけが使える高等術式。
「あれを使いこなすには、相当な修練が必要だ。それにスプライト家か……」
今さら思い出したけど、スプライド家の名前は聞いたことがある。
確か、王国でも有名な上位貴族の一つだったはず。
まだ僕が貴族の一人だった頃、同い年の令嬢がいるという話を聞いた。
それが彼女だったのだろう。
「行きます」
エレナの足元の水が激しく揺れる。
両手を流れをイメージするように動かし、それに合わせて水が盛り上がり、鞭のように伸びる。
「いいね! 【氷壁】!」
師匠は氷の壁を生成。
水の鞭は氷の壁の阻まれる。
そして、水は氷に触れた瞬間から、氷結が起こる。
「これは――っ!」
咄嗟にエレナさんは水の連結を絶ち、氷結を止める。
良い判断だ。
あのままだと、彼女の足元まで凍って終了だった。
師匠が使っている術式は、僕と同じ氷麗術式。
生成された氷には、魔力を吸収する能力が付与されている。
彼女が賢い人なら、氷に触れるのは危険だとわかっただろう。
ならばどうするか?
エレナさんは舞う。
先ほどよりも高く水が盛り上がり、水の鞭は無数に分かれる。
踊るようにその場でクルリと回り、水の鞭は師匠の四方上下まで伸びる。
そう。
触れてはならない氷なら、触れないように水を操り、視覚からの攻撃に挑む。
ただ……
「その程度じゃ師匠は慌てないよ」
「いいね! すっごく綺麗だ!」
師匠は空中に氷の粒を生成。
水の鞭に向けて放ち、一瞬にして凍らせてしまう。
「じゃあ今度は私から行くよ!」
「いいえ、これで終わりです」
エレナさんの勝利宣言に、師匠は疑問符を浮かべる。
その意味を先に知ったのは、端から見ている僕とジータだった。
師匠の足元に、水が流れている。
今までの攻撃は、師匠の意識を足元から逸らすための?
「捕らえました!」
師匠が足元に気付く。
水が腕のように変化し、師匠の足を掴もうとした。
その瞬間――
「そんなっ」
「残念、私には触れられないよ」
――氷鎧。
触れたものを凍らせる冷気の鎧。
「さっきも言ったけど、今度は私の番だ!」
師匠は両手をパンと叩き合わせる。
「――【氷花】」
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