第10話 ゾンビ小戦争①
「るっるっるる~♪」
「どうしてこんなことに……」
森の中を歩くニコ。その後ろには、ゾンビに囲まれるようにして歩くマナカの姿がある。
結局、マナカを振り切ることはできなかった。
作戦1.村長のヤックに止めてもらう作戦は、失敗に終わった。ヤックもかなりきつく「森は危ないからやめろ」と言ったのだが、娘のかわいさを存分に生かしたおねだりにヤックも頭を縦にするしかなくなった。
代わりに、ニコには「娘に傷が一つでもついたら許さないからな、死刑だぞ」と言われた。なんの罪に問われるかは分からない。
作戦2.マナカが寝ている隙に家を抜け出す作戦も失敗に終わった。朝の6時に抜け出そうとしたニコだったが、待ってましたと言わんばかりに家の外にマナカがいたため断念することに。
マナカは意外と頭が良かった。
そんなわけで、上機嫌のマナカを引き連れながらニコは不安を抱きながら歩いていた。
「本っっっっっっとうに危ないんだから、絶対に変な動きはしないでよ」
「だいじょぶだいじょぶ! わたしもニコのかつやくが見たいだけだから‼」
マナカはニコの勝利を信じて疑わない様子だ。
しかし、ニコからすればワイルドボア相手に楽々勝てるなど楽観的な考えは持ち合わせていない。そもそも勝てるかどうかも分からない相手なのだ。
ニコの想定しているワイルドボアのステータスは『力』と『敏捷』、それに『防御』が100オーバー。ゾンビがいくら30体いたとしても、力の差は歴然だ。
しかもこのゾンビ、少し離れてしまうとすぐに言うことを聞かなくなる。人を襲うなどのことはないのだが、統率が取れなくなって乱暴に敵に向かって行くだけの雑兵になる。
およそ、半径5メートル。その範囲より外にいるゾンビは、ニコの言うことを聞かなくなる。
だから、ニコも戦線を離れて遠くから安全に倒すということができない。それがまた、この戦闘を苛烈にする理由だった。
「……っ! 出たな」
と、そんなことを考えているうちに、お目当ての魔物に出くわした。
ワイルドボアだ。
体長は通常のワイルドボアよりも少し大きく、4メートルくらいか。
上から睥睨してくるワイルドボアは、それだけで恐ろしさがある。
「よしっ……」
まず予定していた通り、30体のゾンビを展開。
念のために8体をマナカのそばに配置。そして5体を自分のそばに置いて、残りは戦闘用だ。
「ギャガガガガガアアアアアアアア‼」
「きゃっ‼」
ワイルドボアの咆哮に、マナカが尻もちをつくのがニコの視界の右端に入った。
だが気にしている暇はない。
まずはお手並み拝見。
「いけ‼」
2体のゾンビに襲わせる。
右と左から突撃させ、狙うはその足。
ワイルドボアの攻撃は突進しかないから、一方向にしか対応できないはずだ。
「ギャガアアア‼」
案の定、ワイルドボアは一体のゾンビに向かって突撃。
その結果、ゾンビは一体死んでしまったが、もう一体が首尾よくワイルドボアの足を掴んだ。
「おっけ!」
ワイルドボアが動きづらそうにしている。前だったら少し相手が体を動かしただけでゾンビは死んでしまっていたが、あの時とはやはりゾンビの強さが違う。
「そのまま、やれ」
動きの遅くなったワイルドボアに、ゾンビ10体をさらに差し向ける。戦い方としては村人たちと同じ。足を封じて、その間に致命的なダメージを与えて何もできないまま殺す。
「ギャッ、ギャガガガガ⁉」
ワイルドボアもようやく自分の不利を悟ったらしい。だがすでに遅い。
「まず、後ろ足だ‼」
残りの5体のゾンビを足に食らいつかせる。後ろ足は特に地面を蹴るうえで使う部位なので、積極的に攻撃をする。
ゾンビは基本的に殴る、かみつくしかできない。あの強靭な皮に殴りはあまり通らないだろうが、嚙みついて肉をちぎることは効果があるはずだ。
「ギャガガアアアアアアアッ‼」
ワイルドボアの悲鳴。やはりダメージは入っている。
「いけ、もう少しだ!」
余力のある戦い。まだニコの周りには安全用のゾンビもいるし、マナカにも十分のゾンビを供給することができていた。
やがて後ろ足が落ちて、ワイルドボアが姿勢を保てなくなりずり落ちる。こうなってしまえば、あとは勝ち
反撃の予感がないことを確認してから、ニコがとどめを刺しに行く。
こうすることでニコの周りのゾンビも戦力で使えるし、何よりいまだゾンビよりはニコの方が強い。ダメ押しには、自分で攻撃するのが一番なのだ。
「ここなら効くだろ? くらえッッ‼」
ワイルドボアを横に倒して、お腹側に蹴りを入れる。普段は見えない部分であるお腹は、当然のように柔らかく攻撃がよく効く。
「すごい…………」
マナカもうっとりするような手際の良さ。
これが、再三のシミュレーションを重ねたうえでニコがたどり着いた、ワイルドボアに勝つ戦い方だった。
「いよっし‼」
「グウウゥゥゥゥ」と言って倒れたワイルドボアを見て、ニコは確かな手ごたえを感じた。
――その時だった。
新たに3頭ものワイルドボアがニコたちの前に現れたのは。
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