勇者の国と魔王の国(後編)
最初に書かれていたのは物語の世界の舞台設定、そしてゲームの目的であった。
世界観はよくあるファンタジーものらしく、タイトルのとおり、勇者と魔王がそれぞれ治める二つの大国がある。
プレイヤーはその両国の内から何れかを選ぶ…のではなく、その境界に位置する小国を運営するというものであった。
強国に挟まれた吹けば飛ぶような弱小国を如何にして存続させるのか、というのが目的であるらしい。なかなか興味深そうな話ではある。
ふと、気が付くといつの間にか後ろに沙那が回り込んできていた。その表情からはいつもの挑発的な笑みは薄れ、ある種の期待感が内包されているようで、そうして黙っていれば可愛いのになと、決して口には出来ないことを考えてしまった。
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選択1.勇者側に付く
いくつかの選択肢を経て、僕は国家の行く末を勇者の国に託すことにした。ゲームの製作者からして一筋縄ではいかないだろうが、まずは正義の側に立つのが王道であろう。
勇者の国と魔王の国の戦力は拮抗しており、僕の国を始めとして多くの小国がその戦いに巻き込まれていた。
魔王に侵略されて滅びた国も数多く、僕の国も勇者の加護がなければ、あっという間に同じ道を辿っていたことだろう。
しかし、一方で勇者の国もまた、決して無条件で他国を保護しているわけではなかった。魔王の国との戦線を維持するため、資金や物資の提供、そして兵士の従軍を強く要請されていた。
周辺国の中には勇者側から魔王側に鞍替えする国もあったが、魔王側とて搾取の手がない訳ではなく、そして裏切り者に対する勇者の国の報復もまた苛烈なものであった。
そして、長き戦乱の末、遂に両軍に決着の時が訪れた。しかし、その頃には僕の国は壊滅的な打撃を負っており、既に国体の維持は不可能であり、勝者となった国に吸収されることとなった。
GAME OVER
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選択2.魔王側に付く
どうやらこのゲームは勇者が魔王を打倒するという簡単なものではないらしい。選択肢を埋めていくためにも、僕は今度は魔王側に付くことにした。
意外なことに、魔王は自身に従うものには寛容であった。
両国を戦力的に分析すると、勇者側が質を重んじるのに対し、魔王側は量を主としているようで、戦力そのものは必要としていないようである。
しかし、一方で勇者側からの侵略、相手にしてみれば征討なのかも知れないが、これはある意味で魔王側のときよりも激しかった。
所詮は魔族が人族を積極的に守ることもなく、勇者側の激しい攻勢に僕の国は焦土と化し、あっという間に滅亡してしまった。いやはや、最後はどっちが魔王なのか分からなかったほどである。
GAME OVER
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「いや、どっちを選んでもダメなんだけど」
結局のところ、勇者側でも魔王側でも滅亡してしまった。思わず文句の一つも呟いてしまった僕に対し、彼女は身を乗り出すと耳元に口を寄せて囁いた。
「ふむ、強国の庇護を受けるという選択は決して間違いではない。しかし、盲目的に従い、生殺与奪を委ねてしまえば、自主性のない国家に未来などないであろうな」
なるほど、それは一理ある。強国は決して慈善事業者ではない。他国を支援したとしても、それは自国にとって何らかの
強国とて同じ国である。国には国民がおり、彼らのために最大の利益を求めることは当然の行動であり、いつまでも助けてくれるとばかり思ってはいけないだろう。
「あのさあ、これってファンタジーだよね?」
ふと疑問を呈した僕に対し、彼女は返答せずに意味ありげに微笑むだけであった。僕の
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選択3.中立を保つ
前回までの反省を踏まえ、僕はどちらにも付かない道を模索することにした。
しかし、両国からの侵略を受け、最短記録で滅亡してしまった。なお、数回繰り返してみたが、どちらに滅ぼされるかはランダムのようであった。
GAME OVER
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選択4.両方に付く
勇者側もダメ、魔王側もダメ、中立はもっとダメときて、ヤケクソになった僕は両国に付くという選択を取った。
といっても、あからさまにすることは出来ないため、表向きは勇者側に付きながらも、裏では魔王側と密約を交わし、情勢を見ながら両国への接近と離反を繰り返した。
この風見鶏、小判鮫、蝙蝠野郎の選択はあまり気持ちの良いものではなかったが、意外にも上手くいっているようで、今までの選択の中でも最長期間を更新することとなった。
やがて、終わりの見えない戦乱に両国の間には
両国は互いに勢力範囲を定め、不干渉主義を貫くことにしたようだ。ようやく世界には平和が訪れたが、残念ながら僕の国は魔王の勢力範囲内であり、その後滅亡した。
GAME OVER
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「あのさあ、これって詰んでない?」
さすがの僕も今回ばかりは遠慮せず不満を口にした。どう足掻いても絶望、もとい滅亡するとしか思えない。TRUE ENDもGOOD ENDもなければ、MERRY BAD ENDすらないのだ。
他にも選択肢があるのかも知れないが、僕はもうこれ以上、ゲームを続ける気にはなれなかった。
それは彼女にも伝わったようで、そっと僕の手からノートを受け取ると、いつもの笑みは姿を消し、神妙な面持ちで見つめてきた。
「国家の選択において、明確な正解があることなど稀である。それでも答えのない問題に答えを出し、正解ならずとも成功させねばならない。そして、これは何も国家に限った話ではない」
それはあまりにも遠大な話で、僕は彼女の言葉を正面から受け止めることは出来なかった。彼女はそんな僕にいつもの怪しげな笑みを向けると、もう時間も遅いので下校する旨を伝えてきた。
外はもうすっかり暗くなってしまったため、彼女の家まで送ることにした。こうして二人きりになるのは久しぶりであり、いつになくはしゃいだ様子の彼女を見ていると、本当の目的はこれだったのではないかとも思われた。
やがて
「あのゲームには正解があったのかな」
もう少し続けていれば、そこに辿り着けていたのかも知れない。彼女の頭脳を信じていれば、正解なき問題に答えを導き出すことが出来たのかも知れない。
しかし、それは同じことなのだ。大国に寄り過ぎることが危険であるように、彼女にそれを求めることも、また危険なのだ。
そんな僕の思考を読み取ったのか、彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。どうやらその答えにはお気に召してくれたようである。
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