第16話 運命の邂逅①

 あれから1か月が経過した。


 村の設備は順調に整えられていて、1か月前に来た時とは見違えるようになっている。


 まずはボロボロだった家群がどこもかしこも少し修繕されている。

 外れかけていた屋根や劣化していた外壁が直されていて、見栄えもよくなった。


 それから稲が背を高くして並んでいる。村の南側、畑は荒れ果てていた土が整備されて気持ちよさそうに農作物も育つ。ときおり稲の匂いがニコの鼻をくすぐり、スピカと一緒に買い物に行ったことを思い出した。


 そして現在その南側では、柵の建設が進められている。


 すでに北側の設置は終わっており、南側も半分ほど進んだ形だ。


 村人は労働力として働ける男が20人ばかりなので難航するとニコは思っていたが、村の土地自体もそこまで大きくないためかあっさりと作られている。


 ちなみにその関係でニコは時折その周りの警護も行うことがあり、柵が出来上がる前に村に襲来した魔物たちを倒している。


 そのような調子で、村の防護設備についても整い始めていた。


 そしてほかに変わったことと言えば、アキナワに子供ができたという話だ。

 正確にはまだ生まれていないが、アキナワの妻が身ごもったという話らしい。あと数か月で生まれるとのことだ。


 家の件も、柵の件も、子供の件も、元をたどれば理由はすべて同じだ。


 ニコである。


「いや、そんなにいただくわけには……」

「いいっていいって、どうせうちは肉さえありゃ生きていけるからねぇ」


 もはや英雄視されつつあるニコは、ことあるごとに村の人から貰いものをしたり声を掛けられていた。


 というのも、ニコが狩りをしているおかげで食料に困ることもなく、また魔物を間引いているためか出現する魔物の数も減ったからである。


 ニコは一日におよそ20体もの魔物を倒している。

 それはワイルドボアもゴブリンも関係なくだ。


 基本的にゴブリンは魔石だけゾンビに食べさせて、残りは一か所にまとめて火の魔法が使える村人に手伝ってもらって焼却している。


 そしてワイルドボアは一度村に持ち帰ってからアキナワに解体を手伝ってもらって、可食部と魔石、食べられない部分はゴブリンと同じように焼いてもらっている。

 もちろん取れた肉は村人全員に分けているので、それで長く村を悩ませていた食糧難も解決をしているというわけだ。


 ちなみにニコは狩りの時にマナカを連れていて、そのマナカもすくすくと成長を見せている。

 その努力の結果か、今ではゴブリンなら一人で倒せるようになった。


 やはりマナカはニコの見立て通りセンスがあり、ニコがあれだけ手こずっていたゴブリンをあっさりと倒すことができたときは、さすがにニコも笑えなかった。


 まだワイルドボアには力で負けてしまうが、すでに速さは同じくらいでさらに生まれ持った身のこなしから互角に戦うことができている。

 倒せないのはとどめを刺すのができないだけで、自力では勝っているだろう。もちろんニコにはそんな芸当はできない。


 ゾンビがいなかったら、ニコもマナカに負けている。


「じゃあマナカ、今日も行くよ」

「おっけー!」


 ただやはりニコとしてはマナカを危険な目に遭わせたくはないので一度黙って狩りに出かけたら半分死にかけたので、諦めて連れていくことにしている。


 力関係はマナカの方が上だ。


 マナカを前にして、その後ろをついていくようにニコが歩く。

 ちなみに1か月前とは違い、もうマナカの周りにゾンビはついていない。なんでも「みえにくい!」とのことだ。


「あ、ぶたさんみっけ‼」


 そして最近の悩み事は、魔物を見るとマナカが走っていってしまうということである。

 ニコが追いつくまでには時間がかかるし、その間に怪我でもあったらと思うと不安で仕方がない。怪我をするとは思っていないが、万が一のことはある。


 たったった、と盗賊顔負けの走りをするマナカを全力で追う。


 すると先にはピンクの皮をもった大きなイノシシ、ワイルドボアがいた。


「てやー!」


 遠くでマナカがワイルドボアの首に蹴りを入れている姿が目に入った。


「相変わらず無茶するなあ……」


 そう言って走りながらゾンビを召喚するニコ。今ではゾンビも人並みの速度で走れるようになっている。


 そうして召喚したゾンビの数は100体を越えている。ちなみに数で出し惜しみをしていないのは、周りに魔物がたくさんいたときでも対応できるようにという理由と、何体ゾンビを出してもニコの負担は一緒だからである。

 ならば、多少統率が効かなくても多いほうが良い。


「いつも通り、死角につけて…………っと」


 ニコはマナカほどべらぼうな身体能力があるわけでもセンスがあるわけでもないので、自分の死角にはゾンビを付けるようにしている。


 そしてそのままゾンビをワイルドボアに向かわせた、その時だった。


「ヴァー」


 音もなく、気配もなく。


 ニコを囲っていた100体ものゾンビが一瞬にして一刀両断されたのは。



『ニコ・オルライト』


 Lv.59(+8)

 力  95(+18)

 防御 69(+10)

 賢さ 70(+11)

 敏捷 112(+20)

 運  40(+8)

 魔力 42(+8)


《スキル》 【ゾンビ使い】



『ゾンビ』


 Lv.64(+10)

 力  78(+20)

 防御 78(+20)

 賢さ 78(+20)

 敏捷 78(+20)

 運  78(+20)

 魔力 78(+20)


《スキル》 【増殖Ⅰ】




 ―――――――――――


 魔法という単語が出てきましたが、この世界では魔法はそこまで特別視されていないので説明はまた今度になります。

 簡単に言えば、けん玉みたいなものですね。才能ある人はすぐできるようになるし、できて当たり前みたいな。先天的にできる人もいます。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る