第8話 ゾンちゃん

「やっぱり、ゾンビは魔石で強くすることができるんだ!」


 魔石を食べさせる頃には、日は頂点に達していた。

 だがそんなことを気にすることもなく、ニコは嬉しさに体を躍らせていた。


「そっか、どおりで今までは強くならなかったのか」


 ゾンビで魔物を倒しても決して強くならなかったゾンビが、ようやく強くなった。


 しかも「布」によれば、一気に強くなっている。

 このパラメータがそれぞれどういうものを示しているのか分からないが、単純にパラメータだけ見たら能力は5倍になっている。


 さすがにそんなことはないだろうから、まだそこまで大きな成長ではないだろうけど、ゾンビを強くすることができると知れただけでも大きな一歩だ。


「そうなったら、やることは決まってる」


 この時初めて、ニコの中で幼馴染を救う道筋が見えた。





 その日、さっそく村を抜け出したニコは、魔物を探し求めていた。

 狙うはゴブリン。前に戦った時は1匹1匹でも大変だったが、今なら前より戦えるはずだ。


「狩りは一週間に一回しかないから、なんとか自分で集められるようにしなきゃ……」


 そしてゆくゆくは一人でもあのワイルドボアに挑めるように……そうしたら村人のみんなの負担も軽くなるはずだ。

 そう思いながら、一匹だけはぐれているゴブリンを探し求めてニコは歩く。


 村から離れすぎないように、慎重に……。


 ――バキッ。


「やばっ!」


 不用意に音を立ててしまい辺りを見回すと、そこには2匹のゴブリンがニコの方を向いていた。


「「ギャアアアアアアアア」」


 だが最初にゴブリンを見た時よりも恐怖は少ない。

 なぜなら、今には前よりも頼れる相棒がいたからだ。


(2匹なら……いけるな)


「来い‼」


 一度引っ込めていたゾンビを再び呼び戻した。


 ――はずだった。


 しかし、明らかに前と違うことが起きている。


 なぜなら。


「5,5体⁉」


 一匹しかいなかったはずのゾンビが、5体召喚されるようになっていたからだ。


 レベルが上がったおかげなのか、だがこれはニコにとっては嬉しい違い。


(どんな動きをするのか、まず見ないとな)


「じゃあまず、そっちのゴブリンに目がけて攻撃をしろ‼」


 一体のゴブリンをターゲットにすると、すぐさまゾンビたちは動き出す。


「――速い――――ってこともないか」


 その速度は前とは見違えるように速いが、それでも前の1.5倍くらい。もともとが遅すぎるため、「まあマシになったかな」というくらいだ。


 だがそれでも5体いるということで、2体のゴブリンも出方を窺っている。

 それだけでも前とは大違いだった。


「ギャガガガアアアギャアアアア」


 やがて意を決したのかゴブリンが突っ込んでくる。

 横列になっているゾンビたちの中に飛び込むようにして。


「ヴァー」


 ゾンビはそれを腕で追い払おうとするがさすがに力はゴブリンの方が上。

 一体が灰に変わり、もう一体も押し倒されている。


 ――だが、もう一体は死んではいない。


「でやあああ‼」


 そのすきを見てニコが攻撃を入れる。


 ニコの動きも以前よりまたスムーズになっていて、1体のゴブリンを吹き飛ばすことに成功。

 そのゴブリンは木に体を打ち付けて、しばらく動けない。


「よし、もう一体‼」


 そこまで言ってしまえば、あとはゾンビを含めても5対1。

 時間をかけずとも倒せる。


「ギャアアアアアッッッッ‼」


 結局鳴り響いたのはゴブリンの悲鳴だけで、ニコはゴブリン2体相手に圧勝をすることができた。





「ニコ、どこ行ってたの⁉」

「ん? ああ、ちょっと森に」

「森に⁉」


 その晩、ニコは死体のゴブリン5体を引き連れて森に返ってくると、村長の娘マナカにすごい怒られた。

 なんで勝手な行動をするの、とか、森は危ないでしょ、とかいろいろとマナカの前で土下座をさせられながら説教される姿は村人の多くが目撃し、「将来ニコは尻に敷かれるタイプだ」「マナカは尻に敷くタイプ」「ニコはアホ」などのうわさが流れるようになった。


「それで、何してたの」

「ゴブリンを……倒していました…………」


 強い口調はそのかわいらしい容姿とは裏腹に威圧感がある。

 そういえば前にマナカの父で村長のヤックも、こうやって叱られていたなとニコは思い出す。


「何のために?」

「自分のゾンビを強くする……ためです」

「ゾンビ?」


 マナカが疑問に思ったようなので、ゾンビ召喚する。

 あの後ゴブリン3体との戦いで3匹やられたので、ゾンビは一匹だけだ。


「え、グロい……」

「ヴァー」


 なんとなくゾンビが悲しがっているように見えたが、気のせいだろう。


「まあたしかに、ゾンビは見た目あんまりよくないけど……」

「…………かわいい」

「え?」


 何とか弁解しようとしていたニコだったが、どうやらマナカの様子がおかしい。


「ねえ、この子なんていうの?」

「いや、名前なんてないけど……」

「えー、このゾンちゃんかわいいのに」

「ゾンちゃんて」


 異様に目を輝かせているマナカに頭痛がするニコだが、まあ忌避感を持たれるよりはいいかと思い直した。


「ゾンビって、魔石を食べると強くなるみたいなんだよ。だからそのために、ゴブリンを倒してた」

「今どれくらい強いの?」

「うーん」


 そう言われると難しい。


「マナカよりは……足が遅い。力もないと思う」

「そっかあ」


 なんだか意味ありげな口調だったが、ニコは気にしなかった。


「なんか面白いね。どれくらい強くなるんだろう~?」

「分からない。けど、いずれは人間くらい強くなるかもしれない」


 この言葉は間違いだったということは後々わかる話だが、人々のしているゾンビの認識からしたらそれでも夢物語くらいだった。


「ただ……いつかもっともっとゾンビが強くなったら……この村の役に立てると思う。ワイルドボアを狩れるようになったり、村を魔物から守れるようになるかもしれない」

「戦争が起きても、この村を守れるくらいにしてよっ」

「さすがにそれは…………いや」


 そこまで言いかけて、ニコは思い出した。


 この村がむかし戦争に巻き込まれて大きく退廃してしまったことを。

 たくさんの人が死んで、その中にマナカの母親や祖父母もいたことを。


 だからこそ、ニコはマナカを元気づけるように言った。


「何が来ても、守れるように。こいつを強くして、僕も強くなるよ」


 それが、ニコの今の望みだった。


「…………うんっ!」


 マナカの笑顔を見て、もっと頑張らないとと努力を誓うニコだった。



『ニコ・オルライト』


 Lv.18(+6)

 力  25(+7)

 防御 19(+6)

 賢さ 20(+6)

 敏捷 30(+10)

 運  10(+3)

 魔力 12(+3)


《スキル》 【ゾンビ使い】



『ゾンビ』


 Lv.15(+10)

 力  15(+10)

 防御 15(+10)

 賢さ 15(+10)

 敏捷 15(+10)

 運  15(+10)

 魔力 15(+10)

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