第15話 ゾンビの進化
それは突然の変化だった。
「おはよーニコー」
朝、眠そうに眼をごしごしと擦っているマナカが、ニコに声をかける。
「お、マナカ。いいところに」
「ん-?」
「ちょっと手伝って」
マナカがおっけーと言うのを見て、ニコはじゃあ、と準備を始める。
そして。
「召喚!」
ニコがゾンビを召喚した。
ちなみにゾンビの召喚には何か呪文を唱えなければならないというわけではなく、ニコがゾンビを召喚をしたいと思うだけで召喚は成立する。
今ニコがわざわざ声を出しているのは自分で自分の気持ちをはっきりさせるためで、ほぼ癖みたいなものだ。
ニコの声に合わせて、地面からごごごとゾンビがわらわら出現する。見た目はかなりショッキングだが、中から出てくるのが弱そうなゾンビだからマナカも特に警戒心を覚えるようなこともない。
「おー、ぜっけーぜっけー」
マナカが見渡すようにゾンビの群れを見て楽しそうに笑っている。
「なんでゾンちゃんよんだの?」
「それがさあ」
と言って、ニコはピッと敬礼するように手を上げた。
「整列! 番号!」
「ヴァー」「ヴァー」「ヴァー」「ヴァー」
手だけ上げるゾンビ。だが相変わらず声はいつもの通り「ヴァー」しか出ていなかった。
「なにこれ?」
「いや、まあ今のはふざけただけなんだけど」
でも、これ自体もニコの中では違和感があった。
ニコの言葉に、ここまで反応を見せるゾンビというのは今までなかったからだ。今までは戦わせることとざっくりとした位置の指定くらいしかできなかったが、もしかしたらもっといろいろな動きができるようになっているのかもしれない。
だが、それよりももっと、ニコには調べたいことがあった。
「なあ、マナカ。ちょっとゾンビの数を数えてくれない?」
「数? おっけー」
そして綺麗に整列しているゾンビの一匹一匹の目の前に立って、移動しながら「いーち、にぃーい」と数えている。
それをなんだか温かい目で見るニコ。
「さてマナカ、いくつ居た?」
「えっと、55匹?」
不思議そうに聞いてくるマナカに、「やっぱりそうだよね」と返すニコ。
「何かおかしいの?」
「おかしいんだよ。今までは1レベルで1匹しか増えなかったから51匹になるはずなんだけど……」
「む、わたしはちゃんと数えたよ?」
「いやいやっ、マナカを疑ってるんじゃなくて! 僕が数えても55匹だったんだよ」
「どういうこと?」
怪訝そうな顔をするマナカに、ニコは慌てて答える。
「多分、1レベルで5匹増えてるんだよ」
「5匹?」
「そう。50レベルまでは1レベルにつき1匹ずつ増えてて、51レベルからは5匹ずつ増えてる。そうすると、50足す5で55になるでしょ?」
「う、うう……むずかしい……」
こめかみの部分を両手でぐりぐりと押さえているマナカ。
ニコは幼馴染のスピカに算術を教えてもらっていたが、マナカはそんなことはないのだろう。
複雑なことをしているように感じてしまい、しまいには思考するのを諦めていた。
「つ、つまり……もっといっぱいゾンちゃんが増えるってこと?」
「まあ、そんな感じだね」
マナカがポカーンとしていたが、ニコにとっては大きな発見である。
今のゾンビは、さすがに一体一体ではまだニコやマナカには少しばかり及ばないが、これだけの数がいれば大きな力になる。
そしてその唯一のゾンビの長所であるその数がさらに増えていくのだというなら、それはニコからしたら僥倖としか呼ぶことのできないものだ。
「……なんかニコ、嬉しそう」
「そうかな?」
ニコの緩んでいた表情をマナカが指摘する。
ただもちろんマナカとしてもニコが嬉しそうなのはいいことなのだが。
「なんか他の女のことを考えてる気がする……」
「他の女て」
たしかにスピカを助けるのにまた一歩前進したなとは思ったが、その言い草はニコにとっても予想しないものだった。
まるでニコがマナカの彼女みたいな言い方だ。
(とはいえ、まだ次にどうすればいいか、具体的なことは何も分かんないな……)
ひとまずゾンビが強くなっただけだ。まだこの先にどうしていけばいいのかもわからないし、選択肢のようなものも見えない。
今のところやるべきなのは、この村の設備が整うまでとどまることくらいか。
そちらの方は1,2か月でもかなり改善するだろう。
「まあどちらにせよ、やれることはレベル上げをするくらいだな」
改めて自分のすべきことを再確認するニコだった。
あれから数日たち、いろいろなことが分かった。無論、ゾンビのことだ。
このゾンビ、1レベルにつきステータスもそれぞれ2ずつ上昇するようになっていた。これも計算を少しすればわかる話だった。
それ以外で変わった部分として、知能が少し高くなっている。
今まではモンスターに向かって行けといったらただ向かって攻撃するだけだったのが、回避行動というものをとるようになった。それによって、まだワイルドボアの攻撃を避けるのは難しいようだが、ゴブリン相手などでは一回ほど回避するようになり戦闘で削られる数が減った。
よってゴブリン相手ではもう無駄に数を減らすこともなく、一方的に蹂躙することができる。
ただまだそこまで賢いわけでもなく、一回柵づくりに協力させようと木材を運ばせたが、持ち方が下手くそでだめだった。
まだ人間レベルは求められないみたいだ。
そんなニコに、もうすぐ運命の出会いが起こる。
これから生涯仕えることになる、主君との出会いだった。
『ニコ・オルライト』
Lv.51(+3)
力 77(+6)
防御 59(+5)
賢さ 59(+4)
敏捷 92(+7)
運 32(+2)
魔力 34(+2)
《スキル》 【ゾンビ使い】
『ゾンビ』
Lv.54(+3)
力 58(+6)
防御 58(+6)
賢さ 58(+6)
敏捷 58(+6)
運 58(+6)
魔力 58(+6)
《スキル》 【増殖Ⅰ】
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