第7話 ゾンビのレベルが……

 翌日、ニコはヤックに言われたとおりにアキナワのもとへと向かっていた。


「じゃあ解体の仕方を説明しとくからな、よく見とけよ?」

「は、はい! アキナワさん!」


 アキナワの目の前には昨日殺したワイルドボアが横向きに転がっていた。


 昨日に倒した後すぐに血抜きをしてあるから鮮度はある程度保ててある。


「じゃあまず皮を剥ぐが……まあこれは力がいるからちょっとそっち押さえててくれ」

「わ、分かりました!」


 アキナワの指示に従って、ニコはワイルドボアの頭を押さえつける。


 それを見たアキナワはブシッとなたを突き刺すと、そこからある程度大雑把に皮を剥いでいった。


「この皮はなるべく一枚になるように剥ぐ。そうすることで、洗えばいろいろな使い方ができるからだ」


 ワイルドボアの皮は固くしっかりしていて、屋根にかけるだけでも雨漏りする量が減らせたり、外で狩りをするときにレジャーシート代わりに敷くこともできる。


「そして次に肉だが、まあこれは一朝一夕にはできんだろうから、見ててくれ」


 アキナワはそう言うと、まずワイルドボアの首を力ずくで落とす。

 硬い骨があったが、それは力技で落としたらしい。


 それから腹の部分。内臓をそれぞれ分けて取り出して、残りの肉部分を大きく3等分した。


「すごい……慣れてるんですか……?」

「まあな。うちは昔から解体する決まりになっててな。その分、取り分も少し多いんだが」


 汗を流しながらも、バッサリと解体するアキナワ。

 金髪の髪が汗に濡れて、30代よりも若く見える。妙にかっこよくニコの目に映った。


 そのアキナワが3等分したうちの真ん中の部位に、さらに手をかけた。


「何してるんですか?」

「ん? ああ、これはな。を取り出してるんだよ」

「魔石?」


 ニコが尋ねると同時、アキナワは綺麗に中までくり抜いてそこから一つの石を取り出した。


 小さい、その辺にある石ころと同じくらいのサイズだ。

 不思議な光り方をしている。紫色っぽい反射をしているが他の色が混じっているような。


「こいつはな、町の方に行くと売れるらしいんだが」

「何か使い道があるんですか?」

「なんでも、肥料代わりに土に埋めたり、自分の使いの魔獣に上げて能力を底上げしたりするんだとか」

「魔獣の能力を……底上げ?」


 魔獣というのは、人間が支配できるような比較的友好的な魔物のことだ。

 ゴブリンなんかも手なずけると魔獣と呼ばれるようになるが、基本的にはもっと強い魔物を魔獣にすることが多い。


「まあ、うちの村にとってはあんまり使い道がないから、魚の小骨みたいに取り除くだけなんだがな」

「それ――僕にくれませんか‼」


 ニコはアキナワが捨てようとしたそのときに反射的に叫んでいた。


 思わずアキナワは驚いて魔石を落としてしまい、慌てて拾う。


「欲しい? なんたってこんなもの……」

「ゾンビにあげようと思うんです」

「……? こいつでお前のゾンビが強くなるってか?」

「はい。……可能性はあると、思いませんか?」


 ふむ、とアキナワは考える。

 魔獣とゾンビなどの魔物はさっき言った通り本質的には変わらない。


 ならたしかに、やってみる価値はあると思った。


「わかった。まあどうせ使い道なんて他にないから、お前が有効活用してくれるっていうならやるよ」

「ほかにも前から溜めてあった魔石とかはありますか‼」

「い、いや、すまねえ。いらないものと思って捨てちまってる……」

「大丈夫です!」


 ニコはアキナワから魔石を受け取ると、すぐさまその場を離れていった。


「なんだあいつ……いきなり目を輝かせて」


 ニコは変わったやつだといううわさが、この時あたりから村に流れ始めた。





「来い、ゾンビ!」


 ゾンビを召喚。

 先の狩りでやられてしまったゾンビだが、すでにあれから日が変わっているので召喚することができる。

 良くは分からないが、なぜか0時0分になるとゾンビは復活する。


「ヴァー」


 相変わらず覇気のない声だ。

 弱すぎてかわいくすら思える。


「ほら、ゾンビ。こいつを食え」


 そのゾンビの前に魔石を出す。


 ニコの予想が正しければ……これに食いつくはずだ。


「ヴァ? ヴァー‼」


 そしてその予想通り、ゾンビは光る魔石を見つけると思いきり飛びついてきた。


「よし、思った通り!」


 体のど真ん中にあるという魔石。

 そして先日、倒したゴブリンを貪っていたゾンビ。

 その二つの点が、さっきの話を聞いたことでニコには線になった。


 つまりゾンビがゴブリンの死体を物色していたのは、その中にある魔石に惹かれていたのだ。どおりでゴブリンの肉にも目をくれず、その肉を裂こうとしていたわけだ。


 ゾンビは魔石をニコの手から奪うと、ガリ、ガリっとかじりだした。


「いや、噛めないだろ……」


 だが魔石はその辺の石ころと同じくらいの硬さはある。

 ゾンビには傷ひとつつけることができない。


 そしてそれをゾンビも10分くらいかじり続けてから気が付いたのか。

 今度は魔石を丸呑みした。


「おお、食べた」


 これで魔石を取り入れることに成功したはず。


 そう確認したニコは、「例の布」を取り出し、そしてステータスの確認をした。



『ニコ・オルライト』


 Lv.12(+0)

 力  18(+0)

 防御 13(+0)

 賢さ 14(+0)

 敏捷 20(+0)

 運   7(+0)

 魔力  9(+0)


《スキル》 【ゾンビ使い】



『ゾンビ』


 Lv.5(+4)

 力  5(+4)

 防御 5(+4)

 賢さ 5(+4)

 敏捷 5(+4)

 運  5(+4)

 魔力 5(+4)


 そこには、ニコの期待した結果が得られていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る