第6話 狩り②

「いいか、お前は戦っちゃだめだぞ。ゾンビを囮代わりに使うだけだからな」

「分かりました。分かりましたから」


 ヤックは再三の忠告をする。


 というのも、ニコが狩りに付いて行くうえでヤックから出された条件が「戦いに参加しないこと」だったからだ。

 ヤックたち村人もゾンビがいかなるものか分からないのでニコを棄権に巻き込むのは絶対にダメだが、ゾンビだけでも有用なら今度から連れていきたいとのことだった。


 みんな、当たり前だが死ぬリスクは減らしたいと思うものだ。


「まあ、とりあえず最初は手を出さず見とけ」


 やがて、ワイルドボアを見つける。


 図体の大きいイノシシ、と形容するのが一番わかりやすいだろう。

 高さだけでも3メートル程度はあるワイルドボアはゴブリンのように知性こそ持たないが、その体から繰り出される突進は体に見合わないスピードを兼ね備えていて脅威になる。


(こんな魔物、どうやって倒すんだろう……)


 ニコは目の前にいる魔物に手汗をかきながら、遠くで一人村人たちの動きを観察していた。


 まずは村人10人が4人4人2人の3グループに分かれた。


 それから2人のグループがワイルドボアを挑発する。


「ギュッガアアアアアアア‼」


 そのときにワイルドボアがとる行動は一つだけ。

 突進だ。


 そこを見計らって、横から4人グループのひとつが斧や鎌やらを投げつけ、同時に弓矢を放つ。


「ギャアアアアガガアアアアアアッッ‼」


 そしてその痛みでひるんだところを、残りの1グループが後ろから回り込んで攻撃。


 足を中心に攻撃をすることによってもしとどめを刺しきれなくても余裕をもって殺せるようにする。

 それから10分ほどワイルドボアと戦って、結局のところヤック達が難なく倒してしまった。


「す、すごい……‼」


 ヤックから合図を受けてニコも茂みから顔を出して村人のところへ近づく。


「なんか……こういうこと言うのは申し訳ないんですけど、もうちょっと苦労するかと思いました」

「いや、今のは順調にいったパターンだな。大体被害がひどくなる時は最初の攻撃で止まってくれなくて、囮役の2人にダメージが行く場合だな。下手すれば全滅する」

「ぜ、全滅……」


 重くのしかかるその言葉にニコは言葉を詰まらせる。


「だから、囮役が大事なんですね…………」

「そうだ。ぶっちゃけ一番死ぬ確率が高いから、そのゾンビが満足に役目を果たせるんならそれが一番いい」

「なるほど」


 それはニコにとっても望むところだった。

 一応付いて行くだけ付いて行って手柄だけ取るというのが、一番卑しくて忌避すべきところだったからだ。


「今ので分かっただろ? だから次はお前のゾンビを使うぜ」

「わ、分かりました!」


 人一倍緊張しているニコに、村人たちは穏やかな笑みを向けていた。




 ――だが、そううまくいくものでもなかった。


「あ、あれだな……ゾンビ、全然役に立たなかったな……」

「ちょっとヤック、もうちょっと言い方ってものがあるだろ」

「いや、いいんです……本当に役立たずだったので……」


 控えめに言っても、ニコは何の役にも立っていなかった。


 ゾンビを動かして囮にしようとみたが、まず移動速度が遅すぎて配置につくのにも時間がかかる。

 そしてその間にワイルドボアに見つかってしまい、一瞬で死んでしまった。何の働きもせずに、である。


 結局ワイルドボアはまた村の人たちが苦戦しながら倒してくれ、今は狩りから村に帰るところだ。


「なあ、そのゾンビってやつはもっと強くなんねえのか?」


 村人の一人、アキナワがニコに尋ねる。


「いや、それはないんじゃないでしょうか……? ゾンビってそんなに強いものではないですし……」

「ま、まあそうだけど」


 フォローのために言ったアキナワだったが、悲しむニコの顔を見て焦る。


 ゾンビというのは魔物界でも最弱と位置付けられている。


 上級の魔物がたまに召喚してくるぐらいだが、それはもっと数が多い。

 数百、数千は普通である。一体でどうにかなるものではない。


「じゃあゾンビの数を増やすとか!」

「それは思ったんですけど……どうにも今の僕じゃ一体を出すのが精いっぱいで」

「そ、そっか……」


 アキナワの言葉にますます消沈していくニコ。

「おい、何やってんだよ」とアキナワは他の男にどやされる。「だからアキナワは女に好かれないんだよなあ」「そ、それは余計だろ! ニコは女じゃねえし」「そういうところだよね」みたいな会話をされていた。


 そんな会話を抜け出し、ニコは村長のヤックのもとへ向かう。

 ワイルドボアを肩に担ぐヤックに、ニコは遠慮がちに声をかけた。


「あの、僕はやっぱり取り分なしでいいですよ……。何の役にも立てなかったんだし」


 というのも、ヤックが狩りが終わった後に「気にせずうちで飯を食え」と言ってくれたのだった。

 だが、それは心苦しい。ただ飯を食らうというのはニコにとっては避けたいものだった。


 しかし、ヤックはそんなニコの申し出を一蹴する。


「いいから食ってけ。第一、お前が空腹で倒れちまったら、俺だって目覚めがわりい」

「いや、でも……」


 しかし引き下がろうとしないニコを見て、ヤックは逆に彼から提案をした。


「じゃあニコ。明日アキナワのところでこのワイルドボアを捌くから、その手伝いをしな」


 ニコにはある程度仕事をさせてやった方がいいと判断したヤックは、ニコにそう提案した。


 だがニコにとってはそんな思惑を見透かされていること自体が意外で、驚きの声を上げる。


「え」

「なんだ、いやなのか?」

「いえ、嫌じゃないです! ありがとうございます!」


 こうしてヤックの計らいによって、ニコは「解体」の作業を手伝うことになったのだった。




『ニコ・オルライト』


 Lv.12(+2)

 力  18(+2)

 防御 13(+2)

 賢さ 14(+2)

 敏捷 20(+3)

 運   7(+0)

 魔力  9(+1)


《スキル》 【ゾンビ使い】



『ゾンビ』


 Lv.1

 力  1

 防御 1

 賢さ 1

 敏捷 1

 運  1

 魔力 1

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