34.嵐を呼ぶ男

 エヴァンの魔術属性は『風』。

 基本属性七種のうち、ダントツを誇る効果範囲。

 さらに空気の流れを直接操るから、炎や氷のように生成するという過程を省ける。

 故に、発動までの時間と消費魔力が抑えられる。

 万能で、殲滅力に優れた属性だ。


「今のが試験で見せた術式かい? それにしては大したことないみたいだけど?」

「それは心外だな」


 さて、ここからどう攻めるかな。


「来ないのかい? ならば、今度はこちらの攻撃を受けたまえ!」


 エヴァンが右手を手刀に構え、下から斬り上げる。

 風を纏った手刀から放たれたのは、目に見えない風の刃。

 地面をつたる金属音から、その鋭利さを直感する。


「【氷壁】」


 文字通り分厚い氷の壁を生成。

 鋼程度の刃なら防御できるだろうが、これはおそらく。


「ちっ」


 超えてくる。


「よく躱した! ならば二撃だ!」


 続けて二つの風の刃を放つ。

 横並びに二つ。

 切断される範囲が大きいし速い。

 左右へ回避するより。


 上へ。


 足元に氷の柱を生成。

 自分の身体を持ち上げ、風の刃を回避する。

 刃は柱を切り裂き、そのまま僕の後方へ飛ぶ。

 後方には観戦する生徒たちがいたが、刃が途中で消えた。

 

 なるほど。

 攻撃力は中々だし、コントロールも出来てる。

 ちゃんと周りに当たらないよう制御して攻撃してるのか。

 おそらく相当な訓練を積んでいるな。


 だったら、防御はどこまでやれる?


 僕は砕けた氷と共に落下しながら術式を発動する。


「【四刃氷柱しじんつらら】」

 

 僕を中心に生成された四本の巨大な氷柱。

 先端は鋭利で、岩をも砕く。

 それを一斉に射出する。


「逃げ道はないぞ」

「案ずるな。逃げる必要などない」


 放たれた四本の氷柱は、エヴァンに直撃する前に砕け散る。

 僕はそのまま着地して、エヴァンを見る。


「風を……」


 纏っているのか?


 エヴァンの身体から突風が吹き荒れている。

 小さな竜巻のように渦を巻き、氷柱を削り砕いたんだ。


「見たか! これが風の絶対防御【暴風の衣ストームコーティング】! これを纏っている限り、君の攻撃は僕には届かないのさ」

「確かに硬いな。だけど一回防いだ程度で、届かないなんて言い切るのは早計じゃないか?」


 僕が右腕を挙げた瞬間、エヴァンを影が覆い隠す。


「これは!」


 破壊された氷柱の残骸が頭上で集まり、さらに空気中のちりや水分を作って巨大な氷塊を生成。

 

「質量で圧し潰したらどうかな?」

「甘い!」


 落下する巨大な氷塊。

 エヴァルは叫び、自身を守っていた風を強化し渦巻く。

 彼を中心に竜巻を生成し、氷塊を穿ち砕いた。


「早計ではないようだな! やはり君の攻撃は僕には届かない! 加えて!」


 荒ぶる竜巻から無数の刃が放たれる。

 先ほどまでと同様の風の刃が、今度は八……いや十。

 それも不規則な軌道で迫る。


「躱すことだな! でなければ真っ二つだぞ!」

「言われなくてもそうするよ」


 氷壁を展開しても、風の刃は何事もなかったかのように通る。

 防御は考えない方が良さそうだ。

 上手く軌道を読んで、風の刃同士をぶつけて消滅させる。


「器用だね。でもいつまでもつかな?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、あの……大丈夫なんですか?」


 フレイとエヴァンの戦いを見守る二人。

 ジータは心配そうにフレイを見ながら、隣で見守るアルセリアに尋ねた。


「大丈夫だよ」

「ほ、本当ですか? 私には、かなり劣勢に見えるのですが……」

「そうだね。今は劣勢だね」


 アルセリアは冷静に返した。

 彼女が普段からフレイの身を誰より案じていることを、ジータはよく見て知っている。

 だから理解できなかった。

 どうしてそんなに落ち着いていられるのかと。


「フレイは今、確かめてるだけだから」

「確かめる? 何をですか?」

「彼の実力と、それに相応しいレベルはどこなのか。フレイは見せつけるつもりなんだよ。彼や、見ている生徒たちに」


 自分の実力を。

 氷結魔術こそが最強だと証明する。

 この戦いを、目標達成の第一歩にするつもりなんだ。


「でも確かに、見ている方はハラハラするよね」

  

 ねぇフレイ。

 そろそろ良いんじゃないかな?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 不意に、師匠の声が聞こえた気がした。

 確かにもう十分かもしれない。


「本当によく躱すね! だけどいい加減終わらせよう!」


 エヴァンが両手を合わせる。

 風が強まり、荒々しく吹き荒れる。

 さっきより魔力の流れも速い。

 大技が来る。


 第四王子エヴァル。

 残念王子と呼ばれている彼にはもう一つ、魔術師としての通り名があった。

 それは――


「僕こそ! 嵐を呼ぶ男だ!」


 彼を中心に四つの巨大竜巻が発生する。

 ここが外なら、周囲の建物や地形を破壊できるほどの大きさだ。

 竜巻が僕の四方を囲む。


「さっきまでとは違う! これでもう逃げられないよ」

「そうみたいだな」

「どうする? 降参するなら受け入れるよ」

「断る」

「そうか……ならば仕方がない。嵐にのまれるが良い!」


 四方の竜巻が迫る。

 回避は出来ない。

 いいや、する必要はない。


「絶対防御ならこっちもあるんだよ」


 竜巻が触れた瞬間、砕けた氷の結晶が飛び散る。


「なっ……」

「さぁ、反撃開始だ」

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