第5話 狩り①
村に来てまず教わったのは水の汲み方だった。
井戸に行って、滑車の片側に桶を付けもう片側には元からしっかりと桶が付いているか確認。
桶を下ろすときの向き、桶を上げるときの向きが決まっていることを教わり、それに合わせて綱を引くように指示される。
なぜこれを最初に手伝うことになったのかと言えば、これがマナカのやっている主な仕事だかららしい。
「マナカ、これ重くない?」
「うーん、慣れちゃったかなあ~」
「強すぎる……」
マナカは自分より力があるかもしれないという事実にショックを受けつつ、せっせかとニコは働く。
マナカも何もしないでいるのは退屈らしく、こうしてニコの仕事を見てはちょっかいをかけに来ている。
「何歳からやってるのこれ?」
「うーん、5歳くらい?」
「化け物かな?」
15歳のニコが今やっても辛い作業を、5歳のころからやっているという。
「そういえば、マナカって僕と同じくらいだよね?」
「うん! マナカは今年で15なのです~っ!」
えっへんと言わんばかりに豊満な胸を張るマナカ。
栄養不足のこの村でどうやってあんな立派なものが育ってしまったんだとニコは思う。スピカなんてどれだけ食べても大きくならなかったのに……。
と、そんなことを思っていたらいきなり頭痛がした。
タイミングのいい頭痛だ。まるでスピカが怒ってるみたい。
「はい、じゃあそれを全部の家に届けよーっ!」
「まだ汲んで終わりじゃないのか……」
「当たり前でしょ! ほら、レッツゴーっ」
無駄にテンションの高いマナカにつられるがままに水を運び出す。
各家の決められた場所に置いておくことで、あとは家主が勝手に水を使ってまたなくなったら空になった桶を置いておく。
そして空になってないか定期的にチェックする。ここまでがニコの仕事だ。
「ふう、ひとまずこれでいいのかな」
「うん! バッチグー!」
さっきからマナカが何を言っているのかわからなかったが、どうやら「よくできました」と言っているらしい。
そんなこんなでひとまず水を運び終わった頃には、すでに日は頂点までやってきていた。
暖かい陽気に包まれて、ニコにとっては少し暑いくらいだったがなんとか仕事を終えてひと満足していたころ。
ニコのお腹が「ぐーっ」と音を立てる。
「あ、そういえばご飯のことを何も考えてなかったな……」
さすがにご飯までもらってしまうのは申し訳ない。
見たところ食糧不足になっているようだ。宿があるだけでもありがたいのに、ご飯をごちそうになるわけにはいかない。
そう思っていたところで、ニコは視界に見慣れない光景を見つける。
「ねえマナカ。あれはなに?」
村人たちが10人くらい集まって列になっている。
よく見ると全員男で、手には斧やら弓やらを持っていた。
「あれはねー、狩りに行くんだよ」
「狩り?」
問い返すと、マナカは「そう」と言って説明をしてくれる。
「畑だけじゃ食べ物が足りないから、ああやって数日に一回、出かけてるの。周りの森でね」
「狩りって言っても、周りに手ごろな動物は見当たらなかったけど……」
ウサギとか鳥とかそういう動物はいたが、大多数を占めるのはゴブリンなどの魔物だ。
そしてそのゴブリンは食することはできないと言われている。
「ワイルドボアを倒しに行くの」
「ワイルドボア? それってあのイノシシの……ってかなり強いやつじゃないか!」
俺がそう指摘すると、マナカは悲しそうな顔で伏し目がちになる。
「すっごーい危険だけど……そうしないと食べ物なくなっちゃうから」
「あ、ごめん……」
ニコは自分が無神経なことを言っていることに気が付いて謝罪する。
本来なら戦う必要もない相手だが、生きていくためにはそういったリスクを冒さないといけないほどにまで追い込まれているのだ。
そのことに気が付かないまま、責めるようなことを言ってしまったことを反省する。
だがそこで、ニコは自分にできることに気が付いた。
「――そうか、僕も狩りに行けばいいんだ」
「え?」
思いついたら即実行。
「あ、ちょっとっ!」
ニコの言った言葉をマナカが理解する前に、ニコは男たちの列に声をかけた。
「ヤックさん」
「おお、ニコじゃねえか。どした?」
戦闘にいるヤックに提案する。
「その、僕も狩りに付いて行きたいです」
おずおずと、それでも決して怖がっているようなそぶりは見せずにニコは言った。
だが当然、ヤックは怪訝な顔をする。
「はあ? なんたってお前が?」
「自分の食べるものは、自分で捕まえます」
狩りに付いて行って、少しでも貢献する。
自己満足的な考え方だが、狩りに参加していた方が食料を食べるときの罪悪感も少ない。
それに、自分が参加したら狩れる数も増えて食料が増えるかもしれない。
そういう思考による提案だったが。
「……ダメだ。お前の参加は認めねえ」
「な、なんでですか⁉」
断ろうとするヤックに、ニコは食いつく。
そんなニコを、ヤックはにべもなく断る。
「お前みたいな弱っちい奴が役に立つと思わねえし、お前を守りながらだとこっちのパフォーマンスが落ちる」
厳しい口調。
だがそれは、ニコを危ない場所に連れて行きたくないというヤックの思いからだった。
周りの男たちもうなずいている。まだ名前も知らないニコのことを、何故か気にかけてくれている。
それでもニコは引き下がらない。
「でも僕だったら、絶対に死なない囮になることができます」
そう断言すると、ヤックが今度は眉をしかめた。
「どういうことだ?」
「実は僕……ゾンビ使いなんです」
そこでニコは自分のスキルについて、説明をした。
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