第9話 考察

「魔物を倒すと、俺のレベルが上がるけどゾンビのレベルは上がらない。ゾンビのレベルは魔石によって上がっていく……」


 日中、マナカと一緒に水運びの仕事をこなしながら、ニコは得られた情報を整理していた。


「あの『布』に書いてあるパラメータは、そのまま強さを表すわけじゃない。現に『敏捷』のところは数値では15まで来ているが、僕が15だった時と比べても移動速度は全然遅い」

「ちょっと、ニコー? ちゃんと仕事してる?」

「大丈夫、してるしてる」


 井戸から水をくみ上げていると、暇そうにしているマナカから声をかけられる。

 マナカはニコが代わりに仕事をしている最中は、ニコの召喚したゾンビと戯れていた。


「ねえ、ゾンちゃんってば、全然話してくれないんだけど」

「なんでマナカはゾンビと意志の疎通を図ろうとしてるのさ……」


 マナカという少女のその突飛な発想力には驚かされるが、ゾンビと会話なんて聞いたことがない。ゾンビは「ヴァー」しか言わないというのは有名な話だ。


「でもさ、ゾンビも成長していくっていうならさ、いつかは話せるようになっても不思議じゃないと思わない?」

「喋ってるゾンビとか想像できないけどね……」


 でもたしかに、一理あるとニコも思った。ゾンビがどうなるかはまだ分からないのだから、マナカのアイデアもあながち否定できるものでもない。


 そしてまたニコは自分の試行の世界に戻る。


「ただもしかしたらまだゾンビは自分の力を使いきれてないだけかもしれない。現に『敏捷』の部分では僕よりも明らかに弱いけど、『力』の部分では僕とそんなに変わらない。『防御』も多分一緒くらいだろうから、ゾンビが遅いのは単純に走り方が分かってないだけか……?」


 何も手掛かりはないが、ニコはそれでも思考を止めることはしなかった。

 そういえば、いつもよりも複雑なことを考えても頭の中がすっきりしている。これもパラメータの『賢さ』が上がったからだろうか。


「だとすればやることは、とりあえずはゾンビの成長。それに合わせて僕も成長していくことだ……。一人でワイルドボアを難なく倒すことができるようになれば、この村にも貢献できる」


 ゴブリンを倒したところで村の利益になるようなことはない。多少ゴブリンの数が減って村人の安全度が高まるくらいだが、たぶん大きな変化ではない。


 やはり、ワイルドボアを倒せるようになって自力で食料調達をできるようになることが、ひとまずの目標になる。


「でも一体どれくらいレベルを上げればいいんだろう。体感的には、ゴブリンがレベル30くらいのイメージだから……ワイルドボアは50くらいか」


 多分目に見えないだけで、奴らにも『ステータス』のようなものはあるのだろう。その数値が分からないから詳しいことは分からないが、レベルが50くらいになれば一人でも倒せるだろうと予感していた。

 というか、たぶん50じゃなくてもゾンビのレベルがそこそこあるだけで倒せるだろうが、ニコは慎重なタイプだ。自分が死ぬリスクはあまりとりたくない。


 だから、が50を越えてくるようになれば、安心して戦えるようになるだろう、という計算だった。

 まだまだ先は長い。


「あとは、ゾンビはレベルが1上がるごとに召喚できる数が1ずつ増える」


 そして、これも重要な情報だった。

 今現在、召喚できるゾンビの数は15。レベルと同じだ。


 また今日の朝試したことで、召喚できるゾンビの数は調整できることが分かった。15体までしか出せないが、今のようにマナカと戯れるように一匹だけ召喚する、みたいなこともできる。

 あと、ゾンビを召喚するからと言って特に自分の魔力が削られる、ということもないようだ。


「そうだとするなら、ゴブリンくらいは楽勝に倒せるな……。ゾンビの配置は、また実戦で試すか」


 これで当面のやるべきことは決まった。

 村の周りにいるゴブリンを倒しながら、ゾンビとの戦い方について模索する。


 1人ならもしワイルドボアに見つかっても逃げられるだろうし、ゾンビを囮にすることもできるだろう。


「あとは、ゾンビがちゃんと命令を理解できるかだけど……」


 それが一番の悩み事であることが、なんだか情けないニコだった。




 その後日が沈むまで周りの森を散策したニコは、今日だけでゴブリンを20体ほど倒すことに成功をした。


 ちなみに、前よりもゾンビの力が強くなったからか、ゴブリンを倒すと勝手に体をぶちぶち破って魔石を食するようになった。

 どの個体が食べてもゾンビのレベルは上がるので、問題ない。



『ニコ・オルライト』


 Lv.28(+10)

 力  39(+14)

 防御 29(+10)

 賢さ 30(+10)

 敏捷 48(+18)

 運  15(+5)

 魔力 17(+5)


《スキル》 【ゾンビ使い】



『ゾンビ』


 Lv.30(+15)

 力  30(+15)

 防御 30(+15)

 賢さ 30(+15)

 敏捷 30(+15)

 運  30(+15)

 魔力 30(+15)



 そして驚くべきは、その成長速度だ。今日だけで、ゾンビは目標レベルの30に到達。これでワイルドボアも倒せることだろう。


 そしてニコも、同じようにレベルが30近くまで来た。特に『敏捷』の方は成長が実感できて、いつもよりも速い速度で走れる分攻撃に力を上乗せすることもできた。


「まあゾンビと同じ『賢さ』っていうのはちょっと悲しいけど……」


 だがそれでも。ニコは以前より。


 ――明らかに、強くなっていた。


 1日でこの成長量、ワイルドボアに勝てる日もそう遠くない。

 ゴールが意外と近くにあると気が付いたことで、ニコのやる気もどんどん上がっていく。


「明日、ワイルドボアに挑んじゃうか……?」


 そしてうっかり口にしたこのセリフを。


「えーマナカも行くー!」


 ニコはすぐ直後に後悔することになったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る