#7
「でも、そうなると問題はカナよね」
と、アリサはすやすや眠るカナを見た。
「この子だけ無関係なんてことありえる?」
「そりゃ……あり得なくはないだろ」
「そもそも『秘密基地』のために集まったのも偶然だったんだし」
「いや、それ違うと思うよ?」
アリサは言った。
「だって、あたしがこっちに引っ越してきたのは小学校に入ってからでしょ? つまり転生してから6歳くらいまで、あたしは兵庫にいたわけだし」
「そういえばそうだ」
考えてみたら、ここにアリサがいるという事実は、ただの偶然にしてはでき過ぎているように思う。
「まぁ、生まれた瞬間はここにいたらしいんだけどね」
「そうなのか?」
「うん、あたしが生まれたことがきっかけで、パパがレストランで仕事するために都会に出て、それから帰ってきたのよ」
「なら、こっちに帰ってきたのは偶然……にしては確かにでき過ぎてる」
「それに」
アリサはカナちゃんを見ながら、懐かしそうに笑った。
「カナと出会った時、なんだか運命みたいなものを感じたのよ」
「運命?」
「うん。ウチ、引っ越してきてすぐの頃、言葉遣いのせいで『ヤクザ』なんて変なあだ名をつけられて」
ああ、そういえばそんな話があった。
たしかそれでちょっと孤立して、カナちゃんが味方をしたことでうまくクラスにとけこめるようになったんだ。
「あったなぁ……」
「ていうか、お前ちょっとわざと怖くしてなかったか?」
「うん、バカにされるのが嫌で、わざときついこと言ったりしてたわね」
「覚えてるぜ。オレのこともよく『アホ』って言ってただろ。この辺じゃ『アホ』はただの悪口にしか聞こえないからな」
なんでも、関西のほうじゃ「アホ」は挨拶がわりみたいなんだそうだ。
この辺だと「バカ」はまだ許されるけど、「アホ」と言われたら本当にバカにされた気になるんだよな。
「あの頃は悪かったわよ。でも、カナが味方してくれて。関西弁は可愛いからそのままでいい、でも、もっと優しく話した方がいいよ、って」
「へぇ……」
「カナちゃんがねぇ……」
すやすや眠るカナちゃんは、まるで幼稚園児のようだ。
でも、実はメンバーの中でも一番大人だったりすることを僕は知っている。
でも、そうか。
そうなると、やっぱりカナちゃんだけが『ウィンスター教会』と無関係なんてことは、やっぱり考えづらい。
▽
「普通にアイリスじゃねーの?」
ケンゴがそんなことを言った。
「他にいねぇだろ」
「まぁ、言いたいことはわかる。カナちゃんが死んだ『ウィンスター教会』の関係者だったと仮定すれば、あとはアイリスかカルロスしかいないわけだし」
しかし、アリサが残念そうに首を左右に振った。
「アイリスはあり得ない、と思う」
「なんでだよ?」
「アイリスはああ見えて上級精霊だからよ。そもそも᭼᭐᭑᭒の輪からは離れた存在なんだから……」
「ん、なんて?」
「あ、えーと……᭼᭐᭑᭒……日本語だと、輪廻転生、かな」
「ああ……」
「ちょっとだけ違う概念だけどね」
アリサのその辺りの知識は、ハーフエルフという前世の生まれ由来だ。
たしかに、日本語で代わりになる言葉がなくともおかしくはない。
「上級精霊はもっと自由な存在よ。顕現したいときに顕現するだけで、
輪廻転生……前世はおろか、ダイチとしても馴染みがない概念だ。
そして上位精霊はその輪廻の輪の外にいる存在だという。
「でも、そうなると、あとはカルロスか……」
「全然ピンとこないけどね」
「でも、他にはいねぇし……」
「オリヴィアは、あの時一緒にはいなかったもんな」
「仮に、あの時オリヴィアがいたとしても、カナとオリヴィアが結びつかねぇし」
3人でうーんと悩む。
「じゃあ、やっぱアイリスしかいねぇじゃん」
「うーん、でも、上級精霊ともあろうもんが、わざわざ輪廻を使ってまで人間に転生なんてするかなぁ」
「何か意味があるとか?」
「確か……上級精霊には『悪意』がそもそもないんだっけ?」
ケンゴの言葉に、アリサはゆっくり首を横に振る。
「悪意どころか、善意もないわよ。良心くらいはあるけど」
「そうなの?」
「そうなのよ。人間の感覚じゃ理解できないっていうか……だからよく『精霊は、面白いか面白くないかだけが価値基準』とか言われるわね」
「それって、例えば面白ければ人に害を成すこともあるってこと? いや、アイリスはそんなことしねぇだろうけど」
「ないわね」
アリサはキッパリと答えた。
「精霊は単純に人間が好きなのよ。善人も悪人も関係なくね」
「ええ……」
「悪人も?」
「そう。なんせ、人間がどんだけ悪さをしようと、精霊に害することなんてできないから、歯牙にも掛けないわ」
「へぇ。そういや酒場で酔っ払いとよく絡んで歌ってたりしたなぁ」
「アイリスを捕獲して売り飛ばそうとしてたやつを操って踊らせたりしてたな」
アイリスの昔話を思い出すと、本当に前世に戻ったような気がする。
だが、今のぼくたちはあくまで小学生で、「ウィンスター教会」ではなく「秘密基地」の仲間だ。
もう過去の話だ。
どんなに懐かしくても。
「まぁ、相手が誰でもお構いなしに、みんなが楽しければそれでよしってのが精霊なのよ」
「その割にグレンに懐いてたが」
「あれねぇ……もしかすると、精霊も恋をするのかもね」
「恋……小っ恥ずかしい!」
「あるいはペット?」
「台無しだ!?」
まぁ、今となっては分かりようのない話だ。
「でも、あまり急いで叩き起こすようなもんでもないでしょ」
アリサは眠るカナちゃんに近づいて、ほっぺたを突っついた。
なにそれ。ぼくもやってみたい。
「そもそも、この子はもう少しゆっくりさせてあげたい。無理に起こしたりするんじゃなく、本人が思い出したくなってからで十分」
「まぁ、それが一番無難だよな」
まぁ、なんにせよ。
また一人前世の記憶を取り戻しだのだ。
前世の最期の謎に迫ることができるかもしれないが、それ以上に……できればもっともっと、前世にはできなかったたくさんの冒険がしたい。
それはきっと、ぼくだけじゃなく、アリサやケンゴ、そしてコータやカナちゃんだって同じ気持ちのはずだ。
===
※作者注:
ダイチのカナへの呼びかけが「カナ」「カナちゃん」、自分を「僕」「俺」のように揺らぐのは、感覚が「ウィンスター教会」と「秘密基地」で行ったり来たりするからです。
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