第3話 パサパサな団子と、仲間との出会い
「父上、母上。僕は鬼退治のため、町に向かいます」
「おお、気をつけていくんじゃぞ」
老夫婦と桃太郎はなんともスムーズな会話をしていた。それもそのはず、若き神が前日の夜、夢の中で言い聞かせていたからだ。もはや洗脳に近いが、背に腹は代えられない。そして若き神は、寝ている桃太郎の枕元に、『日本一』ののぼり旗、それなりに良い服、刀の模造品をそっとプレゼントした。サンタクロースみたいに。桃太郎は別に不審がることなく着替えた。
「母上、きび団子をもらいたいのですが」
「おお、そうじゃった。じゃがすまんの……、きび団子の作り方を知らなくての」
「えっ!?」
桃太郎は驚きの声を上げた。若き神も驚いた。まさかの盲点。このままでは、台本通りに鬼退治に出発できない。
「じゃが、なんとか似た物をこしらえた。これを、きび団子としてもっておいき」
小麦粉を水で練って、丸めて、湯がいて、大豆の粉を大量にまぶした、パサパサの団子だった。若き神は思った。食いたくないな、それ。
「ありがとうございます、母上!」
かくして桃太郎は老婆からきび団子とは程遠い、パサパサの団子をもらうと、勇ましく家を出た。しばらく山道を下っていると、腹を空かせた野犬が急に飛び出してきた。若き神はチャンスだと思った。犬を仲間にしなくてはならないからだ。
『桃太郎よ、聞こえますか』
「あなたは、神に近いような近くないような、なにかさん! どうしました?」
『その犬を仲間にするのです』
「犬を仲間に!? どうしてです……?」
くそ上司(偉い先輩神様)の台本(桃太郎)にはそう書いてあるからだ、とは言えない。
『だ、大事な、過程だからです』
「なるほど、解りました」
桃太郎は素直だった。若き神の良心がちくりと痛む。
『で、では、きび団子を食べさせるのです。そうすれば仲間になりますよ』
「分かりました!」
聞き分けのいい桃太郎に、野犬が大きな口を開け襲いかかる。だが桃太郎は『武術の天才スキル』があるので華麗にかわした。そして、大豆の粉まみれのパサパサな団子を大きな口へ放り投げた。
「ゴフッ!? ゴフッ!?(な、なんだこのまずい食べ物は!? く、口の水分が!? も、持っていかれる!?)」
犬はしきりにむせ苦しむばかり。
「仲間になるような素振りを見せてくれませんね……」
『もっと食べさせるのです』
「ワウッ!? ワウッ!?(ちょ!? 口の中に入れないで、そのパサパサした不味いもの!! や、やめてくれぇぇぇ!)」
『犬よ、聞こえますね。あなただけに話しています』
「ワウッ!?(だ、誰だ!?)」
『今、目の前にいる少年、桃太郎という子の仲間になるのです』
「ワウッ!? ワウッ!?(はあ!? ふざけんな! なんで俺様がこいつの仲間に!)」
『いいのですか? でないと、あなたはずっとそのパサパサした団子を食わされることに……』
「ワウッ!? ワウ!?(ま、まじで!? いや、ちょっと、や、やめて、そのパサパサしたもの口に入れないで!! わ、わかった!! な、仲間になるぅぅーッ!!)」
犬は必死に、桃太郎の頬を優しくなめた。
「あはははっ! やめろよ、くすぐったい」
『良かったですね、桃太郎。その犬はもうあなたの仲間です』
こうして、まず無事に犬が仲間になった。次は猿が必要らしい。すると、野生の猿がちょうど通りかかった。
『桃太郎、あの猿をじっと見つめるのです(※野生の猿を見つめたら怒るので良い子はマネしない)』
「はい!」
「キャッキャッ!!(ああん! われ何メンチきっとんねん、しばくぞこら!!)」
『桃太郎、あの猿も仲間にする必要があります。さあ、きび団子を、食わせてやりなさい』
「わかりました!」
桃太郎は猿の攻撃を華麗にかわし、パサパサの団子を、ケンカ腰に向かってきた猿の口元に無理やり押し付けた。
「キャッキャッ!?(な、なにすんねコラ!! や、やめッ、んん!? く、口の中が!? パサパサするぅぅぅ!? しかもマズッ!? なんやねん、これ!? ちょ、もう食いたくないからあああああ!!)」
『猿よ、聞こえますね。桃太郎の仲間になるのです。その団子を食いたくないのなら……』
こうして猿も、犬と同じ手口で、無事に仲間になった。お次は雉(キジ)か……。だが、雉は中々運よく出てこなかった。それではまずい。
『桃太郎よ、仲間と協力して山を探索し、雉を見つけるのです。そして、もうお分かりですね』
「もちろんです」
猿が木に登り目を凝らして見つけ、犬が追いかけまわし、隠れていた桃太郎が雉を捕獲した。
「ケンケン!!(ちょっと、わ、私を捕まえてどうするつもり!? えっ、なにその団子みたいな、ケホケホ!? こ、粉が喉に!? てかまずこれ!? いやく、くちばしに押し付けないで!?)」
『雉よ、聞こえますね。桃太郎の仲間になるのです。その団子を食いたくないのなら……』
こうして、必要な仲間が揃ったのだった。
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