第3話 生きる希望は幼馴染
「はあ……っ、はあ……っ!」
翌日、再び村を探すために出たニコはゴブリンとの戦闘になっていた。
運よくまた一体。適度な難易度と、しかし疲れの取れていない体では、やはりじり貧の戦いだ。
「ゾンビ、いけ‼」
ギリギリまで引き寄せてゾンビとニコの挟撃に持ち込む。
その中で、ニコは違和感を感じていた。
(疲れがあるはずなのに……昨日より動ける?)
些細な変化だ。
いつもより地面を蹴る感覚が強くなっていたり、少しだけゴブリンにこぶしを入れたときのよろめきが大きい。
ただそれくらいなのだが。
頭によぎるのは、あのぼろ布に書かれていたステータス。
「本当に、昨日よりもレベルアップしてるのか……?」
ただ、だからと言ってゴブリンとの戦いが楽になるわけではない。
そもそも強くなっているというこの感覚も、もしかしたらあの布に書かれていた数値を見て暗示にかかっているだけかもしれない。
そうでなかったとしても、もともとレベル30程度はありそうなゴブリンとの戦いが簡単なはずはなかった。
ゾンビの攻撃が空振りに終わる。そこを目がけてゴブリンが斧を振り回す。
「ヴァー」
ゾンビに痛覚というものは存在しない。
致命的なダメージを受けても、いつも通りの声しか出なかった。
「くそっ、ゾンビがやられたか!」
灰になって消えていくゾンビ。
だが、ゴブリンが攻撃した後の隙を狙ってニコが蹴りを入れる。
助走で得たエネルギーも使った、強めの攻撃だ。
ゴブリンがニコの蹴りの前に沈む。
そのゴブリンが手放した斧をニコが逆に奪い、ゴブリンにとどめを刺した。
「ふう、こんなもんか……」
ゴブリンを倒したニコだが、ゾンビが死んでしまった。
ゾンビは一日に一体しか召喚することができないので、今日の残りは一人で戦うことになる。
「いよいよ、早く村を見つけないとマズい…………」
スピカの両親からもらった食料も、すでに底をつきようとしている。水もなくなった。
これ以上一人でこの森をほっつき歩くのはどう考えても死ぬ。
唯一の救いは日差しがないことくらいか。
木が生い茂っていて、直射日光が当たらなくて済んでいる。
「昼のうちに見つけないと」
体力がもう残りわずかだったニコは、急いで村にたどり着くことを決めた。
「ここまで来れば……、さしものあいつらでさえも――っ」
日が落ちても村を求めて探し続けるニコだったが、ここにきて体力の限界がやってきた。
途中何度も魔物に見つかりそうになり、急いで距離を取ると再び魔物と出会う。
そういう時間が休むことなく押し寄せたため緊張を解くことはできず、ニコは肉体的にも精神的にもすでに力尽きていた。
「せめて、水……」
意識が半ば消えそうになる。だがこんな森の真ん中で倒れてしまったら死ぬだけだと、なんとか奮起する。その繰り返し。
ニコを支えているのは、もはや一つの気持ちだけだった。
「スピカ……。スピカに…………あいたい、なあ」
思い浮かぶのはあの金髪の幼馴染の顔。
子供のくせに身長が自分より高くて、なんか難しいことばっかり考えていて、それでいて中身は子供っぽいあの幼馴染の顔だった。
『ニコは将来、何になりたいの?』
『うーん、僕? そうだなあ、平和な暮らしがしたいかなあ』
『そこはわたしの旦那さんとか言いなさいよばか』
『ふええ、なんで怒られたの僕?』
昔したバカみたいな会話をなぜか思い出す。
あれはニコが連れ去られる数日前の会話だ。5年前か。
スピカがいなくなったことで、僕はそれまでの上昇志向のない自分を捨てた。
絶対にエルフから幼馴染を取り戻すんだって、いっぱい自分を鍛えて、ゾンビが使えるようになってからは一生懸命ゾンビを使いこなす練習をした。それなのに。
結局ゴブリン一匹に一人で戦えないこのざまだし、その練習のせいでスピカの両親まで裏切ることになってしまった。
ああ、なんて。
(なんて情けないやつなんだ、僕は……)
今だって走馬灯のようなものを見ている。
それはすでに自分が生きることを諦めてしまっているからではないか?
――諦めるな。
死んでも諦めるな。死んでも生き続けることを諦めるな。
僕が死んだら、スピカも死んでしまう。だから諦めるな。自分の命も幼馴染の命も諦めるな。
ニコは再び立ち上がって探す。スピカが村へ行けというなら行かなくちゃダメだ。
不思議と、旅の始めくらい元気な気がした。
多分ひと時のことだろうとは思うが、それがとてもありがたい。
そしてさらに歩き続けて1時間ほどのこと。
ようやく、ようやく。
「着いた……!」
そこでニコの意識は事切れてしまった。
『ニコ・オルライト』
Lv.10(+2)
力 16(+2)
防御 11(+2)
賢さ 12(+2)
敏捷 17(+4)
運 7(+1)
魔力 8(+1)
《スキル》 【ゾンビ使い】
『ゾンビ』
Lv.1
力 1
防御 1
賢さ 1
敏捷 1
運 1
魔力 1
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