28.奴隷じゃないですよ

 師匠は決意した。

 必ず僕の使い魔になると。


「いやぁ~ 無理だと思いますよ」

「どうしてさ! 私が良いって言ってるんだよ!」

「師匠が良くても……前例がないので、学園側も認めないと思います」

「そんなの聞いてみなくちゃわからないでしょ?」

「まぁそうですけど」


 たぶん無理だと思うけどなぁ。

 王族とか名のある貴族ですら、使用人も同行できない決まりなのに。

 人を使い魔にして出入りさせられるなら、誰かやってると思う。


「じゃあ聞きに行こう!」

「え? 誰にですか?」

「もちろん学園で一番偉い人に!」

「今からですか?」

「もちろん! 入学式は明後日だからね!」


 現在の時刻、午後八時四十分。

 学園は閉まってる。


「ほら行くよ!」

「ちょ、師匠」


 今日の師匠はいつになく強引だな。

 そんなに僕と離れるのが嫌だったのか?


「師匠」

「ん?」

「最高に可愛いですね」

「はぅあ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 午後九時を回った瞬間、学園にある時計塔がゴーンと音を鳴らす。

 学園長室には明かりが付いていた。

 座っている学園長の前に、二人で並んで立っている。


「なるほどのう。それでワシの所に来たと?」

「はい」

「こんな時間に?」

「……はい」

「閉まっている学園へ勝手に入り込んで?」

「……すみません」


 案の定、学園の入り口は閉まっていた。

 ので、失礼ながら強引に入ることにした。

 結界の一部を凍結して無効化し、明かりが付いていた学園長室を訪問して。


「うむ、血気盛んなのは良いのじゃが、あまり褒められたことではないぞ?」

「そう……ですね」

「いくら監視の度合いが減ったとはいえ、これが監視役の彼女に知れたら大変じゃのう」

「本当にそうだと思います」

「ちょっと待って! 言い出したのは私なんだから! 怒るなら私を怒ってよ!」

「師匠……」


 庇ってくれるのは嬉しいのですが。


「君に至っては完全な部外者じゃからのう。知られれば即首が飛ぶかもしれんぞ?」

「ひぇ、く、首が」

「それも要監視人物の近しい者となれば確実じゃのう」

「な、何で止めてくれなかったのさ!」

「止めましたよ!」


 師匠ははっと気づく。


「そうだったぁー」

「ほっほっほ、まぁ安心したまえ。そう無下にせん」

「え?」

「君ならには例の件で迷惑をかけたからのう」


 例の件?

 教員の一人がジータを使って、僕をはめようとしたことか。


「部下の暴走を止められんかった」

「学園長が悪いわけでは」

「ワシの管理責任じゃよ。して、何用でここまで?」

「あ、はい」

「それは私から説明するよ!」


 師匠はピンと手をあげていた。

 続けて言う。


「元は私が言い出したことだし!」


 というわけで、師匠に説明は任せた。

 正直良かった。

 自分でさっきの話を説明しようと思ったら、どうしても良くない想像をしてしまうというか……

 まぁ、どう説明した所で、許可されるとは思えな――


「うむ、良いぞ」

「やったー!」


 何で!?


「ほ、本気ですか?」

「うむ。使い魔の規定に、人間は含まれないなどというものはないかのう」

「で、でも前例もないんですよ?」

「前例がないからといって、間違いだとは限らんじゃろ」

「その通りだよ! ほらほら、学園長さんもそう言ってくれてるよ?」


 キラキラした目で師匠が僕を見てくる。

 僕は小さくため息をもらし、頷いてから言う。


「わかりました。すみません学園長、手続きをお願いできますか?」

「うむ」

「やったやったやったー! これで今まで通り一緒にいられるね!」

「そうですね」


 そこまで喜ばれると、僕のほうが恥ずかしくなる。

 飛び跳ねて喜ぶ師匠を見ながら、学園長が微笑まし気に笑う。


「ほっほっほ、本当に仲が良いのう。手続きは済ませておく。君らは入学までに、使い魔だとわかる印を準備しておくのじゃ」

「使い魔の印?」

「うむ、それと忠告じゃが……周りからの視線は諦めなさい」


 師匠はピンと来ていない様子。

 僕は何となく理解して、これから大変だと直感していた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 商店街にある雑貨屋に、師匠と二人で足を運んだ。


「へぇ~ 色々あるんだね」

「ですね」


 棚に並んでいるのは金属の飾り。

 ネックレスや指輪がある中で、僕たちが選んでいたのは……


「これなんて可愛いと思うんだ」

「可愛くても首輪ですよ」


 そう、首輪。

 使い魔とわかる印と聞いて、師匠が思いついたのが首輪をつけることだった。

 僕は別のものが良いと言ったのだが、使い魔ならこれだと押し切られて、こうして買いに来ている。

 どれが良いかと選んでいると、女性店員が近寄ってきて。


「お客様、首輪をお探しですか?」

「はい!」


 師匠が答えた。

 すでに嫌な予感がする。


「可愛い首輪ってないかなーって」

「可愛いものですか、でしたらこれなんてどうでしょう?」


 店員が手に取ったのは瑠璃色の首輪だった。


「本当だ! これ可愛い!」

「ありがとうございます。ペットにもおしゃれは必要ですからね。きっと喜んでくれると思いますよ」

「え? ペットのじゃないよ? これは私につける首輪だから」

「……へ?」


 師匠は首輪を見ている。

 首輪を渡した店員は、僕を汚物を見る目で見ている。


「ま、まさかそういう趣味で……」

「違いますから」


 ほら、やっぱりこうなった。

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