第2話 成長と旅立ち

 昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 若き神は、日本のとある場所で、青空の上から、ポツンとある一軒家の様子を眺めていた。クソ上司(偉い先輩神様)が事前に探しておいてくれていたらしい。

おばあさんは、緩やかな流れの川へ着くと、洗濯を始めた。とても穏やかな光景で、平和だ。

 それを今からぶち壊そうとしている自分に負い目を感じる。だが、もう四の五の言っている場合ではない。何せ期限は7日間。失敗したら、……、クビに。そんなわけにはいかない、エリート街道を歩んできた自分に傷がつくなど許せない。それに成功したら、昇進する可能性大なのだ。早く偉くなって、あのクソ上司(偉い先輩神様)を痛めつけてやる。

 若き神は腹を決め、転送魔法を唱えた。すると川上に大きな桃(人間の赤ん坊が入るサイズ)が出現し、川下へ流れ出した。クソ上司(偉い先輩神様)が事前に桃を用意してくれていた。


「ややっ!? これはたまげたっ!? 今まで見たこともない、お、大きな桃が流れてくるでねえかぁ!?」


 おばあさんが驚いて大きな桃を凝視している。そりゃそうなるよな……。さて、ここからは、なっ!? び、BGMだと!? ……だ、台本通り、や、やるしかない。もう、どうにでもなれ。若き神は口を開いた。


『ど、どんぶらこ、どんぶらこ……』


「ややっ!? も、桃からなにやら音色が!? た、たまげた……」

『どんぶらこ、どんぶらこ……』


 若き神の美しい声音にのせ、大きな桃はおばあさんのいるところへ流れていく。


「いや~、ほんと見事だなあ」


 おばあさんは洗濯も忘れ、大きな桃を見つめていた。あ、あれ? おばあさん、もしかして……、拾わない!? それは困る、何としても拾ってくれないと。


『どんぶらこ、どんぶらこ……、ひ、拾うのです、そこの老婆よ……』

「やや!? あ、頭の中で声が!? こ、これは一体!? も、もしや、神様!?」

『……、に近いような近くないような、何かです。さあ、それより、拾うのです。老婆よ、あなたは選ばれたのです』


 若き神は聴こえの良い言葉で濁した。神が実在する事を人間に知らせてはダメなのだ。老婆は困惑しながらも、『選ばれた』というありがたい言葉を胸に、巨大な桃を掴んだ。


「ややっ!? お、重くて、持ち上がらな……! あっ、きゅ、急に力が!!」


 若き神は老婆に一時的に、筋力倍化の魔法をこっそりかけた。そして老婆は巨大な桃を手に、自宅に持ち帰った。

 芝刈りを終え、戻ってきたおじいさんは、巨大な桃を見て驚愕した。そんな不気味な物捨てて来なさいと言いだしたので、『老父よ、いけません、罰があたりますよ』と、若き神がまた頭に直接忠告したので、なんとか事なきをえた。

 そして、桃を割るときは、若き神が最新の注意を丁寧に言い聞かせながら行われ、無事に、赤子が出てきた。桃汁まみれの泣きじゃくる赤子が。

 この赤子は、とある貧しい村で、実の両親に捨てられていたとのこと。だからこの子を選んだ。と、クソ上司(偉い先輩神様)の台本『桃太郎』に書いてある。若き神は頭を抱えた。いくら捨て子とはいえ、身勝手な行いに巻き込んだこと、桃汁まみれにしたことに心を痛めた。なので、この子には『言語堪能スキル』と『武術の天才スキル』というチートを授けた。せめてもの償いだった。

 さて、老夫婦は桃から赤子が出てきて気絶しそうになったが、『この子は選ばれた子なのです、さあ今日からあなた達の我が子となるのですよ。あっ、名前は桃太郎とつけてください』と優しくさとした。

 老夫婦は子宝に恵まれなかったこともあり、「これもさだめかのぉ」と、なんか勝手に悟って受け入れてくれた。人間というのは、急激な環境変化にも対応する強き生き物なんだな、と若き神は感心した。

 かくして、老夫婦と桃太郎の生活が始まった。ほん来ならば、時間をかけ桃太郎の成長を老夫婦に楽しんでもらいたいが、そうも言ってられない。時間は7日間と限られている。若き神は6日間限定で、桃太郎に『超早熟』の魔法をこっそりかけたのだった。


 次の日、桃太郎はもう1歳になっていた。


「こりゃたまげた!? な、なんでこんなに大きく――」

『選ばれた子なのです。あと安心なさい、6日後以降は、普通の子と同じ成長スピードに戻るので。6日間だけだから、ほんと、目をつむって下さい』


 若き神は懇願する声で老夫婦に頭の中で話しかけ、誤魔化した。すくすく、立派な男の子へ育ちまくる桃太郎。6日目を迎え6歳になった頃、旅たちの日を迎えた。そう、鬼退治である。

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