32.これが続くの?

 翌朝。

 先に目が覚めたのは僕だった。

 横になったまま時計を見る。

 

 六時ニ十分。


 予定通り、よりちょっと早い。

 窓から差し込んだ日差しがちょうど目に当たって、眩しさで起きてしまったようだ。

 僕は上体を起こして、大きく背伸びをする。


「ぅ、うーん」

「スゥー、スゥー」


 隣から寝息が聞こえる。

 小さく丸まっている師匠は、僕の左手をギュッと握っていた。

 

 可愛い。

 ずっと眺めていたい。

 気持ちよさそうに寝ているし、起こしたくないけど……


「師匠」

「ぅ……」

「もう朝ですよ?」

「ぅー……ふぇ。フレイ?」

「はい。おはようございます」


 目は半開きで、ウトウトしながら師匠が起き上がる。

 まだ寝ぼけている様子。

 

「もう朝なのぉ~」

「そうですよ。残念ながら」

「そっか~ もっと一緒にいたいよ~」


 師匠は僕の腕に抱き着いて、顔をスリスリさせ始めた。

 寝ぼけている師匠が可愛すぎて!

 もうが授業とかどうでも良くなってくる。


「仕方ないですね。僕も師匠と一緒が良いので、このままのんびりしますか」

「えへへ~ やったぁー」

「良いわけないでしょ?」

「あっ」


 ベッドの横には、冷たい目をしたジータが立っていた。

 固まる僕。

 師匠の目がパチッと開く。


「……あれ? ジータ? 何でここに……」


 僕に抱き着いている自分と、それを冷たい目で見るジータ。

 交互に確認した師匠は、慌てて手を離す。


「誤解だよ! まだ何もしてないから!」

「……何かするつもりだったんですか?」

「え、え……何でもないです」


 師匠の目は完璧に覚めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 仕度を済ませ、朝食を食べた僕たちは玄関前に集まる。


「今日から授業開始かい?」

「ええ。帰りは夕方になると思います」

「そうかい。まっ、楽しんできな」

「はい。行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 玄関を出る前で、セリアンナさんに見送られた。

 そして玄関を開けた先で、甲斐甲斐しく毎朝掃除をしているフローラがいる。


「いってきます。フローラ」

「は、はい! いってらっしゃい」


 昨日とは違い、急ぐ必要のない時間に宿屋を出発した。

 お陰でゆっくり歩いて学園を目指せる。


「今日から授業始まるんだよね! 楽しみだな~」

「確か今日は説明がほとんどだったと思いますよ?」

「え? そうなの?」


 授業が始まるのは九時からで、大体八時五十分には着席していることが普通らしい。

 一授業は一時間で、各部屋で様々な内容を教えている。

 本来は、受けたい授業の教室に自分で行って席を確保するのだが、初日は学園でのルール説明をするため、教室が指定されている。


「全員は入れないから、教室を分けるそうです」

「へぇ~ そうなんだ」

「昨日の式の最後に説明されてましたよ」

「へ、へぇ……そうだったんだ~」


 師匠はそっぽを向いた。

 聞いてなかったな。


「ん? そういえば……」


 ふと気づいたことがあって、僕はジータに視線を向ける。

 それにジータも気づいて振り向く。


「何ですか?」

「いや、授業中ってジータはどうしてるんだ?」

「もちろん近くで待機していますよ」

「それってまさか、一緒に受けるってこと?」

「はい」

「許可とかは?」

「降りてますよ」

「あ、はい……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 学園に到着して、張り出されていた番号の教室に入る。

 大きな黒板と、見えやすく段々になった椅子と机。

 椅子は横長に繋がっていて、詰めれば五人くらい座れる長さで区切られている。

 僕たちは開いている席に座った。


「……あのさ」

「何ですか?」

「ホントに一緒に受けるんだね」

「そう言いましたよ?」


 右からジータ、僕、師匠の順に座っている。

 ジータは兵士の格好をしているし、師匠は首輪をしていて。

 そんな二人に挟まれていたら、嫌でも目立つな。


 誰かが近づいてきて、僕に声をかける。


「おはよう。同じ教室とは奇遇だね」


 この声は……


「またお前か」

「酷いな。ただ挨拶をしただけじゃないか」


 残念王子のエヴァン。

 取り巻きの男たちも一緒にいる。


「ちゃんと来てくれたようで安心したよ。怖気ずいて逃げたら……僕の……」

「ん?」

「おい貴様、なぜ増えている?」

「は?」

「なぜ美女が二人に増えていると聞いているんだ!」


 唐突に叫び出して、思わず耳を塞いだ。

 情緒不安定か。


「何だよ」

「こっちのセリフだ! どうしてもう一人増えているんだ! 貴様まさか僕に見せびらかしているのか!」

「どういう解釈だよ」


 もう一人ってジータのことだよな?

 師匠とジータに挟まれている僕が羨ましいのか?

 いやまさかそんな理由で怒っているわけ……


「羨ましいではないか!」


 本当にそうだったのか。

 出来れば違う理由であってほしかったよ。


「くそっ、すでに負けた気分にさせるとは……やるではないかフレイ! それでこそ我が因縁のライバルに相応しい」

「いやいや、いつ僕がお前のライバルに――」

「放課後に決着をつけるぞ! それまで精々楽しんでおくんだな!」


 聞いてないし。

 またしても嵐のように言いたいことだけ言い放って、エヴァンは教室を出て行った。

 別の教室に移動したのだろうか?


「ごめんなジータ。巻き込んで……」

「何ですか?」

「ちょっと嬉しそうだな」

「き、気のせいです」


 美女と言われたことが嬉しかったのかな?

 ほんのり頬が赤い。

 

「やれやれ」


 いろんな意味で嵐みたいな男だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る