18.保留通知
魔術学園の合否通知は、試験後約二週間で発表される。
学園の入り口である門付近に掲示板が準備され、そこに張り出される仕組みだ。
お客さんから合格者の発表があったと聞き、翌日に学園へ足を運ぶ。
「普通こういうのってさ。受験者に通知とかくるものじゃないのかな?」
「さぁ? どっちにしろ僕の所へは来ないと思いますよ。今はともかく、試験受けた時の家って」
「あー、来れないね。うん」
他愛もない話をしながら歩き、僕と師匠は学園の入り口にたどり着いた。
同じように発表を見に来たであろう人たちが集まっている。
掲示板の前に人だかり出来て、かき分けないと近寄れない。
「み、見えないなぁ」
師匠は頑張って背伸びをしているけど、大半が師匠より背が高いから届いていない。
うぅーんと言いながら踵を上げ、どうにかして掲示板を覗こうとする。
僕はというと、そんな師匠が可愛くて、掲示板は見ていなかった。
「あーもう、見えないな」
「ですね~」
「……なんで私のほうを見ているのかな?」
「師匠が可愛いからですよ」
「掲示板を見なよ! 試験受けたのは君なんだからな! フレイ」
師匠が僕の名前を呼んだ時、近くにいた人が振り向く。
「フレイ?」
「あいつが?」
「あれ? 何だか注目されているね」
「みたいですね」
次々と掲示板を見ていた人たちが、僕のほうへ視線を向ける。
ヒソヒソと何かを話しながら見ている。
あまり心地良い視線ではないな。
「ね、ねぇフレイ、何かしたの?」
「いや別に何も」
「本当?」
「はい」
集まっていた人たちが、僕らの通る道を開け始める。
逃げるように道を開け、掲示板が見えるようになる。
「え、えぇ……何でどいてくれたの?」
「さぁ? まぁ良いじゃないですか。このまま結果だけ見て帰りましょう」
「そ、そうだね。っというか気にならないの?」
「別に何とも思いませんよ」
師匠以外の視線なんてどうでもいいから。
ただ、師匠を卑猥な目で見ている輩がいないのか。
それだけは確認しておく必要がある。
とりあえずいないか。
「よし」
「え、何が?」
「こっちの話です。さて」
掲示板に目を向ける。
合格は確実にしているだろうから、何の不安もない。
名前は成績順に並んでおり、名前の前には順位が書かれていた。
「後ろの何級とかって何?」
「魔術師の等級ですよ。現代における魔術師の強さの基準ですね」
エスターブ王国に属する者、魔術師であると認められた者に与えられる称号。
等級制度は魔術師にとっての身分証のような役割を持つと同時に、強さを示す基準でもあった。
一級から五級まであり、数字が少ないほど高い等級となる。
魔術師全体の人数から見て、一級魔術師は一パーセントに満たない。
「へぇ~ 等級か~」
「入学時点で暫定的な等級が振り分けられるんですよ。在学中の成績や成長によって前後しますから、ほとんどが卒業時に一つ上にはなっているみたいですね」
「なるほどね。ところフレイ、君の名前だけ少し上に書いてあるんだけど……」
「……そうなんですよね」
とっくに気が付いていたけど、師匠が話に出すまで待っていた。
一位から順番に書かれているはずの合格者名。
なぜか一位の上に名前二つ分くらい間を空けて、フレイという僕の名前が書かれていた。
「あれは何? 合格で良いの?」
「合格……だと思いますよ。ここに名前が書かれているわけですから」
「そっか。名前の後ろも等級じゃないよね?」
「そうですね。保留って書いてありますね」
僕と師匠は顔を見合わせ、同じように首を傾げた。
「ねぇフレイ、聞いてなかったけど、試験ってどんな感じだったの?」
「普通に筆記試験と、実技試験でしたよ」
「実技の内容は?」
僕は師匠に実技試験の内容を説明した。
なるほど、と言いながら頷く師匠は、続けて尋ねてくる。
「戦ったんだよね?」
「はい」
「どうだった?」
「どうも何も一瞬でしたよ。一斉に襲われたから返り討ちにして、三割まで減るのを待っていると帰りが遅くなりそうだったから……」
「だったから?」
「会場全部凍らせました」
「それだよ!」
師匠が僕の顔を指さして、焦ったように言う。
「ぜーったいそれが原因じゃないか! この反応も当然だよ!」
「そうですか?」
「そうだよ! というか気付くでしょ普通!」
「……」
キョトンする僕を見て、師匠は大きくため息をこぼす。
呆れたような顔をしてやれやれと身振りをした。
「またインチキだと思われているんじゃないかな?」
「ああ、だから保留なんですね」
アグラにもインチキとか言われていたことを思い出す。
ここに集まった人たちも、僕のことをそういう風に見ているのか。
不愉快な視線も混ざっているわけだ。
「一先ず合格ではあるみたいですし、良かったです」
「君がそれで良いなら私は構わないけどさ。少しは評判とかも気にしなきゃだめだよ」
「そうですね、気を付けます。僕の所為で師匠が悪く思われるもの嫌ですし」
「君のほうが心配なんだけどなぁ……ん? ねぇフレイ」
「はい?」
師匠が視線で合図する。
校内から誰かが歩いてくる。
その人は明らかに、僕らの所へ近づいていた。
「フレイさんですね?」
「あ、はい。そうですが」
「今から少々お時間を頂けないでしょうか? 今回の試験結果について、学園長からお話があります」
「学園長から?」
不穏な空気が漂う。
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