4.賢者様に弟子入り

 成人?

 身長は僕と変わらないし、どう見ても子供にしか見えないのに?

 あ……いや、でも子供にしてはおっぱ……


「っんぅ!」

「え、な、何?」


 氷の中にいる彼女は裸で、身体の隅々までよく見える。

 幼く見える身体にもちゃんと女性らしさがあって、僕には刺激が強かった。


 ううん、違う。

 それよりどうして生きているの?

 本当に賢者様なら、千年以上前の人だよ?


「はっはーん。その顔、何で生きてるのって思ってるでしょ?」

「え、あ、はい……」

「えーっとね。今の私って透けて見えるよね?」


 僕はうんと頷く。


「これは私の意識だけ魔力で投影してるからなんだよ。そーれで、本当の私はそっちで眠ってるの。ちょっと実験に失敗しちゃってね~」

「……え?」

「いやー困っちゃうよね。私の力が強すぎて、誰も氷を解除できないんだ~ 炎の賢者って呼ばれてた彼ならいけると思うけど、もうさすがに死んじゃっていないし。あーそれに触れないでね? 触れると魔力を勝手に吸って君まで凍っちゃうから」


 魔力を吸う?

 それに炎の賢者様しか溶かせない氷?


「あ、あの! 氷の賢者様!」

「え、何?」

「氷の賢者様は賢者様なんですよね? 他の賢者様みたいに、すごく強かったんですよね!」

「それはもちろん。魔神とだって戦えるくらいね? まぁいっつも良い所は皆にもっていかれちゃってたけどさぁ~」

「どうすれば強くなれますか? 僕、どうしても強くなりたくてここに来たんです!」

「ちょ、ちょっと待って! まず落ち着いて! 何があったの?」


 ことの経緯を賢者様に伝えた。

 取り乱して整理がつかない下手な説明だったけど、賢者様はしっかり聞いてくれた。


「えぇ~ そんな風に言われてるのか~ さすがにショックだな……」


 僕の話を聞いた賢者様は、しょぼんと落ち込んでいた。

 自分のことが悪く言われているんだ。

 誰だって悲しくなる。


「よーしわかった! 君に私の魔術を教えてあげるよ!」

「ほ、本当ですか!」

「うん! 私だけ外れみたいに言われているのは嫌だし。それにごめんね? その所為で家を追い出されたなんてひど過ぎる。何より君が不憫だ。一緒に見返してやろうよ!」


 でも、賢者様はそれだけじゃなくて、僕のことも心配してくれたらしい。

 賢者様が悪いわけじゃないのに謝ってくれた。

 賢者様はきっと、すごく優しい人なのだと思った。


「は、はい!」

「それと! 私からも一つだけ頼んでも良いかな?」


 そう言って、賢者様は自分の身体を見る。


「私の魔術を教えてあげる代わりに、この氷を解除できるくらいの魔術師になってよ」

「氷……溶かせるんですか?」

「溶かすんじゃなくて、解除するの。これは私の術式で出来ている氷だから、私と同じ術式を身につけて外から制御すれば解除できる、はず! 私は見ての通り意識だけの存在だからね。どうかな?」

「僕に……僕に出来るなら頑張ります!」

「うん、頑張ってよ。今のままの私じゃ、ここから動けない。私も、千年後の世界を見てみたいんだ」「はい!」

「よーし! じゃあ今日から君は私の弟子だ!」


 そうして、僕は氷の賢者アルセリア様の弟子になった。

 彼女から氷魔術の極意を教わり、術式を身につけ、使いこなせるように訓練をする。

 師匠はこの場所で、自分の魔術をずっと研究してたらしい。

 賢者としての役目を終えてからも、一人で研究に没頭していた。

 それによって、魔神と戦っていた頃よりも、師匠の魔術は洗練されていた。


「あの、師匠」

「何だい?」

「実験に失敗したって言ってましたけど、一体何の実験だったんですか?」


 修行が進む中、ふとした疑問を師匠に投げかけた。

 氷の中にいる師匠の身体。

 そのお陰で千年以上生き続けているようだけど……


「何だと思う?」

「えっと……不老不死の実験?」

「うーん違う! でも結果だけ見たらそうだね。じゃあさ、何で私や他の賢者たちがへんてこな場所で余生を過ごしたか知ってる?」

「え、いえ、知らないです」

「それはね? 私たち賢者の魔力が強大過ぎて、周りに影響を与えてしまうからだよ」


 師匠たち賢者は、人知を超えた魔神すら倒せる存在だった。

 最初から優れていた師匠たちだったが、魔神と戦い続ける日々を送ったことで、その力はさらに高まった。

 世界が平和になる頃には、どちらが魔神かわからないほどの力を身につけたという。

 しかし、強すぎる師匠たちの魔力は制御が難しく、どれだけ制御しても身体から漏れ出てしまう。

 その魔力は周囲の人や環境に大きな影響を与えた。


「私たちは一所に留まれないんだ。例えば私が一つの街に滞在するよね? それだけでまず気温が急激に下がるの。大体一夜あれば、朝は霜が出来てるかな? もちろん普段は霜なんて出来ない街でね?」

「い、一夜で?」

「そう。一週間あれば吹雪に見舞われて、一か月もあれば氷の街になっているよ」

「そ、それは……」

「迷惑だろ? だから私たちは、人里離れた場所で生きるしかなかったんだ」


 師匠の話によると、この山も当時は氷山ではなかったそうだ。

 ただの山だったけど、師匠が滞在したことで誰も住めないような環境に変わったとか。


「す、凄いですね……」

「うん。でも、そんな力があっても生きにくいだけだ。特に戦いが終わってからは……だから、私たちの力を抑え込めないかなって試していたんだ」

「ああ、それで魔力を吸収し続ける氷ですか」

「そう! 上手く行くと思っただけどな~ 凍っちゃって、焦って意識だけ切り離せたんだよね。お陰で千年ちかくずーっと一人で寂しかった」


 師匠は僕と目を合わせて、ニコッと微笑む。


「君がいるから、今は寂しくないけどね」

「光栄です」

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